優しい"説"
何度でも読み返したくなる漫画がある。
「ミステリという勿れ」
あらすじは、読んでもらうのが一番いいと思うので、ざっくりと。
整くんという大学生が、いろんな事件を「僕は常々こう思ってるんですけど」ってめちゃくちゃ長く語りながら解決する話です。
ミステリー系統が好きというのはもちろんだけど、何度も読み返したくなる理由は、整くんの語りの魅力にある。
本当にあるのか調べたことはないけれど、現象や人の状態にたくさんの説を語ってくれる。それらの説に漫画の中の登場人物たちは救われたり導かれたりしているけれど、読者の私も同じように整くんの語りに救われる。出てくる登場人物も、どこか歪んでいて、時々暖かくて、寂しい人たちばかり。何度も何度も読んで、噛みしめたくなる。
その中でも、特に好きな説が二つある。
一つ目は、子供の心は固まる前のセメント
という説。だから大人は落としちゃダメという戒めとして語られる時もあれば、落とされた形で育った子供を救う意味で語られていると感じる時もあって、優しい説だ。
目の前の正しい行動や成果に目が向きがちだけど、心に何を落としているのかなと考えたら優しくなれる気がした。それに心のかたちも"落とされてしまったもの"と捉えてイメージすると、なんだかすこし許された気がした。
もうひとつは、育児について「子供の参観日に立ち会うことをメジャーリーガーは権利と思う」という説。
毎日のごはんづくりや仕事を、しなくちゃいけない義務と思うと毎日は義務に追われて楽しいことなんてないと感じる。でも、「大好きな夫にごはんを作っておいしいと言ってもらえる権利」を得ていると思えば、見える世界は大きく変わったように感じた。
仕事もそう。今の仕事は、私にとって「働かなくても生活できるならやらないけど、働かないと生きていけないなら、この仕事がいい」という位置づけ。その仕事を、働かないと生きていけないから、働かなきゃと思うか、子供たちの回復していく姿を近くで見られる権利を得て、生活のためのお金も得てると思うか。整くんの説ひとつで、きっと世界の見え方は大きく変わるんだと思った。
まだまだ整くんの生い立ちはわからないけれど、何かありそうだ。見え方ひとつで世界が明るくなる説をたくさん知っている彼は、どんな気持ちでその情報をインプットしてきたんだろう。なにかあるとしても、そういう方向の努力をしてきたんだと思うと、尊敬の念も抱きながら読んでいる。
続編も整くんの説が楽しみだ。
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