新型コロナウイルスは変異するたびに弱毒化するのか(BA.4株、BA.5株について)

【2022.07.15】BA.4株およびBA.5株についての研究データが更新されたので改訂しました。

2022年5月末現在、日本で流行している主要な変異株はオミクロン株のBA.1系統からBA.2系統へと変遷している。世界ではBA.2.12.1株やBA.4株、BA.5株の流行が拡大しており、日本でも市中感染でBA.2.12.1株やBA.5株が検出されたことから、今後、BA.2.12.1株やBA.4株、BA.5株の感染が広がることが予想される。

[2022.07.15改訂&追記]
査読前論文 “Virological characteristics of the novel SARS-CoV-2 Omicron variants including BA.2.12.1, BA.4 and BA.5” によると、これらのオミクロンBA.2.12.1株やBA.4株、BA.5株の感染性および病原性は、
(論文の内容が間違っていたというわけではなく、上記の論文ではBA.4株とBA.5株はスパイクタンパク質の部分だけをBA.4株とBA.5株に似せた人工ウイルスを使っていましたが、下記の論文ではヒト患者から単離した本物のBA.4株とBA.5株を使っていますので、実像に近いと私は判断しました。)

[2022.07.15追記]
査読前論文 "Characterization of SARS-CoV-2 Omicron BA.4 and BA.5 clinical isolates" によると、BA.4株およびBA.5株のハムスターの肺での増殖性と病原性は
BA.4株およびBA.5株は
・病原性はデルタ株より低く、BA.2株と同程度。
・肺でのウイルス増殖性はデルタ株より低く、BA.2株と同程度。
・BA.5株はBA.2株より早く増殖するが、BA.4株はBA.2株と同程度。

感染性

BA.1株よりもBA.2.12.1株およびBA.4株、BA.5株の感染が拡大している要因としては、
① スパイクタンパク質の452番目のアミノ酸に変異があり、この変異のおかげでヒト細胞の受容体との親和性がBA.1株よりも高くなり、ウイルスの感染性が増加している。この変異はデルタ株やラムダ株でも見られ、同様にデルタ株やラムダ株の感染性増加の要因と考えられている。
②BA.4株およびBA.5株のスパイクタンパク質では、アルファ株で見られたHV69-70del変異も存在し、この変異のおかげでBA.1よりウイルスの感染性が増加している。この変異はアルファ株の感染性増加の要因と考えられている。
これらの複数の変異が存在することで、ヒトの培養肺細胞や動物の肺での増殖性が増加しており、流行株がBA.1株からBA.4株/BA.5株へと変遷していると考えられる。

病原性

[2022.07.15改訂]
BA.4株およびBA.5株はBA.2株より合胞体形成を起こしやすい。少なくとも動物では合胞体形成は病原性と相関性があることから、BA.4株およびBA.5株はBA.2株より病原性が高いことが予想される。

抗体回避
スパイクタンパク質の452番目のアミノ酸変異は感染性の増加の他にも中和抗体の回避にも寄与しており、ワクチン接種や治療用抗体薬、オミクロンBA.1株感染による抗体が効きにくくなっている。
i) 査読前論文 ”Sensitivity of novel SARS-CoV-2 Omicron subvariants, BA.2.11, BA.2.12.1, BA.4 and BA.5 to therapeutic monoclonal antibodies
ii )査読前論文 “Differential Evasion of Delta and Omicron Immunity and Enhanced Fusogenicity of SARS-CoV-2 Omicron BA.4/5 and BA.2.12.1 Subvariants

さて、お題の「変異するたびに弱毒化するか」を考えるうえでの知見は、
・動物では、デルタ株は先祖と比べて病原性が高くなっている。
i) Enhanced fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Delta P681R mutation

・臨床研究でも、デルタ株はアルファ株やデルタ株以前の変異株よりも病原性が高くなっている。
i) Clinical and Virological Features of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Variants of Concern: A Retrospective Cohort Study Comparing B.1.1.7 (Alpha), B.1.351 (Beta), and B.1.617.2 (Delta)
ii) SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness
iii) Hospital admission and emergency care attendance risk for SARS-CoV-2 delta (B.1.617.2) compared with alpha (B.1.1.7) variants of concern: a cohort study

・オミクロンBA.1株はデルタ株よりも病原性が低くなった
i) Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant

・オミクロンBA.2株はオミクロンBA.1株よりも病原性が高くなっている可能性がある。
i) Virological characteristics of the SARS-CoV-2 Omicron BA.2 spike

[2022.07.15改訂]
・オミクロンBA.4株およびBA.5株はBA.2株よりも病原性が高くなっている可能性がある。
i) (査読前論文)
Virological characteristics of the novel SARS-CoV-2 Omicron variants including BA.2.12.1, BA.4 and BA.5

つまり、新型コロナウイルスのこれまでの変異を見ると、デルタ株で病原性Up、オミクロンBA.1株で病原性Down、オミクロンBA.2株やBA.4株/BA.5株で病原性Up、といったように、必ずしも病原性が弱くなる方向へと進化してきているわけではなく、まだしばらくは病原性はランダムに増減しそうである。
(薬や臨床知見が有効な範囲での変異を繰り返している間は、ウイルスの性質としての病原性と、重症者および死者の数とは必ずしも一致するわけではない)

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