3回目以降の新型コロナウイルスワクチン接種

3回目以降のワクチン接種に関するデータが集まりだしているので情報をまとめる。(2022年2月時点の情報で、査読前の情報を含む)
3回目接種の有効性については日経サイエンスの記事がよくまとまっている。

①3回目以降のワクチン接種によって誘導される抗体量

イスラエルでのmRNAワクチンの接種データから、時間経過とともに低下した抗受容体結合ドメインIgG抗体と中和抗体ともに4回目接種によって3回目接種後のピークレベルまで量が回復した。
(査読前論文)"4th Dose COVID mRNA Vaccines’ Immunogenicity & Efficacy Against Omicron VOC"

Gili Regev-Yochay et al. (2022) doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.15.22270948
Gili Regev-Yochay et al. (2022) doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.15.22270948

中国での不活化ワクチンの接種データでも、時間経過とともに低下した抗受容体結合ドメイン中和抗体量は回復したが、3回目接種後のピークレベルを超えることはなく、誘導される抗体も抗受容体結合ドメインだけでなく、抗ヌクレオカプシドタンパク質および抗N末端ドメインの割合が増えてきた。
(査読前論文)”Four doses of the inactivated SARS-CoV-2 vaccine redistribute humoral immune responses away from the Receptor Binding Domain

Ji Wang et al. (2022) doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.19.22271215

まとめると、4回目以降は免疫応答を3回目以上に高めるのではなく、時間経過とともに低下した免疫応答をピークレベル(3回接種レベル)に回復させるだけの可能性がある。

②変異株特異的なワクチンが有効かどうか(抗体の質)

新しい変異株が出現するたびに、それに合わせたワクチン接種が必要か、は議論は色々あるが、オミクロン株に対しては情報が出始めている。

マウスの実験では、
武漢株感染マウスの血清は、アルファ株およびデルタ株に有効。ベータ株およびオミクロン株には無効。
デルタ株感染マウスの血清は、武漢株、アルファ株、デルタ株およびオミクロン株に有効。ベータ株には無効。
オミクロン株感染マウスの血清はオミクロン株にのみ有効。武漢株、アルファ株、ベータ株、デルタ株には無効。
(査読前論文)”Limited Cross-Variant Immunity after Infection with the SARS-CoV-2 Omicron Variant Without Vaccination

オミクロン株特異的mRNAワクチンはオミクロン株に対する強力な中和抗体応答を誘導するが、D614G株、ベータ株、デルタ株は中和できない。
(査読前論文)”Omicron-specific mRNA vaccine induced potent neutralizing antibody against Omicron but not other SARS-CoV-2 variants

つまり、オミクロン株特異的なワクチンはオミクロン株に対しては有効だが、他の変異株に対しては効果が低い可能性が高い。

では、なぜオミクロン株で誘導される抗体は他の変異株に対しての交差性が低いのか。
アルファ→ベータ→デルタ→オミクロンと順に進化してきたわけではなく、特にオミクロン株は他の変異株と比べてスパイクタンパク質の抗原性が全くの別物になっていることが報告されている。
Towards SARS-CoV-2 serotypes?
(査読前論文)”Mapping the antigenic diversification of SARS-CoV-2
(査読前論文)”Omicron BA.1 and BA.2 are antigenically distinct SARS-CoV-2 variants
なので、オミクロン株で誘導される抗体は他の変異株には効果が薄いということなのだろう。
(ちなみにオミクロン株にはBA.1やBA.2などその中でも分岐しており、BA.1とBA.2は別の変異株と言っても過言ではないほど別物なので、オミクロン株BA.1に感染してもまたオミクロン株BA.2に感染することは考えられる。)

Etienne Simon-Loriere & Olivier Schwartz (2022) https://rdcu.be/cHQOU

では、逆に現行のワクチンがなぜオミクロン株にもある程度効果があるのか。それは、抗体免疫が時間経過とともに成熟することも一因と考えられている(最初に紹介した日経サイエンスの記事も参照)。ウイルスに結合できる抗体の割合は、ワクチン接種や感染直後は少なく、しばらく経過して作られる抗体の方が結合できる割合が高いことが言われている。(例えば、初日に作られる抗体は20%しかウイルスに結合できないが、数日経って作られる抗体は60%がウイルスに結合できるイメージ)
これは胚中心で抗体を作るB細胞が自己の抗体遺伝子に変異を入れることで、より効果の高い抗体を作るようになるからである。そして、胚中心でB細胞が訓練する時間が長いほど質が向上する。mRNAワクチン接種後6ヵ月経過しても胚中心にB細胞が存在し、質の高い抗体へと進化し続けていることが報告されている。
Germinal centre-driven maturation of B cell response to mRNA vaccination
また、mRNAワクチン2回接種後に誘導された記憶B細胞に保存されている抗体を解析すると、中和活性をもつ抗体のうち、約30%の抗体がオミクロン株への中和活性を保持していることも報告されている。
SARS-CoV-2 Omicron-neutralizing memory B-cells are elicited by two doses of BNT162b2 mRNA vaccine
こういったことから、現行ワクチンを3回接種することでオミクロン株に効果がある抗体の量も増えることである程度は効果があるのだろう。
また、ワクチン接種を3回することで、キラーT細胞などのT細胞応答もより強化されることが報告されている。
(査読前論文)”Resilient T cell responses to B.1.1.529 (Omicron) SARS-CoV-2 variant

以上をまとめると、
オミクロン株よりさらに武漢株とは抗原性が離れた変異株が出現しない限りは、現行のワクチンはある程度有効だろう。また、次の変異株がどのような抗原性を示すかは不明なため、オミクロン株特異的なワクチンのメリットは普通の免疫状態の人にはあまりないだろう。
そして、インフルエンザワクチンのように新型コロナウイルスワクチンも抗原的に離れた色々な株を基にした多価ワクチンになるという情報もある。また、各株に共通する部分を基にした普遍的なユニバーサルワクチンの開発も行われており、今後はこのようなワクチンを打つことになるかもしれない。

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