新型コロナウイルス検査に必要なウイルス量

新型コロナウイルスの検査でどのくらいのウイルス量を採取しないと陽性にならないかを大雑把に計算してみる。

まずは、ゴールドスタンダードのラボベースのreal time RT-PCR法で考える。手引きは国立感染症研究所の「2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」と「病原体検出マニュアル 2019-nCoV」を用いる。RNA抽出キットはこのマニュアルでも使われるQiagen社のQIAamp Viral RNA Miniキットとする。

(QIAamp Viral RNA Miniキットはフィルター濾過方式なので、フィルターに吸着させて回収するためにはある程度以上の濃度のRNAが必要である。なので少量の新型コロナウイルスのみからではRNA抽出は不可能であるが、検体中には他のウイルスや細菌も存在しているので、他由来のDNAやRNAと合算すれば少量の新型コロナウイルスでも抽出が可能と仮定する。したがって、ここでは便宜上、検体中に新型コロナウイルスが10個しか存在しなくてもRNA抽出が行えるとする)

計算で使用する数値以外は省いて説明すると、鼻咽頭をぬぐった綿棒は1~3mLのウイルス輸送液に懸濁される。この懸濁液のうち、140 μLがRNA抽出のサンプルとなる。RNA抽出の最終手順で60 μLの抽出液が用いられるが、最終的に回収できるのは55 μLくらい(液量は1割程度はロスする)。このRNA抽出液55 μLのうち、real time RT-PCRで使われるのが5 μL

「病原体検出マニュアル 2019-nCoV」によると、検出限界はプライマーN セットは7コピー、プライマーN2 セットは2コピーのウイルスRNAとある。プライマーN2セットが反応を示すと陽性と判定して良いということなので、検出限界は2コピーのウイルスRNAとする。では、この数値から上記の手順を遡って逆算していこう。

real time RT-PCRで使われるのが5 μLでこの中には2コピーRNA。となると、RNA抽出液55 μL中には22コピーRNA。RNA抽出に使用したウイルス輸送液は140 μLなので、この140 μL中には22コピーRNA分のウイルスがあったことになる。ウイルス輸送液は1~3mLあるので、その中には157~471コピーRNA分のウイルスが存在する。つまり、綿棒には157~471コピーRNA分のウイルスが最低限付着している必要がある。

この数値はフィルター濾過方式のRNA抽出の性能限界を勘案しない液量だけから算出した大雑把な理論値であり、実際の臨床ではその他にも、綿棒から全てのウイルスが放出されなかったり、RNA抽出の工程でロスすることになるので、検出限界となるRNAコピー数はもっと大きな数値となる。

鼻咽頭の数か所を突っつく綿棒にこれだけの数のRNAコピー数分のウイルスを採取する必要があるとなると、鼻咽頭の全体で考えると数倍~数十倍のウイルスは少なくとも存在するだろう。すなわち、鼻咽頭にウイルスが数個や100個付くだけでは新型コロナウイルスのPCR検査で陽性反応を示すことはない


次に、抗原検査キットの検出限界を大雑把に計算したい。

富士レビオ株式会社の抗原検査キット「エスプライン SARS-CoV-2」は厚生労働省が行った臨床試験で、PCR検査との一致率が行政検査では、

1,600 コピーRNA/テスト以上の検体に対して一致率100%(12/12 例)、400 コピーRNA/テスト以上の検体に対して一致率 93%(14/15 例)、100 コピーRNA/テスト以上の検体に対して一致率 83%(15/18 例)、となった。

このテストに使われたサンプルは鼻咽頭をぬぐった綿棒を1~3mLのウイルス輸送液に懸濁したもの (PCR検査用) である。この懸濁液を2滴 (20 μL) をテストに使用している。したがって、1~3mLのウイルス輸送液に存在するウイルス量=綿棒に付着している必要があるウイルス量は

一致率100%だと、80,000~240,000コピーRNA分のウイルス。      一致率  93%だと、20,000~60,000コピーRNA分のウイルス。       一致率  83%だと、5,000~15,000コピーRNA分のウイルス。

実際の臨床では、抗原検査用の綿棒を使用して、懸濁する液量も少ないので、この計算よりは検出限界のウイルス量は少ないと思われますが、   PCR検査だと157~471コピーRNA分のウイルスが検出限界だったので、抗原検査だといかに多くのウイルス量が必要なのかが感じられたと思います。

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