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【詩と心と声】シリーズ集

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女優・望木心の心の中を現代詩で綴っております。Twitter、Instagramで公開した内容をアップしてゆきます。新しい詩も掲載予定。心が寄り掛かりたい時、癒されたい時、優しく…
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#恋愛

幸福の最中

海の中に太陽が溶けてゆく 幸福の最中のように ずっと浸りつづけられたら あんたと 必ず夜はあるし必ず朝もある 気だるそうな顔にぬれた瞳 指であたたかな雫をすくう どこまでゆくのだろう 永遠ってなに いつか終わりが来ることは 分かりきっている そんなシラけた手紙は燃やして 粉にしてしまっていい あんたの血の温もりに指先がつながって ようやく分かり合えただなんて 死んでも冗談じゃない あんたのぬれた瞳が海に溶けた太陽みたい 波の飛沫に包まれて漂い感じるの 永遠に それだ

解答とゆらぎ

これが最後の恋だと ついさっき知ってしまった この時の私の脳内は 恐ろしい速さで論理的な結果を 導き出そうとしていた この考えと解答の揺らぎは 微塵も感じさせず 私はこの求め方にうなずいてしまった 「最後の恋」ならば 一生叶わなくて良いのだろうと思った 最後の恋は美しいものであるはずだから ほんの少しでも この回答を知ってしまう迄の時間が長ければ 私はもう少し女でいられたに違いない 女でいるまま、美しくあろうとするのは 私にとってとても難しいものだった 叶わないから

記憶の消滅

君のことをどうにかして 思い出すことも 隣にいた時の喜びだとか 全て、すべて消そうとしたのだ 砂のようにざらざらと風に吹き飛ばされた、 跡形もない上半身の自分自身を毎日想像した 風に飛ばされた砂は日常の空気中に混ざって 他と見分けがつかなくなるだろう ざらざらした感触が肌を汚していく 何もなかったように思い込む 記憶がそこだけすっぽり抜け落ちたように そうやって想像する 君を想い狂っていた 慣れようと努力していたあの時の感情さえもぶち殺して もう見えない これから先

またたき

心臓が震えている 胸の中に広がる小さな宇宙 たくさんの星が生まれては たくさん消滅している これがまたたき 流れ星が地球の大気圏に入り スーッと消える瞬間 心の中でつぶやく この時間が長く続きますように

あなたというあなた

ここのところ あなたのことをよく思い出します あの頃 あなたが私に与えてくれた美しいものがなんだったのか 私にははっきり分からなかった 十年も経ってようやく それが分かってきた気がします それは私が人生の中でずっと一番に欲しかったものでした やっと気付けた 今になって 私はあの頃のあなたと同じ年齢になります あともう少しで

右手小指を紙で切った 何かのサインのように はっきりと現れる赤い血 痛みや色や中にある汚らしい物を目にしないと人は分からない生き物なんだろう 小さく深い切り傷は アクセサリーの様に控えめに赤い かつてこの指先を握ってくれた人がいた そう思っていたけれど どうやら全然違う別の人だった 気付いた頃にはその人はいなくて 屋上で狭い空を見上げて 言葉にならない言葉で あの人の名を呟いた 幸福だと思える時に あなたの指を握り返して 守っていたら 痛みが鈍くなる

理由

心の激しさに 置いていかれて ビー玉は強く弾いて 大きな感情が 割れ狂った 隠して  息ができない そのことも 目を伏せて ようやく全てを 手放せる時に 私自身の存在の頬に触れる 「彼を心の底から愛している」 ビー玉のような大きな涙