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【ものがたりと心と声】シリーズ集

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女優・望木心の頭の中の想像力を短編ストーリー化。自分の体験ベースにフィクションを織り交ぜております。不思議な世界観がお好きな方、癒しが欲しい方に是非。週1回〜2回更新予定。
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#写真

大吉

大吉の葉っぱを切った その方が新しい葉が大きく育つからって お花屋さんが言ってた 大吉の腕から 真っ白な液体が出てびっくりした まるで血じゃないか 大吉が可哀想だと思った しばらくの数日間 大吉は元気がなかった 私は彼の事を傷つけてしまったんじゃないかと不安に思った 外は雷雨になっていた 私も血を流した 沢山たくさん みずから過去と今のハサミを使って 余りにも血が止まらず出続けるものだから 最初の強烈な痛みも麻痺していた 朦朧として横たわる あのひとを愛し続けたか

追い風〜ものがたりと写真と声〜

「ついでに朝メシ買い行こう」 10歳年下の彼はそう言って、玄関脇に置いてある私の自転車にまたがり視線を投げてくる。 私はそっと彼の後ろに乗った。 「重たい」と言われたので、強めに背中を叩いた。彼はカラカラと笑う。 夕闇から夜へ空が表情を変えてゆく。 彼の白いTシャツに小さなシミを見つける。私はそっと指先でその部分に触れる。 星が少しずつ姿を現してきた。 5年前の今頃も、こんな似たような事をしていたのを思い出す。出来たら今度は、違う道へ行きたい、そう思った。 ゆ

ある女のはなし〜ものがたりと写真と声〜

女は「記憶を何処かに落としてきてしまった」 そう、よく言っていた 何でもなさそうな顔をして淡々と私に言ってくる その度に私は 「あの時、君と私は笑い合っていたんだよ」と、教える しかし女は 「ああ、そうだっけ」 この繰り返しだった ある日、私がある事情で女の前から姿を消した時、私の部屋から女が録音したカセットテープがいくつも出てきた 女はラジカセで再生し、自分の記憶を見つけ始める 拾い出し確認すると、あちこちに傷があってなんとも可哀想だが優しさに包まれたよ