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【ものがたりと心と声】シリーズ集

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女優・望木心の頭の中の想像力を短編ストーリー化。自分の体験ベースにフィクションを織り交ぜております。不思議な世界観がお好きな方、癒しが欲しい方に是非。週1回〜2回更新予定。
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#創作

なりたいもの

穏やかな河の水の流れだった 輝く水の中で泳ぐ、この魚になりたいと思った 脚から頭の先っぽまで、肌という肌が水と一体になってゆく 魚になるより気持ちが良いかもしれないと高揚した 私は笑って何日もそうしていた しかしある日の夜 曇り空から強くすり抜けてゆく風が私の体をざわめかせ、流れが速くなる その内、雨が降り始めた 私は流されるまま岩にぶつかり、飛沫をあげながら 何日も何日も激しく体を揺さぶられた 油断していたら、いつの間にか私の体は二手に分かれた もう一方の私の体は分か

大吉

大吉の葉っぱを切った その方が新しい葉が大きく育つからって お花屋さんが言ってた 大吉の腕から 真っ白な液体が出てびっくりした まるで血じゃないか 大吉が可哀想だと思った しばらくの数日間 大吉は元気がなかった 私は彼の事を傷つけてしまったんじゃないかと不安に思った 外は雷雨になっていた 私も血を流した 沢山たくさん みずから過去と今のハサミを使って 余りにも血が止まらず出続けるものだから 最初の強烈な痛みも麻痺していた 朦朧として横たわる あのひとを愛し続けたか

最後の恋

鳥は先日、生きるか死ぬかの修羅場から抜け出したばかりだった。羽根は抜け落ち、青いグラデーションは汚れて乱れていた。そしてその瞳は冷え切り、凍えていた。 鳥は木々が多く茂った公園に一時的な居場所として住み始めていた。自分とはまるで違う生き方の鳥達の姿を目にする度に、鳥は知らず知らずの内に昔よく唄わされていた歌を口ずさんでいた。 強めの風が吹く春の日だった。その日、鳥は老人と出逢った。 老人は公園のベンチに一人腰掛けて、どこを見ているわけでもなくぼうっとしている。鳥は老人から