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「逃避」の手段としての喫茶店——飯塚めりさん『東京喫茶録』(カンゼン)

この秋、喫茶店観察家・イラストレーターの飯塚めりさんが、新刊『東京喫茶録』(カンゼン)を上梓されました。キュートかつシックなイラスト+鋭くも温かみのあるテキストで綴られた「喫茶店めぐり」のご本です。

飯塚さんの喫茶イラストは、いつもお店に滞在されている短い時間で描かれたもの。写真のように正確ではないし、お店の詳細な情報を網羅しているわけでもないかもしれませんが、そうしたある種の少なさや偏りが、独特の魅力を生み出しているなぁと思います。

そのとき描き手が感じたお店の雰囲気・ちょっとニッチかもしれないけれどグッとくるポイント……といったところにキリッとピントが合っていて、しかも読み手が想像を膨らませるだけの余白を持っている。お店の空気に浸ったまま描かれることで、独特のライブ感も生まれています。
オタク界ではちょくちょく舞台や映画の感想がイラスト形式のレポートとして発信されていますが、飯塚さんの記録はそうしたライブレポの喫茶店版とも言えるでしょう。

『東京喫茶録』内のテキストにも「喫茶店のビジネストークは至高のBGM」「ウエストは年上の女性に連れて行ってもらうお店」など、「わかる〜〜!!」と机に突っ伏したくなるような至言が満載で、マニア心がくすぐられます……。
行ったことのあるお店のコメントを見つけてはニヤニヤし、まだ行ったことのないお店は訪れる日を待つのが楽しみになる。とても豊かな楽しみ方ができる一冊だと思います。

喫茶店は裏切らない。キツキツな現実を生きる私たちの避難所

喫茶店への愛情と信頼、文化へのリスペクトを持っているところ。お茶を楽しみつつもあまりアッパーではなく、どちらかというとダウナー気味なところ。ちょっとオタク気質なところ。
全編を通して飯塚さんの人柄や喫茶観が伝わってくるのですが、本の最後、あとがきとして書かれた文章にも、その魅力が濃厚に表れています。ご本人の許可をいただいて下に抜粋させていただきました。

「喫茶店は裏切らない」
どんなに気持ちの浮き沈みがあっても、身のまわりの人たちと行き違ってしまっても、まわりの環境が変わっても、喫茶店はいつもそこにいて、同じ顔をして待っていてくれる。
喫茶店というのは、その人にとって一軒のお気に入りがあれば十分と思っています。その一軒は、まちがいなく日々の助けになってくれるもので、うきうきした気分のときはもちろん、つらいときに訪れても寄り添ってくれるし、なんでもないときに足を運んでも、日々の心の余裕をたくわえてくれるものです。(『東京喫茶録』おわりに より)

読んでみるとなんとなく「この文章を書いた人は、現実を生きるのがものすごく上手、というわけではないのかもしれない」という印象を受けるのではないでしょうか。

飯塚さんはこの『東京喫茶〜』シリーズとは別に『カフェイン・ガール』というカフェめぐり漫画も出版されていますが、この作品の主人公・メルちゃんは、襲い来る現実からひととき「逃避」する手段として喫茶を愛する女の子。
決して器用に生きられるわけではない、嫌なことも苦しいこともあるし、胸の奥には不安だって抱えている。それでもキツキツな現実とどうにか付き合っていこうとする人たちに、そっと寄り添ってくれる、そんな存在として飯塚さんは「喫茶店」というものを描かれているような気がします。

「喫茶『逃避術』ナイト Vol.2」を開催します

そんな飯塚さんと、11月16日の金曜日、『東京喫茶録』刊行記念のトークイベント「喫茶『逃避術』ナイト Vol.2」を開催します。場所は高円寺文禄堂、餅井もお相手として登壇させていただきます!

餅井はふだん、ミニコミ『食に淫する』やwebメディア「wezzy」にて連載中の「妄想食堂」など、食にまつわる文章を書くことが多いのですが、連載の中でも人気があったコラム「スタバの『システマチックな優しさ』がちょうどいいとき」は、飯塚さんとお茶をするなかで形になったものでした。

お互いに食や喫茶を愛しつつ、あまりポップになりきれない二人で「逃避の手段としての喫茶店」についてお話します。

今回のイベントでは、さまざまな形で襲いくる現実への「処方箋」のようなイメージで、「こんなことで悩んでいる」「こんなときに逃げ込めるお店が知りたい」といった声に応えてくれるお店を飯塚さんにピックアップしていただきます。
それに合わせて、来場される方々からのお悩み相談も受付中です〜。当日お越しの方もそうでない方も、よろしければこちらのフォームよりご回答ください。

イベントは11月16日(金)の19時半スタート、文禄堂高円寺店のイベントスペースで開催いたします。終了後はサイン会もアリ、ご本は当日お店でお買い上げもいただけますし、購入済みのものをお持ちいただいても結構です。

イベントのご予約はこちらのPeatixサイトから!
店頭・お電話(03-5373-3371)でも受付中です。

冬の気配を感じるこの頃ですが、あたたかい飲み物を片手にひとときトリップしてみましょう! ご来場お待ちしております〜。


☆飯塚めり『東京喫茶録』刊行記念トークイベント「喫茶『逃避術』ナイト Vol.2」
【日時】11月16日(金)19:30スタート ※受付開始19:00
【会場】文禄堂高円寺店イベントスペース
【参加費】1000円+ワンドリンク
【登壇者】飯塚めり:イラストレーター/喫茶店観察家。カフェインで酔える喫茶マニア。おばけ好き。早稲田大学第一文学部卒。コラムニスト事務所、出版社勤務を経る。著書に『東京喫茶帖』(カンゼン)、『カフェイン・ガール』(実業之日本社)。季刊誌『珈琲時間』(大誠社)にて「喫茶の効用」連載中。ほか『東京ディズニーリゾート便利帖』シリーズ(新潮社)、『ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)、『KADOKAWAの年賀状』シリーズ(KADOKAWA)など、様々な媒体でイラストを担当。2013年より、喫茶店めぐりミニコミ『別冊カフェモンスター』を制作中。
(聞き手)餅井アンナ:ライター。食と性、生きづらさについての文章を中心に執筆しています。webメディア「wezzy」にて「妄想食堂」、「マガジンtb」(タバブックス)にて「へんしん不要」を連載中。食と性のミニコミ『食に淫する』制作。

餅井が明るく平和・健康的な暮らしをしつつ、よりよい文章をよりよいペースで書いていくために使わせていただきます。