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「 kinmokusei / ジンくん(プールと銃口)」について

※上記埋め込みプレイヤーの右上[↓]マークから音源がダウンロード可能です。

kinmokusei

久々の採血。痛い痛いと喘いでる。
見たい未来はこの街には無いみたい。
あの人が死んだ夏、泣きじゃくって乗ったバス。
街は僕を問いただす。

まだ、答えはない。

指元に迫る熱源が怖くて諦めた恋だった。
焼け爛れた口の中から愛の言葉を舌で探した。
飲み込んでしまった 背負い込んでしまった。
喉元で詰まった気持ちが、

今も心の中にあるもの。
最後の言葉をまだ迷ってしまっている。
ねえ、終わらないでなんて言うつもりはない。
せめて、香らないでいて。金木犀。

「ねえねえ、言葉を聞かせて?」
彼は言った。枯葉掻き集めても、
書くべき言葉は見つからない。
もう嫌んなっちゃうな。

「意味のないことは無い」
「君がいればそれでいい」
そんなくだらない慰めは必要ない。
吐かれた嘘とか、疲れた体や、
突かれた心の痛いとこ。イメージしよう。
綺麗事ならもっと美しくなくっちゃ。
そう、こんな風に。

鶴の折り方も知らない
僕の祈りでも変えられる気がするの。
月でも城崎でもどこへでも
連れてってあげるよ、いつか。

叶わない約束の分、きっと
街は色付いて君の色になる。
いつのまに忘れた金木犀の香りを避けて歩いた。

今も心の中にあるもの。
最後の言葉をまだ迷ってしまっている。
ねえ、終わらないでなんて言うつもりはない。
せめて、香らないでいて。金木犀。

この記事について

2022年10月に作曲しMVを公開したジンくん(プールと銃口)の楽曲「kinmokusei」の歌詞のセルフライナーノーツに加え、

記事後半、「作曲の経緯」として、制作過程の実際のボイスメモ・デモ音源を掲載しながら、作曲の過程を有料記事として公開しています。

実際にあの完成形になるまでの過程、別バージョンのデモが聞けるので、よかったら活動資金のカンパも兼ねてご購入いただけると嬉しいです。

歌詞についてのセルフライナーノーツは無料公開しておりますので、そちらだけでも是非読んでいってくださいね。

歌詞について

・1番Aメロ

久々の採血。痛い痛いと喘いでる。
見たい未来はこの街には無いみたい。

去年の今頃から体調を崩し、随分快方には向かっているのですがまだ引き続き通院中の現在。ひっさびさに「改めて採血して検査もしとく??」との鶴の一声で採血をすることに。実際、注射はあんまり苦手ではなかったのですが、去年検査で一生分血を抜かれてぶっ倒れたのがトラウマとなり、そこから採血の際は基本的にベッドに寝っ転がらせてもらうことにしています。

体調不良から1年。会社も辞めたし、バンドの環境も生活の環境もガラッと変わって、「良いことなんて何一つない」みたいな気持ちになる瞬間もあったりします。先は見えないし、楽しかったこと好きだった人との距離感も変わっていって、取り残されているような気持ちになることも。
普段は元気なんですが、この採血で久々にその感覚を味わい、歌詞を書くモードになったというわけです。

あの人が死んだ夏、泣きじゃくって乗ったバス。街は僕を問いただす。
まだ、答えはない。

金木犀という花は個人的に強い思い出が2つありまして、
一つは、当時好きだった人と公園をお散歩している時に何気なく言った「俺って金木犀の香りがどの香りなのか一致してないんだよね〜」という一言を受けて、「こっち来て!これが金木犀だよ」と教えてくれた女の子との思い出。
もう一つは、赤い公園の津野米咲が亡くなった時、会社帰りのバスで赤い公園の曲を聴きながらふと香った金木犀の香りのこと。
今回は後者のお話です。

彼女は本当に素敵な音楽家でした。というと親交があったかのような物言いですが、ただの一ファンとして、本当にその訃報を重く受け止めていました。
赤い公園もボーカルが辞めて、新しくボーカルを迎え新体制で動き始めて数ヶ月、「これからバンドやったるぞ!!」の気概を感じる歌詞と、今までの赤い公園から考えても類をみない楽曲の完成度で、ファンはみんなこれからの赤い公園を楽しみにしていたと思います。そんな矢先の訃報に、ショックを受けて泣きながら乗ったバスのこと、今でも覚えています。

彼女がどんな人で、どんなことに幸せや苦しみを感じて、どうして毎日を諦めたのか。自分には想像もできませんが、自分は自分の人生と向き合う時、特に金木犀の香る時期になると、なんとなく津野米咲の死ことを思い出してしまいます。

一曲、赤い公園の大好きな曲を紹介します。津野の訃報の後にリリースされた、キャリア最後のシングルの曲です。

逆毛の街に風が吹く
ひと撫でしたなら
もうじき花が咲くだろう
それでも行くのかい
傷を負ってまで
ちいさな胸が躍る方へ

It's honesty 君が好き
ちょっと黒いくらいの
青い空がよく似合う
I pray for you それじゃ、またね
君の旅が
どうか美しくありますように

赤い公園 "pray"

・1番Bメロ

指元に迫る熱源が怖くて諦めた恋だった。
焼け爛れた口の中から愛の言葉を舌で探した。
飲み込んでしまった 背負い込んでしまった。
喉元で詰まった気持ちが、

お恥ずかしい話ですが、最近になって煙草を吸い始めました。やさぐれ煙草です。
煙草の歌詞といえば、キスのフレーバーだったり、シャボン玉との対比だったり、なんとなくパッと思い浮かぶ代表曲はいくつかありますが、自分が実際に煙草を吸ってみて思ったのは「手元に熱源があり、それが迫ってくる感覚」でした。

普通に怖い、でもその温かさがまた心地いい。不思議なものでそこに着目した表現はあまり見ないように思います。あんなに怖くて温かいのに。
何かの表現に使えないか、と取っておいたフレーズでしたが、いい使い方ができたと思います。

あと煙草の煙って吸うと結構熱いんですよね。吸い慣れていないこともあり、口の中が軽く火傷みたいになることもあって、結構何においても自傷に近い行動だと思うのですが、それにしても"良い"んですよねえ、煙草…
所作が全て美しいとか、何気ないタイミングがしっかりシーンとして成立したり、そういった魅力はまた今度別のところで語ることにしましょう。話を戻します。

「喉元で詰まった気持ちが、(咳払い)」は、21歳の終わりの日にでいう「残ったもの?…ああ、人並みの生活くらいかな」とか、SUMMER KILLS MEでいう「もう嫌だ!!ああ…」とかと同じ常套手段ですが、結構上手くハマりましたね。ちなみに個人的に特に元ネタというわけではありませんが、ハヌマーン/バズマザーズの山田亮一がそういうのよくやってるイメージあります。

・1番サビ

今も心の中にあるもの。
最後の言葉をまだ迷ってしまっている。
ねえ、終わらないでなんて言うつもりはない。
せめて、香らないでいて。金木犀。

先述の通り、香りって何かを思い出すトリガーになるものだし、もはや香り自体が「記憶」という情報の一形態なんじゃないかと思うくらいには強烈で、気持ちが大きく振り動かされるのでもはや「香らないでくれ!!!!」とも思ったりします。
金木犀をテーマに詞を書くにあたり、キンモクセイの香りが「して」からのことはもう書かれまくっているので、今回は香る前のその気持ちを拾ってみました。

ここまで来てこんな「多くは語らない」のかい!と思われてしまうかもしれませんが、最後の言葉って、悩みますよね〜…

・2番Aメロ

「ねえねえ、言葉を聞かせて?」
彼は言った。枯葉掻き集めても、
書くべき言葉は見つからない。
もう嫌んなっちゃうな。

こちら、個人的には今までの語り手とは違う視点からの一節になります。
「彼は」「枯葉」で韻を踏むチャレンジですが、実はずーーーーっと昔に一度やろうとしたことがあり、その曲は形にならずに眠ったままでした。
せっかくなのでそちらも掲載しておきます。

積もり積もった秘密が、傷が
枯葉のように舞い上がった。
キンモクセイの香りを忘れた。
秋はふたりの季節、でしょう?

踏みにじってきた数多の三つ葉。
彼が毎日を辞めた理由は?
逃げきれるかな「いつか、いつか」
彼は最期に何を思った?

夕方の街が嫌に静かだ。
「君に言わなきゃいけないことがあるんだ。」
世界の終わるその時に僕は、
何ができて、何ができないのだろうか?

涙になった歪な絆、
街が仕向けたドラマみたいだ。
見覚えのないこの地図で僕ら
サイダーの音の鳴る方へ。

弾き語りの没曲

結構そのまま今回の「kinmokusei」に近いテーマで書いていますね。
こちらは居なくなった友達を思って書いた歌詞(実際はポエトリーリーディングを前提とした詞)で、タイトルはありません。

一応時期的にはyouthful dead(曲)を書こうとした時に一部リファレンスにした形跡があるので、それの前くらいです。

・2番Bメロ

「意味のないことは無い」
「君がいればそれでいい」
そんなくだらない慰めは必要ない。
吐かれた嘘とか、疲れた体や、
突かれた心の痛いとこ。イメージしよう。
綺麗事ならもっと美しくなくっちゃ。
そう、こんな風に。

銃口のメンバーが稼働できなくなり現在1人でバンドを回していて色々苦労しているのですが、「銃口はジンくんがいれば銃口だよ!ファイト!」みたいな励ましをいただくことがありまして、大変ありがたいことです。そういう友達やお客さんがいるから活動ができています。でも、「本当にそれはそうなんだけどそういうことじゃないねん」とも思っています。

銃口というバンドはとっくに自分の手を離れているし、だからこそ辞めるに辞められないし、というか別に辞める気もないし、大変なだけでやりようはあるというのは色んな前例でわかっています。俺が言っているのは、ただ苦しい、というだけの愚痴なので、そういう励ましは少しズレているように感じてしまうんですね。

嘘を「吐く」という漢字の使い方、面白いな〜と思って、何回か歌詞にしようと試みたことがあります。以下はその時のメモです。

適当な花言葉で伝わるような愛なら要らない。
嘘を吐くように詩を吐くったね。
あなたの言葉は透明で、馬鹿にはきっと分からない。
馬鹿だから分からないよ。

没曲メモ

これは噛み砕いて言ってしまえば、「花言葉とか適当なモンにかこつけて嘘みたいな言葉並べて適当なラブソング書くなボケ」といった内容です。
基本的にヘイトのエネルギーで動くとろくなことがない、という考えなので、これはボツにしましたがソロならいいのかな?まあ、気が向いたら形にするかもしれませんが、そういうSSWにこれ以上言うことも熱量もないし、実際この頃より随分自分も大人になったので多分しないと思います…

「綺麗事」という言葉はマイナスのニュアンスで使われることが多いですが、自分は「理想を語る事、綺麗な事の何がいけないんだ」と思っています。もちろん、その場で何かを解決したい!と話し合いが行われている中で無責任に放り投げられる言葉だとしたら、無責任だと思いますが。
「そんなの綺麗事だ。実現なんてできっこない」と言われても、「理想はそうだし、それを掲げてそれに近付くことは諦めなくていい」と思うし、どんな辛いことをテーマにした時だって、素敵なことだけ言っていたい、と思って歌詞を書いています。普段の会話だって本当は悪口なんて言いたくないんだ…

だから俺は、「どうせ叶いもしない約束」が大好きだし、正論は正しいだけでなく美しいとも思うし、人の全てを褒めていたいし、クサいセリフとか素敵な表現をしっかりと自分の言葉で普段から使っていける人が好きだし、自分もそうありたいと思っています。

「綺麗事ならもっと美しくなくっちゃ」は俺の本気の哲学で、同じ「愛してる」でもどんな文脈で誰が言うか/言わないか、どれだけ素敵な表現で伝えられるか、表現の価値というのは本当にそこに詰まっていると思うんです。
ここから、俺の思う本当の「綺麗事」の列挙が始まります。

・2番サビ

鶴の折り方も知らない
僕の祈りでも変えられる気がするの。
月でも城崎でもどこへでも
連れてってあげるよ、いつか。

本当に、俺は鶴の折り方を知らなくて、この前好きな人に教えてもらったんですが(多くは語らないとっても良い話)またしっかり忘れて、結局よくわからないでいます。(要領の悪い話)
これは俺が先述した「金木犀の香りと名前が一致していなかった」ところにも重なっている、自分の中で大切なモチーフです。

千羽鶴、基本的にナンセンスな贈り物として扱われていますが、呪物としての効力はそこそこあるのではないかなあと思ったりもします。少なくとも、祈りを込めて折る、という行動にはしっかり力があると思いますし、気持ちを込めるという意味で一枚の紙を折り込んでいくことは、そのまま祈りを重ねることでもあるよなあ、と思ったりします。

とはいえ鶴は折れないけど、ちゃんと祈れはするので、綺麗事だとしても別に気持ちがあればいいんです。

「月でも城崎でもどこへでも」
こちらは、大好きなハヌマーンの一番好きな曲の一つ(一番が3、4曲ある)の「トラベルプランナー」からの引用です。

消耗して 命を使い切って 新しい存在になれるのなら
真夜中 一人きり呟いてしまう様な
僕は一節の言葉になりたい

笑った君の顔が好きで漠然と恋をしてしまう
纏ってる雰囲気が好きで漠然と恋をしてしまう
共通の話題が無い事に気づく前に

明かりもテレビも点けたまんまで疲れて眠ってしまった
行けもしない旅行の計画を浮かべながら
月でも城崎でも何処へでも飛び交うトラベルプランは
寝て起きたらいつもの朝が来て忘れちゃったよ…

こんにちは、世界中のトラベルプランナー

ハヌマーン "トラベルプランナー"

いくらなんでも良すぎるので、関係ないところも含め2番から最後まで引用しておきます。一番好きな曲だ。

行けもしなくてもいいんです。綺麗事でいいんです。「いつか絶対に行こうね。」って言わせてほしい。連れてってあげるよって、本気で思っています。
さよならだけが人生だ、なんて言いますが、まともにさよならだって出来ないのが人生だとも思います。いつかの話をして、それが宙を舞って、そこで時が止まってしまっても、だからこそずっとその過去が生き続ける、ということもあると思います。

叶わない約束の分、きっと
街は色付いて君の色になる。
いつのまに忘れた金木犀の香りを避けて歩いた。

そうやって叶わない約束は花になって、時折季節と一緒にその人と過ごした時間を思い出させてくれる。それはとっても幸せなことで、同時に残酷なことでもあります。
情けないことに、ふと、金木犀の香りを避けて歩いてしまうことがあります。そんな曲です。

・歌詞について、最後に

キンモクセイは本当に代表的な秋のモチーフで、たくさんの曲で使われてきていますが、「他では聴いたことのない使い方をしてみよう」「自分の価値観をしっかり投影した表現にしてみよう」と書き進めていった曲です。

「面白い!」「素敵だ!」ももちろん嬉しいし、「自分はそうは思わない」ももちろん素敵です。「自分にとって金木犀ってどんな花なんだろう」と考えるきっかけになったり、何か創作や思考の材料になったりするのもとっても素敵なことだと思います。この曲がそのまま金木犀のように、この秋を思い出させる花のような曲になったらいいな、とも思っています。

是非、改めて歌詞を見ながら、曲を聴いてみてください。


ここまで読んでいただきありがとうございました。よろしければ、感想などをSNSで共有していただけると嬉しいです。部分的な引用・スクリーンショットであれば全く問題ありませんので、是非グッと来たポイントなどあれば色んな方法で共有してみてください!


以下「作曲の経緯」として、制作過程の実際のボイスメモ・デモ音源を掲載しながら、作曲の過程を有料記事として公開しています。

実際にあの完成形になるまでの過程、別バージョンのデモが聞けるので、よかったら活動資金のカンパも兼ねてご購入いただけると嬉しいです。

作曲の経緯

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