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見切り発車で行こう

何かをスタートしたり、開発する時に大切にしていることがある。

それは「見切り発車」で行うこと。


十分な議論をせずに決定・実施してしまうことである。 
だからプロジェクトチームはなるべく少人数が良い。

私は日本人であるが故に、ついつい完璧を求めてしまう " きらい " があるが、そうなるといくら時間があっても足りない。

そこそこでスタートすれば、早く結果を知ることができるし、周りからの反応も伺い知ることもできる。

それを元に、より良いものに改良していくというわけだ。

 この「やり方」はアメリカの企業によく見られる手法で、「スピード」が最も大切だと考える合理主義ならではの " 仕事術 " である。

私は特にアメリカにかぶれているわけではない。
ただ「時間」が惜しいのだ。

だからと言って「適当」に仕事をしているわけではない。
走り出してみないと「結果」がわからないことを思慮しすぎて、商機を逃すことが最も恐いのだ。

どんなに使い勝手の良い製品でも、「商機」を逃しては売ることはできない。

かつて、パソコンのプロデュースを依頼された事があった。
それは2002年の夏の終わりのことだった。

嬉しかったことに、筐体のデザインと設計、アッセンブリーの手配などの生産管理まで総合的に受注したのだ。

通常、パソコンの開発は「2年」かかると言われているが、私は3ヶ月で「発売」まで漕ぎ着けることを目標としていた。

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そのデスクトップパソコンの「最大の特徴」は、フロントパネルの半分を占めるアクリルピラー。

アクリルの下部に取り付けた3色のLEDによって七色に発色し、アクリルに刻まれた「UNISEX」の文字が鮮やかに浮かび上がるという「世界最小インテリアPC」なのだ。

 ジェフ・ベックというギタリストの、音色を変える「3つのフェイズスイッチ」からインスパイアされた。その3つのLEDスイッチの組み合わせで七色の照明をデスクトップ上で楽しむことができる。

それほど大きくない間接照明でも、殺伐としたオフィスの雰囲気がガラリと変わる。

たったこれだけで、働く人々の「仕事に対する生産性と発想力」も劇的に向上するのだ。

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松嶋菜々子・福山雅治主演のフジテレビ系ドラマ「美女か野獣」( 2003年1月9日〜3月20日 ) の中の「テレビ局内」に配置された、すべてのPCに採用された。

ドラマのストーリーの中で「局の停電シーン」があったのだが、この照明だけが点灯していて視聴者からクレームがあったとか無かったとか・・・(笑) 

アクリルピラーをスチールの筐体に組み込むという「無謀なコンセプト」だったが、アイデアを出したのは " 私 " だ。

テレビの放映に間に合わせることはもちろん、秋葉原の各ベアボーンショップから3000台の発注も受けていたので、製造プロセスの見切り発車は " 絶対条件 " となった。

時間が惜しいこともあって、開発中はチームのメンバー達が「製品チェック」を夜を徹して行っていた。

 

そんなある日、私の携帯が鳴った。
午前1時頃だった。

「望月さん、大変です! UNISEXが火を吹いています!」( 笑 )

電源ユニットの不良による、発熱からの発火だった。

至急、台湾の部材メーカーに確認を急いだのだが、結果的に別の電源ユニットにしなければ逆に間に合わない。骨子の設計から変更を余儀なくされた。もう変更の嵐だ。

そんな紆余曲折はあったが、収録の日も迎えることができ、無事店頭にも並んだ。

全数の完売をもってプロジェクトは解散となったが、その後「アキバ不況」と言われる歴史的な事件が起こった。 

2003年3月。ベアボーンショップは軒並み倒産した。

T-ZONEのAKIBA PLACE、ベアボーン担当部長からの電話が鳴った。

「望月さん、すみません。うち閉店になります・・・」

その時、T-ZONEの新しいPCのプロデュースを依頼され、設計を行っていた最中。

部長は涙声だった。私も泣いた。


 もし「見切り発車」的な手法で設計・製造していなかったら・・・。UNISEXというインテリアPCは世に出ていなかった。

今になって言えることだが、あの2003年が最後の「商機」だったのだ。

秋葉原はもう、かつての「アキバ」ではない。
時代が移り変わるのも仕方のないこと。

 

「商機」ってやつは、予測しようと俯瞰で見ようと誰もわからない。

だからこその「見切り発車」なのだ。

 

 それじゃあ、また。

 

 

 

 

 

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