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【第一章 出会い】 パンツの中のパンツ様

その「奇跡」とも言える出来事は、自分の中ですでに「今期、最も印象に残る出来事で賞」で見事大賞を受賞していましたし、もう「その存在」を否が応でも意識せずにはいられませんでした。

その赤いパンツに対する気持ちは、もう以前のそれとは違います。
はっきり言って、サブの赤いヤツがもう一枚欲しいくらい。

その時、何で自分で「その赤いパンツ」が奇跡を起こしたと思ったのかはわかりませんが、良いことが起こった時って、何かを変えたりした時だったりしませんか?


あれだけ履きたくないとか言ってたくせにー。

あれだけ俺は黒じゃないとだめなんだとか言ってたくせにー。

あれだけ友達の前でズボンが脱げちゃったらどうするんだよとか言ってたくせにー。


ダメダメ!
妻にそう言われる想像をしただけで、気恥ずかしい気持ちがこみ上げてきます。
心の中の悪友も「ひひひ。言えるのか〜?あんたの女房にさ〜」と、からかってくる始末。

「実はさ俺、この赤いパンツをすげー誇りに思っているんだ」

などとは、やっぱり口が裂けても言えません。

しかし、「赤いパンツ」が洗濯されている間は、引き出しの中に早くお目見えしないか待ち遠しかったですし、「あれ〜赤いパンツはまだなんだねー?ううん。別に。」と、さりげなく催促もしてみたり。

満を持してスタンバイOKになった時は、「YES!○○クリニック!」と心の中で軽くガッツポーツをして、何食わぬ顔で下半身を包み込みます。

「よーし、今日も売上が上がるぞ〜」と パンツをぐるぐる振り回しながら、ラテン系のリズムで奇妙なステップを踏み、丁寧に気持ちを込めて足を入れさせていただくのです。

「その赤いパンツ」を履くと、本当に「ちょっと小躍りするくらいの売上」がありましたし、予定もしていなかった良い話も舞い込んできていたのです。

そして、その後も自分にとって都合が良いことが起きる時は、決まって「赤いパンツ」が下半身を包み込んでいる時でした。

もう完全に「赤いパンツ」に信頼を寄せている自分がいます。
もちろん黒パン信者であることなんて、もうどうでもよくなっていました。



そんなある日、「デザインコンペに参加してみませんか」と知り合いからお声がけ頂いたのです。

それは、誰でも知っている大手電気メーカーのパッケージデザインコンペティションでした。
コンペってあまり気乗りがしないのですが、弱小会社が生き残るためにはそんな悠長なことは言っていられません。

もちろん、勝つ自信があったわけではありませんでしたが、結果が出る前から「失敗するに決まっている」「そんなにうまくいくわけ無いじゃん」「多分こんな結果になるんじゃないかな」みたいな予測って嫌いなんです。

パソコン系のパッケージ分野では、すでに何社か実績もありましたし、秋葉原まで何度も出かけて、自分なりのマーケティングリサーチなんかもしていたので、力試しみたいな気持ちもあったのでしょう。

ただ、さすがに大手メーカーのコンペだし、簡単にはいかないなと感じてはいました。
その後のお話でなんと16社の争いだという事を聞き、さすがに辟易しましたが・・・。

ライバルの数もそうですが、参加コンペティターの殆どが、大手広告代理店や有名デザイン会社らしいのです。結局ライバルの名前が明かされることは最後までありませんでしたが、担当の方がお話されているニュアンスでそれがわかりました。

うちは起業3年目の弱小アンダーグラウンド・デザインカンパニー。
口では世界に行く!などと言ってはいましたが、大手と丸腰で戦うという大それたことは、できれば避けて通りたい。

しかし、参加表明した以上は、もうやるしかありません。

デザイン案を何度も見直し、これで良いか自問自答を繰り返します。
作業は全身全霊での格闘が深夜、朝方まで及び、体力の限界ももうそこまで来ています。
そんな日が何日も続きました。


そしてついに、デザインを提出する日の朝。


朝からドキドキしながら「赤パン」に額をこすりつけて祈りを捧げる私。
いやいや笑い事ではありません。妻のいない場所で密かに儀式を執り行います。

客観的に見たらちょっとおかしい人だと絶対思われるでしょうが、一生懸命やり遂げた後には、もう「神頼み」ならぬ「赤頼み」しかないのです。

さぁ、もうジタバタしても始まりません。
勢いをつけてお出かけです!下半身担当はもちろん我らが「赤パン」様。
と、朝からテンションが上げたのは良いのですが、何となく空回りしているような妙な気持ちも否めません。

「今日は赤パンを履いているんだ。絶対にうまくいく。間違いなく通る!」
そう何度も言い聞かせました。

プレゼンテーションは、よくわからないテンションのまま、あっという間に終了。
口の中はもうカラカラ・・・。
精一杯やったし、我が人生に悔いはない!と石原裕次郎の歌を歌いながら、自らを称え帰宅します。

・・・・泣いても笑っても、結果は1週間後です。
平静を装いながら過ごすものの、心の中は不安でどこかソワソワしてしまいます。


「ここで運使っちゃうと、もっと良い場面で逃しちゃうよ〜」
良くそんな事を言う人がいます。

えー運の数って決まってるのかよー。
それならいっそカルマ的な解釈で、いずれ訪れる「良いこと」のために、むしろ「悪いこと」を歓迎すべきなんじゃないの?

でももし本当にそういうことなら、これに限ってはその限られた「運」ってやつを使いたい!この後「9敗」してもいいから。


そしていよいよ当日。もちろん朝から気合の「赤パン」です。
そして、運命の電話がついに鳴ったのです。

!!! 

有馬記念のスタート前の「ファンファーレ」が頭の上で鳴り響きます!

もうこれが何度目の奇跡だったことでしょう。大小含めて10回は超えてはいたでしょうか。いや、もうそんなことはどうでもいい!
だって、見事に15社を退けることになったのですから。

もちろん努力の甲斐もあったことでしょう。
しかし、もう自分の気持ちをカミングアウトせずにはいられません。

「やっぱりこのパンツ凄いよ!!」

完全に「赤パン」のおかげだと思っている自分がいます。
だって自分がそんな「運」を持っているはずはない、と思っているからです。

チャックを下げて「赤パン」を妻にチラリとみせると、妻は「お〜」と満面の笑みを浮かべます。特に何かを言うわけでもなく、ただ微笑んでいるだけなんです。

あれ?赤パンのこと、気づいちゃってたかな?

「だから金運上がるかもって言ったじゃない。」
あっ、そうでしたね。
え、でもこれって金運なの? ま、結果的には金運か・・・。

妻は何度も「私が買ってきた」「私が買ってきた」と言いました。
はいはい。ありがとね。

それにしてもこれって偶然・・・なのか? いや、偶然にしては回数が多すぎます。

これはもしかして・・・何某かの「法則」があるんじゃないのかな。
それともこのパンツ自体に神が宿っているんじゃないの?

妻とも何度となくそんな話をしました。
これでもう「赤パン」のことを、妻に思う存分語ることができます。

その後赤パンは、パンツの中のパンツ様と崇められ、今風に言えば、そう「神パンツ」。
アイドルグループなら間違いなく「センター」でしょう。


ある日突然、私の目の前に現れた「デパートで買ってきた赤くて黄色い格子柄が入ったパンツ」。履き始めたら、自分にとって都合よく良いことが起きたということを、夫婦揃ってめでたく認知した日となったのです。

その後も「奇跡の赤パン」は快進撃を続け、私の生活に無くてはならない物となりました。

テレビや映画で見る「奇跡的なストーリー」が、我が家でも起きたという事実は、私が生きている間、noteがある限り、そしていつかこの本が出版され、重版されている間は、全人類の「生きる支えとなる杖」となることでしょう。

<第一章>出会い
カエルさんは黄緑色がお好き?

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