夢の恵み
古本の間に白い紙がはさまっていた。2匹の魚がよりそっている絵が描かれていて、「夢の恵み」という筆跡がある。
なんとなく怖くなってネットで調べてみた。それらしきものは見つからない。検索の仕方が悪いのかと考えて二度三度試してみるも、徒労だった。ただのメモ用紙である可能性が高い。それでも妙に気になってしまうのは、まがまがしいものを感じるとかそういうわけではなく、単純に心配性だからだ。
古本にはひどく色々なものがはさまっている。書店なら買う前に気づくが、ネットだとそうもいかない。写真とかが平気で入っていたりする。どういう意図でまぎれこんだのかわからないが、さすがに写真は怖くなって捨ててしまった。
誰かが読んだ本には痕跡が残っている。ぼくはそれほど気にならないけれど、人によっては受けつけないものかもしれない。ドッグイア(ページの角が折られたもの)があったり、個人的なメモが書いてあったりする。文章にマーカーが引いてある小説もあった。最初のほうだけ引かれていて、あとは真っ白なのがほとんどだった。
本のなかにのめりこんでしまうと、本自体を意識しなくなるけれど、本はそれ自体がわりとおもしろい。たくさんの文字がこんなコンパクトに収められていることがまず不思議だ。本を開いているときは、紙の手触りや、インクの匂いや、ページをめくる音や、重さなんか言葉のまえにある。床に並べていったらドミノになるし、食べれば食料にもなる。
子どものとき、世界文学全集みたいな本は、異質なものとして存在していた。硬質なカーバーと、異様な大きさは 図書室のなかで異彩を放っていた。読むべき対象ではなかった。そのなかに長い時間が眠っているなんて考えはなかった気がする。