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林檎かじれビーム!

林檎もぎれビーム!
林檎もぎれビーム!
林檎もぎれビーム!
ユア ライフ チェンジス エブリシング!

『林檎もぎれビーム!』(作詞:大槻ケンヂ)

 今朝、林檎を丸かじりする男性に遭遇した。

 おそらく大学生であろうその男性は、川べりに座り、林檎を歯で削り取っては、咀嚼しながら空を眺めていた。黒を基調とした小綺麗な服を身に着けており、明るい色の髪もきちんと整えられていた。端正な顔立ちだった。隅々まで意識が行き届いた身なりと、その右手にある歯型のついた林檎がアンバランスで、妙に目を引いた。

 林檎の丸かじりは、お世辞にも行儀がいいとは言えないし、何より食べにくい。包丁で切った方がはるかに口に入れやすく、美味しく味わうことができる。それをしなかったということは、包丁を洗うのを億劫がったか、屋外で食べることにこだわりがあったかの、どちらかだ。洗い物が面倒だったとしてもわざわざ川沿いに来ることはないだろうから、きっと彼は「川辺で林檎を丸かじりする」ということに何らかの価値を見出していたに違いない。

 彼は、いったいどういう意図で、林檎を持って外出したのだろうか。それも大学の1限が始まる前の時間に、きちんと身支度をして。梶井基次郎の真似? それなら本屋に行くべきだ。あれは本当に、あまりにも奇抜で、不思議な行動だった。

 彼が林檎をかじった理由は考えてもさっぱりわからなかったが、僕は彼のその奇抜さを少しだけ格好いいと思った。その型破りな行動は、彼が持っている自信とか、世間に迎合しない姿勢とか、そういうものの反映であるように思えた。そう、彼はロックスターのようだった。林檎の丸かじりなんて、不合理で行儀が悪く、そして情熱的な、ロックスターにしか許されない行為だ。

 歩いているうちに遠くに行ってしまった彼のことを思いながら、僕は音楽アプリでロックバンドのアルバムを検索し、再生した。イヤホンから甲高いギターの音が流れ出すのを聴きつつ、そういえばビートルズのドラムはリンゴ・スターという名前だったな、などとくだらないことを考える。こんな平凡な発想ではロックスターにはなれないし、なりたくもないが、それでもロックミュージックは素晴らしい。