読書記録_ビューティフルからビューティフルへ

『ビューティフルからビューティフルへ』
日比野コレコ
河出書房新社

 話題になっていた、日比野コレコの一作目。
 ネグレクトされて育ち進学校に通う「ナナ」、大切に育てられるあまり歪んだ嗜好を持つ「静」、自分の考えを持てずに友人の腰巾着として振る舞う「ビルE」の3人が、「ことばぁ」のもとに通い、交流する。この3人の私小説が本書になったという形式。
 読む時の音やリズムを、相当こだわって練り上げられた文章。タイトル、結末の「ビューティフルからビューティフルへ」が何を意味するか、正直よくわからなかった。たぶん、考えても仕方がない作品だ。言葉遊びのような文体で描かれる地獄。作者自身、地獄の行き先をわかっていないんじゃないかと思う。
 はなしとしては、様々な地獄を様々に生きていく、ぐらいのシンプルなお話。救いも逆転もない。自分のほかに同じように地獄を生きるひとがいることの気づきや、押し付けない優しさのことばぁの存在や、唯一と思っていた価値観が崩されても自分は続くこと、このあたりは救いといえるのかもしれない。
 散りばめられた引用と比喩のセンスは素晴らしい。いまを生きる作者であることを存分に活かしている。膨大インプットから生まれたのだろうな、とも思うし、流行りものや児童書などの誰もが接するものの引用の鋭さからは、常に感度高く生きている作者なのだろうな、とも思う。一方で、引用や比喩の賞味期限が心配ではある。いま、ここでしか味わえない。10年後ですら耐えられないのではないか。その潔さが魅力なのかもしれない。
 攻撃的な比喩は、わたしのなかにはない選択肢の連続で、それでも妙に納得できてしまうものが多い。高校生くらいの頃って、強がった言葉選びをしがちというか、ギリギリを攻めた表現を面白いと信じ切っていられたというか、たしかにあんな感じだったかもしれない。ありがちなことを言うと、歳とったなあと思う。

誰かになりたいなんていう、自分をじわじわ引きちぎるようなこと、死んでも言っちゃだめだ。だってなれるはずなないんだからさ、堂々と、自分のままで、ピラミッドの頂点で小指ぶつけて痛がろうよな。ナナは中指で、「うちはまじでのび太になりたい」と文字を打って返信した。

ビューティフルからビューティフルへ 日比野コレコ

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?