正義中毒と向き合うヒントは、脳の中にあった
こんにちは。
最近こんな本を読んだんですが、自分の中で薄々思っていたことが確信に変わったような感じがしたんですよね。
疑問形のタイトルの本ですが、ハッとした方もいるでしょうか。
著者は、脳科学者として有名な中野信子さん。
サイコパスを脳科学の観点から分析した『サイコパス』は、25万部を超えるという大ベストセラーになりました。
「ホンマでっか!?TV」などをはじめメディアにもよく出演されているので、見たことがあるという方も少なくないと思います。
この『人は、なぜ他人を許せないのか?』は書店でたまたま見かけたのですが、パラパラとめくっていたら話に引き込まれ、いつの間にか購入していました。
この本自体も16万部を超えるベストセラーとなっているようです(帯に記載)。
というのも、この本のタイトルでもある「人は、なぜ他人を許せないのか?」という疑問を日々感じていたからです。
ネット上での有名人や一般人に対する誹謗中傷やそれに対するファンの応酬。
その他あらゆる対立軸での舌戦。
SNSを日常的に使っている人であれば、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。
レスバ(レスポンス+バトルの略で、SNS上で言い争うこと)とも呼ばれることのあるそれは、まさに戦い並みの激しさに発展しているのを度々見かけます。
「正義中毒」の中にも外にも効く話
このように自分の信条や意見が絶対的に正しいと思い込み、それと異なるものを徹底的に攻撃する状態を「正義中毒」と中野さんは呼んでいます。
少し前には「自粛警察」という言葉も流行りましたし、私たちの世界に「正義中毒」は蔓延してしまっていますよね。
本書は、正義中毒がどういう脳のメカニズムで起こっているのかについて解説したものです。
中野さんは、日頃「正義中毒」に陥ってしまいがちな人でも、この仕組みを知っていれば少しでも穏やかに日々を過ごせるようになるのではないか、ということを狙って書かれたようです。
しかし、個人的には「正義中毒の人の文章を見て、負の感情にあてられている人」にとっても、非常に救いになる文章ではないかと思いました。
かくいう私自身も攻撃的な文章を読むのがあまり得意なタイプではなかったのですが、この本を読んで「SNS上で罵り合っている人たちは、このような脳の状態になっているんだな」と納得したことで、心を少し軽くすることができました。
同じような人に、こんな本があるよということを届けられたらいいなと思って書きます。
人はそもそも対立し合うもの
第1章「ネット時代の『正義』―――他人をつるし上げる悦び」では、現代のSNS社会が、人々の「許せない」という思いを顕在化させたと中野さんは分析しています。
印象に残ったのは章の終盤の、人間が対立してしまう根本的な原因についての部分でした。
本書でも挙げられているニュージーランド・オタゴ大学のジェームズ・フリンの論文によると、人間のIQ(知能指数)は、年々上がっているとのこと(フリン効果)。
「思考」の能力が豊かになっているはずなのに、対立が深まっていくというのは皮肉ですよね。
中野さんは比較対象としてウサギを挙げていますが、ウサギには思考能力はなく、ただ本能のままに食べ、子どもを産み育てて一生を終えます。
考えることはできませんが、反面自分に無関係な何かと対立したり、悩んだりすることもありません。
このことから、思考が対立を生むということがわかります。
そのため、「正義中毒は人間の宿命」として、ある程度は仕方ないと中野さんは考えています。
その「叩き」に、正義はあるのか
正義中毒そのもの自体がどうしようもないことだとして、人々が拠りどころとする「正義」はどのように選ばれているのでしょうか。
第2章「日本社会の特殊性と『正義』の関係」では日本と諸外国を比べながら、「叩く根拠とされる愚かさは国によって異なる」ということを指摘しています。
たとえばフランスなど欧米諸国では、「みんなと同じこと」や「意見を言わないこと」が愚かだと考えられています。
「みんなに合わせること」を良しとする日本とは正反対ですよね。
このように、何を「愚か」だとするかは環境により大きく異なるということがいえます。
だとすると、自分が思っている「正義」が本当に絶対的なものなのか、そもそも「絶対的な正義」なんて存在するのか、根本から疑ってかかる必要がありそうです。
メタ認知で正義中毒を乗り越よう
第3章「なぜ、人は人を許せなくなってしまうのか」はタイトルともリンクしており、本書の肝となる部分だと思いますので割愛します。
脳のメカニズムを紹介しながらの解説は非常に面白く、個人的には「バイアスは脳の手抜き」「『一貫性の原理』の罠」という話が特に興味深かったです。
脳科学者の視点で「許せない」を紐解いた3章の後は、「『正義中毒』から自分を解放する」と銘打った第4章で締めくくっています。
この「解放」という言葉通り、本章ではどうすれば正義中毒に陥っている状態を解除することができるのかについて解説しています。
ここでキーワードとなってくるのは「メタ認知」です。
この言葉自体は聞いたことのある方も多いと思いますが、メタ(meta)とは「高次の」という意味をもつ接頭辞で、メタ認知とは「自分が考えていることや抱いている感情を客観的に捉える」ということ。
ざっくり説明すると、たとえば自分が怒っている時に「私は今、怒りの感情を持っている」ということを認知することはメタ認知だといえます。
自分の現在の状況から少し距離を置いたもう一人の自分が脳内にいるイメージです。
メタ認知ができる人の大きな特徴は、どんな状況においても比較的落ち着いていられるということです。
正義中毒においては、「自分は今、正義中毒に陥っている」と自覚することがメタ認知にあたります。
いきなりそう認識することは難しくとも、「今、ひょっとしたら正義中毒になりかけてるかも?」と自分の状態について疑ってみるところからなら誰にでもできそうですよね。
何かに怒りが湧いた時にはそう考える癖をつけることで、だいぶ自分の感情をコントロールしやすくなります。
ネット社会でイライラしがちな人は、ちょっと意識するだけでもストレスの量がだいぶ変わりそうです。
仕組みを知ることが、心を軽くする
参考になったお話全てを書くとネタバレになってしまうのでいくつかをかいつまんでシェアしてきましたが、本書には他にも興味深い話がたくさん詰まっていました。
そのどれにも共通していたのは、「正義中毒は良くないから考え方を変えよう!」というものではなく、「何でそう考えてしまうのかを知ろう」という中野さんのスタンスです。
脳の働き方を変えることは根本的に難しいということを、中野さんが脳科学者としてよく知っているからなのかもしれません(素人考えですが)。
「変えよう」と「知ろう」では後者の方が消極的に見えますが、この本を読んで「攻撃的な文章を書く人は、今こんな脳の状態になっているのだな」と知ることができ、だいぶ心が軽くなりました。
興味を持った方は、読んでみて損はないと思います。
私と同じように感じている方が、少しでもSNS社会を生きやすくなりますように。
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