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「世界一の映画館」が私の故郷にあった話

「いちばん」、ひとつしかない絶対的1であるはずなのにすごく不確かなもののように感じます。
エビデンスを求められる仕事の場では何をもって1番なのかという説明がつけられず、つい最大級の・最高級の…という言葉に逃げがちです。

でも、確かに私の生まれ育った町には、世界で1番の映画館があったんです。

故郷・酒田市

私の故郷は、山形県の北西・日本海側に位置する酒田(さかた)市です。
庄内平野と呼ばれる平坦な土地に田園風景が広がる小さな田舎町であり、人口は10万人を下回ります。

▶︎世界一と言われた映画館「グリーン・ハウス」

当時を知る人たちに訊ねると、目を輝かせ、時には物思いに耽り、皆がすごい映画館だったと語ります。

高級ホテルのようなロビーに、ビロード張りの客席。
コーヒーの香りが漂い、喫茶スペースにはバーテンダー。
食事の出前ができ、個室があり、東京と同日に映画が公開される。
圧倒的なホスピタリティ。

今となっては当たり前のことが当時は新鮮で、唯一無二の映画館であり、映画に限らず文化の発信地でした。

これを世界一の映画館、そう評したのは、映画評論家・淀川長治氏でした。

この栄華は、書籍やドキュメンタリー映画にもなっています。

▶︎1976年、酒田大火

しかしながら、これは全て過去の話。

1976年のこと。
一夜にして22.5ヘクタールが焼け、死者1名・負傷者1003名・被災者3300人にのぼる大火災が発生。

その出火元となったのが、この映画館でした。

風の強い町であったこと、アーケードが炎の通り道となり一気に火災が広がったこと。全てが最悪な状態でつながり、私の故郷は一変しました。

その後、グリーン・ハウスが再建されることはありませんでした。

おわりに

これが私が小さい頃から何度も聞かされてきた、映画にまつわる思い出です。
私が生まれる前の話ですが、忘れられない記憶と記録です。

私にとって、私の故郷にとって、映画は胸躍るものであると同時に少しだけ影を抱えるものです。

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