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必死にもがくその先に

何か新しいことを見つけて、それについて記すーー

それは、かっこいいお仕事のように見える。
実際、他の人の「新しいこと見つけたよ、新しいことわかったよ」の成果に、「かっこいい、すごい」と感嘆のため息をつくことも多い。

いいなあ、私もそんなふうになりたいなあ。

でも、なかなか成果はでない。
だから、私はちっともかっこよくなんかない。

知識はついた。必要な技術も持ってる。
でも、新しいことを見つけることは難しい。新しければなんでもいいのかというとそうじゃなくて、新しくて、より社会にとって・この学問にとって重要なことを見つけなきゃいけない。

それは、途方もなく難しい。

なんとかして新しいことのタネを見つけなきゃ。

そう躍起になるうち、自分のやっていることがひどく意地汚く思えてくる。

新しいことを言うべく、先人たちの肩の上に立つ。
周囲を見る目は、他人の粗を探している。
思考は、何かを無理やりこねくり回している。

新しくて大事なことは、そう簡単には見つからないのだ。

どこかに食い扶持がないかと、先人たちの功績に目を光らせ、無理やりこねくり回しては、なんとかして隙を見つけて殺して食おうとする。


成果を出すためのこんな行動に、なんの意味があるというのだろう。
粗探しも、こねくり回しも、ちっとも格好良くなんかない。美しくない。

先生方も先輩も同期も、もっと美しく、新しいことを見つけてきている気がする。粗探しでもこねくり回しでもなく、真っ直ぐ素直に問題点をつくことができている気がする。

そんな他の人の姿を見るたび、自分の性根の悪さに、へこむ。

「みんな、めちゃくちゃこねくり回してるよ」

そう、先輩である恋人は言った。

「そうなの?」

「うん。必死になって粗を探して、こねくり回して、それでもうまくいかなくて、また必死になって考えて、こねくり回して、いまがあるんだよ。俺だってそうだった」

「はながこのゼミに来たのは、去年からでしょ? 俺はその前からずっといるからわかるけど、みんな、最初は全然できなかった。これじゃダメだってツッコまれて、アドバイスもらって、なんとかしようと考え抜いて、その繰り返しできたんだよ。研究はこねくり回しや」

「研究はこねくり回し、なの?」

「うん。必死になってこねくり回して、なんとかしていくものなんやで。それはすごくつらいけど、でも、そこが面白いところでもあるんやで」

「わかるやろ?」と問われた気がして、「うん」とうなずいた。

新しいことを言うことは、難しい。

粗探しもこねくり回しも、あまり褒められた行動じゃないのかもしれない。

でもそうやって必死になった先に、そこでしか見られない景色があるのなら、多少意地汚くなってみる価値はある。きっと。

「研究はこねくり回し」
「すごくつらいけど、でも、そこが面白いところでもある」

そうかあ、と恋人の言葉を噛み締めていたら、バンと背中を叩かれた。

「なに?」

「なんとなく、気合い入るかなと思って」

「ありがと」と言って、笑い合う。そのまま彼は自分の席に戻っていく。

「必死にもがいてみるんやで」と、彼の手が言っていたような気がした。


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