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子どもにえらそうなことを言えない親のはなし


息子18歳、大学1年生。

自分が18歳のころは浪人生で予備校に通っていた。勉強一色の灰色の時期をちゃんと送れていたら大学入試の結果は違うものになっていたかもしれない。
わたしは当時予備校に通っているだけで全然勉強をしていなかった。

友人たちもパチンコ屋に直行する男子、ミスドで話し込む女子、本屋で立ち読みして映画館に入り浸り街をぶらぶら歩きまわって時間を浪費していた自分を含め、当然ながら模試の結果はみんなさんざんだった。

女子校出身だったわたしたちは、付き合った経験自体がない子も多く久々に男子と一緒になって恋愛の舞台にあがり右往左往していた。
彼氏ができて完全に予備校に来なくなる友人も複数いた。

そもそも息子に話したらドン引きされること確実だが、わたしは浪人時代、新幹線通学で予備校に通っていた。ひと月の定期代が6万越えだった気がする。予備校代をだしてもらいバイトもできないからお小遣いをもらい、地元よりも大きな都市に新幹線で通って、勉強もせずふらふらしている正真正銘のクズだった。
なぜか彼氏は作らないという謎の縛りを自分にかけて、一心不乱に勉強することができる一部の友人たちに心底嫉妬しつつ、煩悩に勝てない必死になれない自分にイライラしながら煙草ばかり吸っていた。

それでもわたしは、大学受験を諦めなかった。必死にはなれないながらも嫌々でも少しは勉強をしていた。どうしてもどうしても東京に行きたかったからだ。実家をでて東京で一人暮らしがしたい、それがすべてだった。
行きたい大学はあったが自分の成績で受かるわけがない自覚もあって、東京の大学に進学できればあとはどうでも良かった。
地元の短大や地元の国立大に進学する選択肢などヒトカケラも持っていなかった。
この執念だけで、わたしはかろうじて大学に受かったと思っている。
ヒトの執念のちからは案外強い。


息子は高2から予備校に通い現役で大学に合格し、自分が2年間通った予備校でチューターのバイトをしている。
チューター職、というのは受験生の相談にのったり志望校選定の面談をしたり、また受験生本人だけではなく保護者対応もする仕事らしい。

最近息子からよく聞かれるようになったのは「親の心境」というやつだ。
息子がチューターとして担当している生徒さんは20数名いて、現時点でこの子は第一志望にいけそうだ、この子は浪人だな、この子は現役で進学できるはず、など何となく予想がたつそうだ。

もちろん試験はミズモノで誰にも結果はわからない。けれども、滑り止めの大学を変更したり学部を絞ったり逆に増やしたり、みな第一志望は変えずとも適切な対策を講じて現実と折り合いをつけていく。

受験においては見守るしかない保護者側も、子ども公認で浪人オッケー、子どもには現時点で浪人不可で伝えているが結果次第で浪人オッケー、絶対に浪人はできない。志望校は、国立しかダメ、自宅から通学可能範囲の大学しかダメなど、条件付けがある家庭も多いらしい。
生徒の方も、浪人してでも志望校に行きたい子、親は浪人オッケーでも自分が絶対に嫌だという子など様々だろう。


そんな中、担当直後からよく話題にだす親子がいて、いよいよ受験目前になって息子がわたしに尋ねたのはこの親子の心境だった。

この担当生徒さんAの第一志望は、成績にまったく見合わない大学だ。
第一志望が記念受験的になるのはみなそうなので別に問題はない。安全校やすべり止め校を適切に設定すれば第一志望を下げる必要はない。
だがAには大問題があって、Aがすべり止め校として志望している大学が今のAの実力では五分五分よりはるか下ぐらいの難易度。全く滑り止めになっていない。本人に浪人の意思があれば無問題だが絶対に浪人はしたくないそう。息子の見立ては、Aは浪人してもたぶん勉強しない(耳が痛い、痛すぎるw)から、現役で入れる大学に行ったほうが本人のためになるはず。

ごもっとも!!

そしてAの母親。電話で話すと、彼女は第一志望などほぼ100%無理ですべり止めすら危ないAの成績を正確に把握している。Aが浪人したくないこと、でも結果的に浪人するしかなくなる可能性が高いことも理解した上で、家庭としても浪人がオッケーなことからAの志望校選定に関して黙認だそうだ。

息子にはこの点がどうしても腑に落ちないらしい。

なぜもっとちゃんと話し合わない?Aは進みたい方向性がはっきりしていてやりたいことがある。志望校のランクを落としても進みたい学部に進学したほうがいいのになんでAが大学のランクにこだわるのか理解不能。
Aの親は学歴厨ではない。大学のランクになどこだわっていない。
ならばなおさら、Aと話せばいいのに何も言わない。なんで????
と聞いてきた。

わたしは。。。。なんとなく、Aの気持ちもAの親の気持ちもわかる気がした。どこの親子関係にも歴史があるのだ。
無謀でも行きたい大学以外は受けたくないAの気持ちも自分の経験からわかる。そして、Aの親は本人がやって痛い目みる以外わからせる方法はないと思っている可能性が高い。Aの親の気持ちもわかる。
親子関係は他人からは簡単にはわからぬ歴史があるのだが、それを18歳の息子がわからないのもまた道理。

息子がいうには、親が浪人ダメとか国立以外ダメとか条件付けしてる場合のほうが、志望校選定も自分主体で受験勉強も現役合格のため必死になる生徒さんが多い印象らしい。だからAの親は甘いのではないかと・・・

おいおいおいおい!!!君が言うなwww(わたしも人のこと言えないが)

息子には、Aが志望校を下げる気がなく親もそれを認めている以上チューターとしてできることは、不安に寄り添い、励まし、受験当日の心構えや、ちょっとしたライフハックを伝えて応援することしかない。
Aの浪人が決まってまた予備校に通うことになったら、「まいどありがとうございます!!!」って思うしかない。予備校は資本主義です。
お客さんがいなかったら成り立ちません。
と答えておいた。

わたしも息子と同じぐらいの時には、世の中に数多ある親子関係に正解なんて一個もないってまったくわからなかった。
正解がないということがわかるのに半世紀かかったよ。

だから答えはわからない。





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