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ヤンクミはなぜ3Dの心を掴むことができたのか

今回は、ドラマ「ごくせん」に登場する山口久美子ことヤンクミが、どうして不良生徒たちの心をつかみ、クラスをまとめることができたのかを心理学的な視点から考察していこうと思います。

今回参考にさせていただいた書物は、
大河原美以著「子供の感情コントロールと心理臨床」
羽間京子著「少年非行 保護観察官の処遇現場から」
などになっています。ご興味のある方はぜひ一読してみてください。

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まず、ごくせんに登場する生徒の特徴を考えていきます。

3Dの生徒はいわゆる不良生徒の集まり。
授業をまともに受けず、先生の言うことも聞かない。でも学校には来るんですよね(笑)。

ざっとまとめてみると、
 ・大人を信用できない
 ・勉強や学校に対しての関心、向上心が乏しい
 ・カッとなるとすぐに手を出してしまう

といった特徴があると考えました。

こういった特徴の背景として考えられるのは、
 ・シンプルに学校が嫌いであること
 ・発達障害を抱えていて対人関係が苦手であること
 ・知的に問題があって、勉強が苦手なこと
 ・親との関係がうまくいかず、愛着形成が未熟であること

などなど様々な可能性があると思います。

しかしどのような背景であっても、全てに共通している事は、

彼らが今までにたくさんの傷つきを経験している

ということだと思います。
傷つきとはどういったことか。

例えば、
 ・親または先生に叱られる経験
 ・自分の気持ちを聞いてもらえない経験
 ・親から見放される経験
 ・知り合いから裏切りられる経験

などなどです。

こういった傷つきの繰り返しによって、3年B組の生徒たちは上記のような特徴(大人を信用できない等)を有しているという結果が必然的に生じていたのだと考えます。

過去の反復性のある傷つきによって、生活の中で行動に問題が起こることを複雑性PTSDと言います。
複雑性PTSDの中には、自分の中に不快感情が生じた際にそれを処理しきれず、パニックになったり、暴力をしたりしてしまう人がいます。

すぐかっとなって手を出してしまう、嫌だと思ったら不登校になるといった、感情をすぐ行動に移してしまう生徒は、自分の不快感情への耐性が適切に発達していないことが原因だと考えます。

ただ、複雑性PTSDは衝動的に行動してしまうため、理性での制御が難しいところがあります。生徒の中では暴力を抑えることができる人もいると思います。
そのような生徒が攻撃的な態度を示す背景には、過去の裏切られてきた経験や叱られてきた経験で身につけた防衛の一つだと考えることができると思います。

防衛とは
心理的な葛藤によって、自我の対外的・統合的な機能が崩壊しないように無意識に行われる様々な心理作用のことです。
フロイトが最初に提唱し、その娘のアンナ・フロイトが体系化しました。

例えば以下のようなものがあります。
反動形成…抑圧した欲望や思いが言動として現れるのをセグために、正反対の言動をとること
(例:男の子が、好きな女の子に対して、意地悪なことをする。)

合理化…自分の行動に合理的な理由を見つけ出すこと
(例:ブドウを取れなかったキツネが、あの葡萄は酸っぱいと言って去る。)

こういった防衛規制は無意識に行われていると言われています。

そのため、相手に攻撃的な言動を向ける防衛をする生徒は、無意識のうちにそれを行い、そしてまた叱られ、繰り返し傷つく経験をしているということが考えられます。

**

ではこのような特徴有している生徒たちに対して、ヤンクミはどのように接し、彼らとどう信頼関係を築いていったのでしょうか。**

優しい言葉をかけて心を許させようとしたのでしょうか。
もので釣ろうとしたのでしょうか。
生徒たちを自分の力で押さえ込み、操作しようとしたのでしょうか。

ドラマをご覧の方はお分かりの通り、こういった対応をヤンクミは全くしませんでした。

大きくまとめると以下のような特徴があったと思います。

 1.一人一人を認め、生徒にとっての安全基地となる
 2.気持ちの言語化をする
 3.彼らの将来を信じる
 4.彼らの言動を注意しない

当たり前?どういうこと?
どういったことを思いましたでしょうか笑。

 1.一人一人を認め、生徒にとっての安全基地となる**

1は、今まで先生に叱られてきたという経験による大人への不信感があった生徒がヤンクミに心を開くこととなる重要な特徴であったと思います。

ヤンクミは生徒のイライラした気持ちや許せない想いを受け入れていることが印象的でした。
例えば、同じ仲間のことを侮辱した他の学校の生徒を殴ってしまった生徒がいた時、仲間のことを侮辱されたことに対して苛立つのは当たり前だと言った一方で、殴ってしまったと言う行為に対しては叱責していました。

また、お金を盗んでしまった生徒に対して、
「お金なんか盗むな。不良するなら胸張ってしろよ。」(ニュアンス)
といい、
不良と言うその人自身を否定するのではなくて、お金を盗むと言う行動を叱責していました。

このことが他の教師との違いだったのではないかと思います。
他の教師は、まず行動に注目し、殴ったことを叱り、その後人格を否定する言葉さえもかけていたかもしれません。

このことから、行動と気持ちを別々にして考え、それらに適応した言葉がけをすることが、生徒にとってもヤンクミから理解されているという認識を与えることができたのではないかと考えます。

そして、生徒が自分を認めてくれる存在を実感していることで、安心安全が感じられ、生徒はヤンクミとの関わりによって心理的にも発達できたところがあったのではないかと思います。

 2.気持ちの言語化をする**

2つ目は、感情の発達に重要な役割を与えるものです。
感情の言語化というのは、人が発達する上で
「辛かったね」
「楽しかったね」
と、気持ちを言葉にして共有することです。

この過程を得ると、人が自分の感情に気づくことができるようになり、大人になって辛いことがあっても、それをすぐ行動に移すのではなくて、辛い感情を自分の中で処理することができるようになります。しかし生徒はその過程において発達に課題があったと考えられるため、すぐに手を出すなどの問題が生じていたのだと考えます。

ヤンクミは生徒が問題を起こしたときに、
「辛かったんだろ。」「悔しいんだろ。」
と、生徒の気持ちを明確に言葉で伝えていました。
この言葉によって、生徒は自分が辛いことに気づくことができ、そこでヤンクミに安心を与えられることで、不快感情が生じても、それと向き合って対処することができるようになっていったのだと考えます。

 3.彼らの将来を信じる**

3は、少し教育よりの話になってしまいますが、私が印象的だったお話の中で、事件を起こして退学になった生徒が、学校に復讐しようとした話があります。
劇中の中で、復讐しようとした生徒に対して、
「教師を許せない気持ちはわかるけど、これからの人生は自分の手で切り開いていかなければならないんだよ。」(ニュアンス)
と言うセリフがありました。

学校退学になって不良行為をする人に対しても、未来があることを信じている姿を見て、非常に感銘を受けました。
気持ちを受容をして、でもその後は厳しい言葉をかけるという、理想の形なのかなと思いました。

3Bの生徒に対しても、他の教師がろくな大人にならないと言っている一方で、ヤンクミは彼らの可能性を信じ続けていました。
こういった姿勢も生徒がヤンクミを信頼できると思った要素なのではないかと思います。

 4.彼らの言動を注意しない**

行動は先ほど注意すると言いましたが、それは法律的に許されないことなどをした時だけでした。彼らの普段の素行や態度にはヤンクミはあまり触れていなかったような印象があります。
このことは初めに述べた防衛を扱う際に、必須の関わり方だったと考えられます。

裏切られたきた経験などで身に付いた、攻撃性という防衛を無理に剥ぎ取ろうとすると、むしろそれを強化させたり、信頼関係が壊れたりする危険性が生じます。そのため、できるだけ彼らの言動をそのまま扱うことが必要です。

しかし、誰かの権利を侵害したり、信頼している人を侮辱したりするといった、ヤンクミの信念に背くことがあれば、
「おめぇら〇〇じゃねぇぞ!」
と、極道の言い回しで生徒たちとぶつかることがありました。
このことは、ヤンクミと生徒の心が通じるきっかけとなったのではないかと考えます。

生徒たちと先生が同じような言葉でぶつかることで、お互いの信念が両者に伝わり、結果的に友人を大切にしたいといった、両者に共通する思いを共有できたのではないかと思います。

このようにして、ヤンクミは生徒の心をグッと掴んで、3年D組を1つに纏め上げたのだと考察します。

近年ではごくせんのような熱い教師は流行らないと聞いたこともあります。
実際にはそうなのかもしれません。それにもちろんドラマ内のことであるので現実はここまでうまくいく事は少ないと思います。
しかし、ヤンクミが大切にしている生徒との関わり方や、気持ちの受け止め方といった特徴は、今も昔もずっと変わらないものがあるのではないかと思います。
心理学部にとって関わりのお手本を見ることは難しいです。そのため、こういったところから何か学び取っていけたらなと思います。
自分の学んだこととごくせんのお話がリンクしていたこともあったため、今回はこのようにまとめさせていただきました。

ただもちろんヤンクミも1人で成功していたわけではないと思います。
おじいちゃんはまるでスーパーバイザーの役割を果たしていましたし、保健の先生などはヤンクミにとって情緒的なサポートとなっていて、ソーシャルサポートが豊富であったといえます。

またヤンクミ個人の特性や育ってきた環境も影響すると思います。ただ今回は少しテーマと異なったので省略しました。

以上で終わりになります。
またも長くなってしまって、自己満でしかないのですが(笑)。

またこれからも心理と組み合わせた題材のお話をかけていけたらなと思います。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

参考文献
大河原美以(2018)「子供の感情コントロールと心理臨床」日本評論社
羽間京子(2013)「少年非行 保護観察官の処遇現場から」批評社
宮川純(2018)「公認心理師・臨床心理大学院対策 鉄則10%キーワード100 心理学編」講談社
心理学専門校ファイブアカデミー(2019)「一発合格!公認心理師 対策テキスト&予想問題集」ナツメ社


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