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人生初手術、当日

21:00に自由な飲食が禁止されたあとは、病院から500mlのOS-1(経口補水液)が2本、支給された。わたしの手術は朝9:00からということで、その2時間前である7:00までに飲み切るようにとのご指示。翌朝は朝食がわりに、アルジネードウォーターという紙パックに入ったドリンクを飲むらしい。
ちなみに、OS-1を飲んだのも初めてだったのだが、まぁおいしくない。飲めないほどまずくはないものの、しょっぱさが強くて飲むのに苦労する。結局その夜は、「翌朝7:00までに飲み切る」という縛りが気にかかって全然安眠できなかった…。
 
◇ ◇ ◇
 
そして迎えた手術当日の朝。看護師さんがアルジネードウォーターとやらを持って来てくれた。量的には200mlくらいだろうか。スポーツドリンクをおいしくなくしたようなものだったので、一気に飲んだ。くぅーまずい!
 
手術は予定通り9:00から行われると決まった。看護師さんが10分前に迎えに来てくれるらしい。それまでにお手洗いを済ませ、もらった紙パンツに履き替えておくようにとのことだった。昨日お願いした、点滴を刺すときの痛みが軽減できるらしいクリームも塗ってもらった。
中途半端な時間…暇だなぁと思っているとパートナーが来てくれた。面会は禁止だが、手術前後は会うことができる。両親も来てくれ、それぞれわずかな時間だが会うことができてうれしかった。
 
そうこうしていると、看護師さんが迎えにきた。知らぬが仏で、特に怖いこともなくへらへらと手術室に向かう。一緒に来てくれた病棟の看護師さんと雑談しながら手術室の前で待っていると扉があいた。名前、生年月日、手術する場所を聞かれるので答える。そのあとは麻酔科の先生による説明だ。一緒に聞けるのは、コロナゆえに2人まで。いろいろな事情のもと、両親に入ってもらった。ここで聞くのは、麻酔の方法やリスクについて。一通り説明されたあと、同意書にサインをして、いよいよ手術室へ。
 
初めて入る手術室は、ドラマでよく見る手術室そのまんまで感動する。手術というと緊迫した雰囲気だとばかり思っていたが、先生も看護師さんもリラックスした雰囲気で、ちょっと拍子抜けした。ベッドに寝かされ、さくさくと準備がはじまる。ひとつひとつ説明してくれるのがビビリにはうれしい配慮。酸素マスクがつけられたときはビビったが、「酸素しか出てないよ~ゆっくり呼吸しててね~」と言われて落ち着いた。
ついに、麻酔の点滴である。クリームが落ちないように張られていたビニールをはがされ、昨日つけた印をもとに、血管捜索に移る。
 
「チクッとして、そのあと薬が入るときにちょっと痛いよ~。でも“痛いな”って思ったあとすぐに寝ちゃうから頑張って!」
 
と不安をあおられてるんだか、安心させられているんだかわからない助言をもらう。まさに看護師さんの言葉通り、痛い!!!と思った次の瞬間には寝てしまった。
 
「……さん、…さん、…っこさん、もっこさん」
はっ!と目が覚めた。と思ったらのどが激痛!!!なにこれ、なにこれ!痛そうな表情を見た看護師さんが「痛み止め!急いで!」と言っているのが聞こえる。そうだった、わたし手術したんだったな。痛みに顔を歪めつつ、その事実をやっとこ思い出した。いやぁ、それにしても麻酔っていうのはすごいもんだ。こんなに飛ぶのね。
看護師さんに起こされたのは、ストレッチャーでガラガラ移動している最中だったような気がするのだが、いつ部屋に戻って来たのかまったく記憶にない。とりあえず、気付いたら病室に戻っていた。
 
手術後は、付き添いの人は病室に入ることができる。このときはコロナ禍だったので2名までで交代はNG。パートナーと父が来てくれた。(後から聞いた話、母はパートナーを行かせて自分も行きたかったそうなのだが、父が勝手に行ってしまったとのこと。こちとらそれどころではないので誰でもいいのだが…)
手を握ったり、話しかけたりしてくれるのだが、正直なところ、対応するのも大変である。麻酔による吐き気、のどの痛み、そもそも喋れないし。筆談用に小さなホワイトボードを貸してくれたのだが、「気を付けて帰って」とやっとの思いで書いたような気がする。せっかく来てくれたのに無下にしたくない気持ちと、とにかく辛すぎる状況が掛け算された結果、「頼むから早く帰ってくれ」と強く思っていた。
 
家族が帰り、一人になったのはいいがここからが地獄だった。何が地獄って、吐き気である。あのとき、光の速さでナースコールを押しまくり、とにかく看護師さんを呼びまくっていた迷惑な患者はわたしです。
吐き気を訴えると、麻酔による吐き気だと判断され、点滴で吐き気止めも入れられた。が収まるどころかずっと気持ち悪くて嗚咽である。なぜか。そんなのわたしは早々に気が付いている…管だよ!!!!!
 
そう、例の管である。これがもう、とにかく辛すぎてのたうちまわった。看護師さんがいなくなると数秒後にはナースコール。吐くものもないのに嗚咽し続ける。おまけに術後で熱が高く暑い。ベッドの上で高速寝返りを打ちまくり、つけといてね~と言われた酸素マスクは早々にずれてどこかへ…。とにかく気持ち悪すぎて、術後だというのに寝ることもできないのだ。
 
この日、不幸にもわたしの担当になってしまった看護師さんが、翌年もお世話になりまくったTさんである。わたしのあまりの奇行を見て、
 
「一度、管抜こう!わたし先生に話してくるから!」
 
と言ってくれた。しかしわたしは、抜いてもまた入れるのであれば嫌だと、ためらってみせる。(迷惑!)一度はう~ん…と悩んだTさんだったが、ナースコール連打×全然寝られないのを見て、先生を呼びに行った。
 
しばらくして、K先生が病室に来てくれた。壁によしかかりながら「どうしよっか」と尋ねる。先生…ここは放課後の教室か何かでしょうか…。でも、「この後どうする?」くらいのラフな雰囲気で質問されたのが、肩の力が抜けてちょうど良かった。
K先生に「一回管抜くかい?」と尋ねられ、Tさんに伝えたように、抜いてもまた入れるなら嫌だということをホワイトボードに書く。
 
「う~ん、でもねぇ、寝られないでしょ、管入ってると」
「(そうですね)」
「やっぱり一回抜こう!」
「(…どうしましょう)」
「うん、抜こう!そうしよう!」
 
そうしてわたしはそのまま処置室に連れて行かれた。わたしがベッドから立った瞬間、Tさんが、今だ!と言わんばかりにシーツをバサッと取り替えるのを見た。
処置室の椅子に座らされ、とりあえず抜こうということになった。K先生が看護師さんにいくつか指示を出したあと、あっという間に管は抜けた。そしてその瞬間、異常なまでの気持ち悪さからも解放された。
 
恐らく、わたしの表情が明らかに変わったのだろう。先生も看護師さんもほっとしたように、あぁ良かったと言った。
 
「これで少し寝られそう?」
 
というK先生の問いかけに、コクコクと何度もうなずき、ペコペコと何度もお辞儀して病室に戻った。そうしてしばらく眠った。
 
手術も嫌だったが、管にまつわる一連の出来事、人生の中で嫌だったことランキングで間違いなくNo.1である。

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2022.10.13のお話です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ、また別の記事でお会いしましょう!

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