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「息子のボーイフレンド」で知るLGBTQ

私には2人の息子がいる(まだ小中学生だが)。であるが故に、この本のタイトルは、なかなか衝撃的だ。百聞は一見に如かず。まずは読んで、思うことをまとめてみようと思う。

1.コメディタッチのLGBTQ小説

この本は、正にタイトル通り「母親が息子のボーイフレンドという存在を、どう受け取り、対応していくか」を描いた章からスタートする。テーマはLGBTQであるが、コメディタッチの明るく面白く読める小説である。

例えば、息子にカミングアウトされた母の様子も、こんな感じ。
読み手としてLGBTQという重たいテーマなのに、面白タッチで楽しめる。

『神さま、許してください。反省しますから、どうか息子をノーマルに戻してくださいッ!わたしは、どこにいるかわからない神さまに向かって、心の中でひれ付した。』

この小説全体は5つの章でまとめられており、「LGBTQの当事者(息子と、そのボーイフレンド)」、「彼らの家族と友人」の5名の視点で綴られている。色んな立場の目線から綴られているので、それぞれの立場になって相手を見て知ることができる点で、当事者の心情を知るために興味深い作品だ。

第1章は「」、第2章は「息子」、第3章は「母友人」、第4章は「」、第5章は「息子のボーイフレンド」の目線で綴られている。

note #読書の秋2021 の課題図書とはいっても、あまり気張らずにサクッと読み切れる分量と内容の手軽な小説である。

2.フィクションならではの踏込み領域 

LGBTQの方の人口は「日本の全人口における「佐藤」さん・「鈴木」さん・「高橋」さん・「田中」さんの割合よりも多い」そうなのだが(参照:LGBTの割合がバラつく理由【13人に1人? 100人に1人?】)、今まで私はリアルで当事者のお知り合いがおらず、現状ではLGBTQについて知るために、本やセミナーなどを利用している。

この本のような小説では、けっこう突っ込んで踏み込んだ内容を書きやすいというフィクションならではの利点があるんじゃなかろうか。例えば、2人の出会いストーリー、いちゃいちゃシーン、家族へのカミングアウト・・・など、なかなかノンフィクションでは触れにくそうなところも、関係者の心情を交えて描かれている。

とはいえ、フィクションはフィクション。このお話は、家族も彼氏もみんなとっても良い人達で溢れているので、実際のところは、もっともっと大変なのだと思う。そのあたりは、当事者の方が書かれたノンフィクションの本も、これから読んでみたいと思っている。

ちなみに良い人といえば、母友人の優美さんが、理解力抜群で、メチャメチャカッコよくて、絶賛おすすめのキャラクターである

~ ゲイの二人を「キモ」と言った息子に対する母・優美さんのセリフ ~
なんぴとたりとも、人が好きなものを否定や非難する資格は無し。わたしから見たら、ゲーム画面ばっか見てにたにたしてるあんたの方がキモいわ。』

≪ 今後、ノンフィクションで読んでみたい本 ≫
 ・同性婚 私たち弁護士夫夫(ふうふ)です(祥伝社新書)


3.「そうだったんだ・・・」と思うこと

そして、この本を読んで「そうだったんだ」と思うのは、大きく2つ。

(1)カミングアウト
世間としてLGBTQの方を受け入れていこうという話と、自分の家族がLGBTQであることを受け入れられることとの間には、けっこう大きな段差がある。小説の中で、父・稲男は、総務として職場でLGBTQフレンドリーを前面に押し出す活動を積極的に進めており、且つ、性格的にも優しくて理解あるにも関わらず、それでも相手が自分の息子になると、受け入れるのがなかなか難しいのである。

もし自分の息子から、ある日突然カミングアウトされたとしたら、子供の気持ちや、子供自身の権利を尊重した態度を私は取ることができるだろうか?
(うーーーむ。なかなか難しい問題。)

(2)組織におけるLGBTQの取り組み
その父・稲男が、職場でLGBTQフレンドリーの活動を進める中で、初めて当事者の社員に出会うシーンがあるのだが、そこでの当事者である社員の方の発言にも「そうなんだ・・・」という気づきがあった。

稲男が当事者の社員に職場で実施するLGBTQのセミナーを紹介したところ、その社員から断られたシーンでの当該社員の発言

セミナーに参加して、セクシャル・マイノリティなんじゃないかって少しでも思われるのがいやなんです。
多分なんですけど……きっと参加されるのは、ストレートな方が大半じゃないかな。当事者たちは、なんだか自分たちがさらされるみたいで行きづらいし、それに参加することが意図しないカミングアウトになるのが怖いと思います』

この発言を受けて稲男に芽生える『何の抵抗もなく打ち込めるのは、今日指摘された通り、確かに当事者じゃないからなのだろう。』という心情が、小説では描かれている。

職場での活動は、どうしても数値目標などに注目されがちであるが、『何のために、そして誰のために行う活動なのか』という点、しっかり議論したり考える場がやっぱり必要そうである。


4.この本を読んで、今後ありたい姿


3.で気づいたように、社会的に受け入れることと、家族が受け入れることとの違いは大きい

一方で、実際に子育てしてみて、子が小さいときは、親が子供の決断をサポートするシーンは沢山ある。例えば、予防接種を受けるかどうか、どの幼稚園/保育園に入るか、小さいうちの習い事をどうするのか・・・。少し大きくなると、子供の気持ちも聞けるのだが、そもそも、どういう選択肢が彼らの前に出されるかについて、どうしたって親の目線や好みが入る。

そして、親が思っていたより子供の成長は早い。今まで当然のようにサポートしていた子供たちは、知らないうちに自分で考え、自分で決断できるようになっていくのである。

彼らが自分で考え、決断できるよになったことを、いち早くキャッチして、尊重していく、そんなことが大事だなーと、改めて思った今回であった。


親として、相手が自分の子どもであっても、彼らの気持ちや権利を奪ってはいけないと思う。だが、もし実際にある日突然、息子からボーイフレンドを紹介されたら、素直に受入れられるものだろうか?
そのためには、日々、彼らとの距離感をしっかり感じ、自分も精進していくことが大事だなーと思った一冊だった。

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