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映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」

いやはや凄い映画だった。光州事件は知っていただけに覚悟を決めて見に行ったが、やはり何と言ってよいのか…という気持ちにさせられる。『タクシー運転手』というタイトルや宣伝写真の牧歌的な感じから、光州事件を知らない人が見ると本当に驚くと思う。でも、決して目を背けてはいけないと思うのです。

韓国の国民的大スターのソン・ガンホが主人公。実際にあった光州事件をもとに実話と脚色を足して描かれている。舞台は1980年5月のソウルと光州。ソウルのタクシー運転手であるマンソプ(ソン・ガンホ)は妻に先立たれ、貧乏ながらも一人娘を溺愛しながら暮らしていた。韓国全土では、軍事政権の復活を警戒する学生らの民主化デモが広がっていた。ソウルでも学生デモが頻繁に起こり、道が封鎖されたり、戒厳令により夜間の外出禁止となり、タクシー稼業にも大きな影響が出ていた。

そんな状況もあり、ジリ貧生活を送るマンソプは家賃を滞納して追い出される寸前であった。そんな時「通行禁止時間までに光州へ入ってくれれば10万ウォン払う」というドイツ人がいることを聞きつけ、光州へ向かった。順調に行っていた道のりも、光州に入ろうとすると軍隊によって道が封鎖されており、不思議に思いながらも嘘をつきながら光州市内へ入った二人。光州の街はなぜか人通りがなく、全体が荒れ果てているという異様な光景だった。

ビジネスマンだと思っていたドイツ人のピーターは、実はジャーナリストで、現在、光州で「電話が不通になっている」「死者が出ているらしい」という噂を耳にし、その事実を突き止めて報道をするべく光州入りしたのであった。光州の街中で、学生のデモに出会う二人。ピーターは早速、取材を開始する。マンソプは学生デモのせいで仕事に影響が出ていることもあり、「親の金で学校に行かせてもらってる小童(こわっぱ)のくせに…」という『いかにもオジサン』な態度を取っていた。

娘をソウルに残して来ているため帰り時間が気にかかるマンソプは、賃金だけ受け取ってお客さんであるピーターをおいてこっそりソウルに帰ろうとする。そのことがバレて光州のタクシー運転手(ユ・ヘジン)ともめるなど、このあたりまでは笑いあり、のほほんとした牧歌的な感じでストーリーは進んでいくのです。

ただ、ここまでは序章。ここからが本題なのです。ここからはもう何とも言えない。ただただ、酷い。惨たらしい。

光州で民主化を掲げる学生たちが、自国の軍隊によって暴行され、撃たれ、怪我人はもちろん、死人さえ出そうな勢いであった(すでに出ていたのかもしれない)。そのことに怒った光州市民たちが立ち上がっていたのです。そのことが信じられないマンソプ。韓国軍が自国民に銃を向けるはずがないと信じ切っているマンソプは愕然とするのです。この人が韓国の多くの国民の意見を反映しているキャラクターなのです。

これ以降はあまりに惨たらしすぎて目を覆いたくなります。もう本当にやめて……という言葉しか出てこない。でも、やめてはくれないのです。両手を上げて投降しても、白旗を上げても撃たれ続けるのです。人を救いたくても救えない。何もかもまったく通用しない。これが軍事制圧というものなのかと背筋が凍る想いで見ていた。

結果、5月18日~27日までのたったの10日間で認定された死者は154人、行方不明者70人、負傷者1628人(調べたけど、間違ってたらごめんなさい)を出す大惨事となった事件なのです。

映画の中で、光州市民の人たちが「何でこんなことになっているかわからない」という言葉が鮮明に残っている。こういったことは『何でかわからないうちに始まってしまっている』のだろう…。そして、始まってからでは止めることが容易ではないということが理解できた。

ただ、この事件は、お隣の国であった話で、日本には関係のないこと——とは思えない時代に入ってきているとも感じている。

この映画、もちろんすごく重いテーマを扱っているのですが、昨今の韓流映画はこういった惨たらしい題材を扱っても、きっちり映画として魅せてくれるのです。ちゃんとドラマになっているのです。報道したテープを持ち、ソウルに向けて帰路につくシーンは圧巻です。そこで登場してくる光州タクシー運転手たちの行動はとある有名映画を彷彿とさせてくれて、「おぉー!あれあれーー!!」と思いますよ。これは見てのお楽しみです。

ちなみに光州事件を題材とした、映画『光州5・18』もオススメです。イ・ジュンギというイケメンが出ています。言わずもがなですが、二段目の左です。

#映画 #コラム #韓流映画 #タクシー運転手 #020 #0428

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