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〜かかる比重の重さから抜け出せない〜映画「万引き家族」

是枝裕和監督×リリーフランキー×樹木希林はもう飽きた……ので見に行かないでおこうかと思ったけど、カンヌ映画祭でパルムドールを取ったことだしね、見に行くことにした。

んーー、やっぱり流石だ…としか言いようのない映画であった。ごめんなさい、脱帽です。

内容が複雑かつ繊細に絡み合っていて単純に言い表すことはない。よく聴こえてくる「万引きはいけない」とか、「貧乏なのにカップラーメン食べるな、自炊しろ。酒飲むな」とか、「肘ついて食事するな!行儀悪い」など、そんなことはわかってる。そこも否定していない。今作はそこからの話なのである。

まさに現代の日本が抱えている問題のほとんどが、この『家族』にのしかかって来ているようであった。抱えすぎていて様々なテーマがありすぎて、何をどこから書いていいものかわからないが進めていきます。

父の治(リリーフランキー〉は典型的なダメ男。仕事は日雇いの肉体労働。風貌からしても向いていないのがよく分かる。向いていなくて仕事場に居場所がないので、さらに無気力が加速する。そうすると働かない、家にまともなお金がなくなる。万引きに走る。万引きや窃盗の才能(?)はある。

母の信代(安藤サクラ)はクリーニング工場で働いている。肝っ玉母ちゃん。しかし、何かを背負っていて、おそらく痛めつけられたからこその強さや覚悟みたいなものもが全身から漂ってくる。

信代の妹(松岡茉優)は、なぜかこの家に転がり込み、『サヤカ』という源氏名で風俗店で働いている。無気力で、生きることに希望はもちろん、何にも気力が持てていない感じがする。なんとなく流されて生きているんだけど、自己肯定感の低さからダメな方へ行く感じ。風俗に走ったのは、おそらく愛してほしい、抱きしめてほしいの出方が違う感じではないだろうか?
矛盾するが、何かを強烈に求めてる感じ。

祖母(樹木希林)は未亡人で年金暮らし。夫が残した都会の片隅の家で暮らしている。周りの土地は買い上げられ、この家だけがポツリと残っている。この家族は祖母の微々たる年金と家頼りで暮らしている。

息子の祥太(城桧史)は学校に行かず、父の治とともに万引きをして暮らしている。学校に「行けない」のか「行かない」のかについては、物語を追うごとにわかってくる。

ある日の寒い日の夜、治と祥太が「仕事帰り」に5歳くらいの小さな女の子(佐々木みゆ)が家の外で凍えている姿を発見する。お腹もすかしている様子で、ほっておけなくなった治は自宅へ連れて帰る。信代を含めた家族は面倒なことになっては困るから元の所へ返すように告げるが、女の子の身体には虐待の痕があった。それでも……と返しに行った時に外まで響いてきた「産みたくて産んだわけじゃない!」という女性の叫び声。その言葉を聞いた信代と治は女の子を再び連れて帰る。

女の子の名前は『ゆり』。最初はどちらも警戒していたものの、一緒のこたつに入ってご飯を食べたり、お風呂に入ったり、他愛もない話しをしたり、小競り合いをしたりしていくうちに『ひとつの家族』になっていく。

ここまでがあらすじ。あらすじだけでも盛り沢山である…。とにかく印象的だったのが、この家族はみんな何かに傷ついており、だからこそ優しい。しかし、優しいからこそだらしなかったり、自分に甘かったりもする。

貧困の家は総じて『汚い・片付いていない・要らないものがいっぱいある』と目にしたことがある。この家はまさにそれであった。

『片付けられない』⇒『慣れる』⇒『めんどくさくなる』⇒『片付かない』⇒『無気力・その場しのぎ』ループなんだろうな。生活が、人の精神や人生にも影響を与えてくる感じがよくわかる。貧困に陥ると少しの不運が大打撃になる様子がよく描かれていた。お金がないので小さな不運を避けきることができない。そういったことが積もり積もって身動きが取れなくなる。

この家の『荷物』と同じようである。捨てればいいのに…と単純に思うが、そういかないのが『貧困』なんだと部屋の物量からも見せつけられた気がする。

役者さんの演技が凄すぎて、パルムドールの会見でケイト・ブランシェットが言っていたが、ラストシーンあたりの安藤サクラが泣くシーンは圧巻である。今思い出しても胸に迫ってくるものがある。このシーンは必見なので、なぜ泣くのか等のネタバレは一切したくない。凄い俳優さんだ。次回の朝ドラも今から楽しみ!

とても愛していたんたけど、その愛し方が間違っていて、間違ってるとわかっていてもそうせざるを得なかった。形は嘘なんだけど、本物の家族の物語。この『家族』には本物の愛があった。しかし、愛もお金もない家族もたくさんあるだろう。そんな家で育った子たちは一体どうなってしまうのか?そして、そこで暮らす人はどうなってしまうのだろうか?

家族って何なんだろう?本物って?夫婦って?産んで育てるって?愛情って?死ぬって?生きるって?お金って?生活って?公的な援助や制度って?ルールって?

考えるとキリがない…。しかし、目を背けてはいけない問題なんだと改めて突きつけてくる作品であった。

#映画 #コラム #万引き家族 #031

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