映画「ケンとカズ」

底辺を生きる男たちのどうしようもないほどの不器用さと、のし上がりたい、這い上がりたいと、もがき続ける姿をひたすら追い続けた作品だ。

この映画の見どころはなんといっても「役者の顔」。「顔」で日本の底辺社会の闇を見せてくれる。この役者たちの顔を見るだけでも一見の価値はあると思う。

主人公は、高校からの友人ケンとカズ。自動車整備工場で働きながら、裏で先輩のヤクザのもと、覚醒剤の密売をしていた。カズは狂犬みたいな男で、鼻っ柱が強く攻撃的。一度火がつくと手に負えないタイプ。ケンは、冷静沈着な様子でカズの後ろに控えながらも虚無感と、ときおり見せる狂気をはらんでいて、危ういバランスで成り立っている二人。

そんな二人の人生の歯車が大きく狂い始める。

カズには認知症の母がおり、その母を施設へ入れるための金を手に入れなければならない状況に陥っていた。一方のケンは、恋人が妊娠したことにより、底辺社会から逃れたいと願うようになる。そのことから、さらに引き返せない道へと踏み込んでいく。

映画の中で印象的だったのが、自動車整備工場で働きながら、覚醒剤をさばいて得る金額が35万円と45万円だったことだ。映画館で「安っ」と思わず言ってしまいそうになるくらいの金額である。覚醒剤をさばくということは警察に捕まるリスクも大きい。そうなれば人生は終わり。また、先輩のヤクザや敵対するグループからの暴力に対し、自分自身、そして自分の大切な人をかなりの危険に晒す。その代償としての金額がコレである。

私なら絶対にやらない。アホらしい。

しかし、アホらしいと思える環境の中に育った私は恵まれているのだろう。35万円では認知症の施設に母を預け続けることは難しい。45万円で引っ越しをし、結婚をして、出産させて、子どもを育てていく。その45万円はずっとあるわけではない。しかし、子どもは待ったなしで大きくなっていくし、大きくなればなるほどお金がかかる。この日本においても、こういう生き方しかできない人がいる、ということをこの映画で知った。

とはいえ、このくらいの尺を取るのであれば、もう一歩踏み込んでほしかったところもある。でも、メイド・イン・ジャパンものでこんな映画が見られるのは正直うれしい。

#映画 #映画評 #コラム #ケンとカズ

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