ガイズ&ドールズ 感想

 ガイズ&ドールズを観てきました。
 実はこの文章は帝劇公演中に書いていたのですが、中止が続き、公開するかずっと迷っていました。大千秋楽、本当におめでとうございます。

 キャストの豪華さ、舞台セットの巧みさなど、このミュージカルの素晴らしいところは沢山あるのですが、私はメインカップルの一組であるサラとスカイの恋をする様子がとても好きなので、2人を中心に感想を書き残したいと思います。
 余談ですが、私はサラ役の明日海さんのファンで、井上さんの舞台は初見でした…!井上さん、とってもかっこよかったです。リーディングプロジェクトのチケット、確保してしまいました!(ダディのチケットは取れませんでした…)
 セリフは英語台本を参照しましたが、日本語訳に関してはうろ覚えなのでニュアンス等間違っていたら教えてください!

①驚きのスピード感


 まず、2人の恋で書き残こしておきたいのは「時間」。
 オールドミュージカルということもあり、おとぎ話を見るように楽しめる今作ですが、要所要所でかなりはっきり今何時なのか時間が述べられているんですね。
 私が覚えているだけでも、時間が明示されている箇所は5つあります。
 まずは、スカイがサラをハバナに誘う場面。「明日12時に迎えにくる」とスカイはかなりはっきりとサラに伝えます。スカイがサラと待ち合わせをしたのは、お昼、12時だと分かります。
 次は、翌日、ギャンブルに参加する予定の男たちにカーネーションを配るベニーが「だがもう11時だ、これ以上待たせられないぜ」とネイサンに伝える場面。この場面で、ネイサンはアデレイドと結婚することを決めた後、サラが救世軍の中にいないことに気がついてひっくりかえります。
 そのあと時間が明示されるのは、ハバナの酔っ払いの場面。時間の経過が時計で表されるのですが、時計の針は最初21時を指していたような気がします(ここ、暗転中でもふらふら酔っ払って移動する明日海さんばかり見ていたので確信が持てません…もっと遅い時間だったかも…もしご存知の方いらしたら教えてください)
※追記時計の針は7時(19時)を指していたそうです。全然違いました…!!すみません!教えてくださった方、本当にありがとうございます。
 そして、朝、NYの街に帰ってきてからの場面。「今何時?」と尋ねるサラに、スカイは「さあ…4時くらいかな?」と告げます。「こんな時間まで起きていたの、初めてだわ」とサラが呟くのがかわいい。
 最後に時間が明示されるのは、2幕の真夜中の祈祷集会の場面。「もう3時になりましたが誰も来ないようですね」とカートライト将軍が呟きます。その直後、賭けに勝ったスカイが12ダースより多めの悪人を連れてきてくれてことなきをえるのですが、3時になった瞬間のサラはかなり絶望的な顔をしていてかわいそうでかわいいです。
※追記・こちらも誤植で、正確には0時でした……!!!本当にすみません…!確認不足です。こちらもご連絡いただいた方、本当にありがとうございました…!
 ちょくちょく脱線しましたが、劇中で時間が明示されているのは、スカイとサラの場面が多いことが分かります。そして対照的にアデレイドとネイサンの場面では、現在時刻はほとんど述べられていないということも面白い。「今日は俺たちの14周年目の記念日だ!」や、「14年も婚約したままなんて、ママには考えられないもの!」など、年月を表す数字は頻出するのですが、ネイサンとアデレイドが何時に会っていたのかは、ほとんど分からないんですね。
 スカイとサラがとても短時間で運命的な恋に落ちたのがよく分かる、面白くてロマンティックな演出だと思います。
 サラがNYから帰ってきて、スカイに想いを告げられるのは午前4時。そして翌日の祈祷集会が午前3時からはじまったことを考えると、アデレイドとサラが意気投合したのは4時ごろなんだろうということが考えられます。気持ちを伝え合ってから約24時間で結婚を決めるなんて、サラ、なんて漢気のある女なんだろうと尊敬せざるを得ません。
※追記・すみません、こちらも祈祷集会の開始が0時からなので、アデレイドと会っている時間は多分1時くらいですね…24時間、たっていなかった……サラ、やっぱりすごい女だわ………
 ちなみに、これは時間とは関係ないですが、最後のエンディングのNYの街並みの場面、オープニングにいた旅行者っぽい二人組がまだちゃんと観光しているんですね。そのことを鑑みると、本当に恐ろしいスピードでスカイとサラは式をあげたのでは…??と思っています。

②スカイとサラの「恋してる」演技がとてもよい

 どうしようもなく相手のことが好きになっちゃったんだな…!とセリフや楽曲以外からも感じられる瞬間が沢山あり、明日海さんと井上さんの演技の巧みさを随所で感じることができることも、スカイとサラの恋する姿が持つ大きな魅力だと思います。

「サラ・明日海さん」

 伝導所ではじめてキスをする前に歌われる「I’ll know」。この曲中で、歌うスカイを見るサラの眼差しがどんどん変化していく様子が私は大好きです。スカイとはまるで正反対のような理想の相手を語りながらも(『ギャンブラーでないってことは確かね!!!』って言っていたのに…!)その直後にキスをしてしまうなんて中々矛盾しているのですが、どうしようもなくスカイに惹かれてしまっていることがその眼差しから伝わって来ます。無理矢理キスされたわけではなく、サラ自身が望んでスカイの唇を受け入れたのだと、歌うスカイをみる眼差しだけで感じられる点が、やはり明日海さんの演技の素晴らしいところだと思うのです。
 また、明日海さんの瞳の演技が一際際立つのが、ハバナから帰ってきたあと「My time of day」を歌うスカイの後ろを歩く場面。『これが俺の生きる時間』と歌うスカイの後を歩きながら、今まで知らなかった夜明け前の街を眺めるサラが、街中を愛おしそうに眺めるのが、私は本当に大好きです。誰かを好きになるとその人にまつわる全てが少しづつ大好きになってしまうのは「恋」のあるあるだと思うのですが、夜明け前のNYの街を歩くサラからの瞳からは、スカイを好きになったことで、スカイの生きてきた世界まで愛おしく思っていることが伝わってきて胸がいっぱいになります。また、恋していると世の中がいつもより美しく見えるというのも「恋」あるあるだと思うのですが、この瞬間のサラもまさにそうなんだろうと感じられるのも、この場面のとても好きな点です。照明が美しく街を照らすわけでも、大勢のダンサーが舞台を華やかに埋めるわけでもない。でもあの瞬間、サラにとってはあの街がとても美しく見えているのだろうということが、客席で観ていても伝わってくる。そんな瞳のお芝居をされる明日海さんのサラを堪能できる点が、やはりスカイとサラの恋する姿が持つ大きな魅力だと感じます。
 さらに、これは2人の恋とは少し話がずれてしまうのですが、明日海さんの瞳の演技が素晴らしいなと感じるのがアーヴァイドが歌う「More I Cannot Wish You」を聞いている場面。この場面でも明日海さんは、歌いながら語りかけてくる相手を見る、という受けのお芝居をするのですが、先程の場面でスカイを見ていた眼差しと、アーヴァイドを見る眼差しが全く違うんです。アーヴァイドはサラの後見人であり、サラは家族に向けるような親愛の情を抱いていて、そこには甘えからくる強情さや頑なさのよう何ものも含まれている。恋慕を抱いている相手とは全く別の、でも確かに愛する人に向ける眼差しで、歌うアーヴァイドを見るサラの姿に、スカイと恋をしている時とはまた別の意味で私は毎度泣かされてしまうのです。

「スカイ・井上さん」

 井上さんのスカイはどの瞬間を切り取っても最高にかっこいいのですが、サラと対峙したとき、ふっと雰囲気が柔らかくなる瞬間がたまらなく素敵だなと感じました。
 スカイは冒頭でネイサンと出会う際、女性の肩を抱いて出てきます。その姿はまさにプレイボーイ!あんなにカッコいいので、サラと出会う前の「俺は女を見下してるわけじゃない。だが、そばにいてほしいときにいてくれればいいし、そんな女を見つけるのはわけもない」なんてセリフにも非常に説得力があります。
 スカイはその後、賭けの対象としてサラを落とそうと伝導所を訪れます。スカイにとって、サラはあくまで賭けのネタ。しかし、はじめてキスする瞬間、スカイはとんでもなく優しくサラに触れているように感じます。あの一瞬の空気の甘さと言ったら!先ほどネイサンと会ったときに女性の肩を抱いていたときとは明らかに全てが違うのです。
 スカイにとってサラを落とすということは、勝ち負けをかけたゲームです。それゆえに、いつスカイが恋に落ちたかは、サラほど明確に演じられていないように感じます。また、井上さんのお芝居は日々動きがあって、サラへの感情がいつ変化したのか、日によって異なるように感じられるのも魅力的です。それでも、どんな日でもあのはじめて唇が触れ合う瞬間、スカイにとってもサラが特別な人になるのだろうなと分かる。そんな空気を一瞬で作り出せる井上さんのお芝居はなんて素敵なのだろう…と観るたびにときめきました。
 また、スカイの醸し出す甘い雰囲気に酔いしれることができるのが、「I’ve Never Been In Love Before」。サラに近づいたのは賭けがきっかけであったことをハバナで告げることができた安堵もあるのか、あの場面のスカイはとても無防備で、どこか無垢な感じさえするのが愛おしいなと思います。「止められない この恋」と歌いながらスカイはサラの手をそっと握るのですが、この瞬間のサラへの触れ方がほんとうに優しくて、もはやおずおずと握っているようにみえるような日もあり、冒頭のプレイボーイが…!!と毎度胸がいっぱいになっていました。また、サラからそっとスカイの腕に手を回すシーンでは、サラの手を両手で包むように優しく握っていて、彼女のことをとても大事に想っていることが伝わります。賭けの勝ち負けを超えて、本当にサラのことを愛してしまったのだと歌詞の内容だけでなく、サラへの触れ方など全身から顕著に感じられる点がどうしようもなく素敵だと思いました。

③2人の関係性の描かれ方について

 最後に、この物語の中でスカイとサラの恋がどのように描かれているかについて書き残そうと思います。
  この2人の恋の何がいいって、どちらもちゃんとそれなりに大人だと感じられるところだと思います。恋物語は世の中に沢山ありますが、不器用な大人の恋をここまで粋に、そして陽気に描いているものは、久しぶりに観たような気がするのです。
 スカイとサラはガイズ&ドールズの主軸を担う2人ですが、2人が最終的に結ばれる瞬間は作中では描かれていません。結婚することを決意したサラが、朝焼けの中飛行機に乗り込もうとするスカイを呼び止めてキスをし、2人は永遠を誓う…そんな場面を描くことだって可能だったはずなのに(正直めちゃくちゃ観たい)それがあえて描かれないないところが、この物語の粋なところなのかなと思います。作中で2人の恋が描き出しているものは、恋が成就する喜びではなく、「愛する人のために変化する」ことの尊さのような気がするからです。そして私はそんな2人の変化の描かれ方が、この物語に深い魅力を与えているように思います。
 サラは救世軍の軍曹で、「清く正しく、貞淑に」生きてきた女性です。仕事熱心で、使命感に満ち溢れ、NYの人々にギャンブルから足を洗ってほしいと願っています。その一方で、看板の内容を間違えていたり(引用元を間違えるって結構なミスよ!笑)救世軍の活動が上手くいかず「ぶっ壊してやりたいわ!ブロードウェイの端から端まで!!」と言いながらため息をつくなど、スカイと出会う以前から、少し抜けていて、人間味のあるキュートな一面ももっていることが窺えます。
 また、スカイはサラとは反対にギャンブラーとして名を馳せてきた男です。何てったって通り名の由来が、賭ける金額が天に届きそうなほど高値だから「スカイ」!しかしそんなスカイも、聖書を12回以上読んでいて、サラの看板のミスを指摘できるほど宗教の知識があるのです。
 2人は人間的に正反対のようで、出会う前から決して正反対ではないような気がします。2人が出会ってからの変化は、自分の信じた道を進むためにわざと目を背けてきた自分の一面にスポットが当たったようなものでもあるような気がしているのです。
 例えばサラはハバナで酔っ払い、普段からは想像もできないようなはっちゃけた姿を見せますが(これがもう…!本当にキュート!!)そんな姿はスカイに引き出されたものであると同時に、元々サラが持っていたものでもあるように思うのです。だからこそ、その姿はとても生き生きとしていて、魅力的であるような気がします。
 また、「元々持っていた自分を引き出す」という点を最も感じられるのが、スカイがサラに本当の名前を打ち明ける場面。「オバダイア」と本名を呟いたあと、「神の僕…?」と尋ねるサラに、スカイは「オバダイア・マスターソン、俺の本名だ。誰にも言ったことはない。君が…はじめてだ」と告げるのです。はじめての想いを知った結果告げるものが「本当の名前」であることは、恋した結果引き出された自分が「隠していた本当の自分」であることを表しているようで面白いと思いました。深読みのしすぎかもしれませんが。恋をした結果得る変化が「新しい自分を知る」だけではなく、「相手によって、今まで隠してきた自分が引き出される」ことでもあるのが、ガイズ&ドールズが大人の恋物語であると感じられる所以なのかもしれません。
 2幕では更に変化する2人が印象的に描かれます。2幕で描かれている変化は1幕とは異なり、それぞれの生き方、ないし考え方に対するものであるように思います。
 私はスカイが「Luck be a lady」の冒頭で『跪き祈る今』と歌う場面がとてもすきです。生粋のギャンブラーで、サラに出会う前には「俺は女を見下してるわけじゃない。だがそばにいてほしいときにいてくれればいいし、そういう女を見つけるのは訳もない」と言っていたスカイが、ただ1人の女性のために、跪き祈りながらサイコロを振るのだから。
 そしてまた、スカイに出会ったばかりの頃は「私は賭けたりしません!」と言い切っていたサラが、物語最後にはアデレイドと「そうこれはギャンブル〜!賭けるしかな〜い!」と高らかに歌い、ギャンブラーとの結婚を決意する場面も大好きです。
 2人は自分が信じてきた人生とは全く別の生き方をしてきた人を愛したが故に戸惑い、「よくないことなんだ」と時に思い悩みながらも、柔軟に変化し、そして結ばれていく。愛する人のために変化していく2人は前向きで、とても魅力的です。
 しかし、スカイがサラとの約束を守るために利用した手段はギャンブルでした。そしてサラがネイサンから「その男は、その女をハバナに連れて行けなかったと、話していたぜ」とスカイの真心を告げられるのは祈祷集会での告白の時間です。スカイが凄腕のギャンブラーで、サラが一生懸命救世軍の活動に励んでいたからこそ、2人は結ばれたのだとも言えます。
 私はガイズ&ドールズの、今までの人生を過剰に否定せず、それでも、正反対のような人生を歩んできた2人が結ばれるという点が大好きです。愛する相手のために全てを捨てるのではなく、新しい考え方や生き方を受け入れて、自分の人生に応用していく。その先で2人が結ばれるということが、とても素敵で魅力的であると同時に、やはり大人の恋物語であると感じます。
 「はじめての想い」でありながら、2人にとって「恋はワイン」。大人で洒落ていて、でも大人だからこその不器用さもある。変化していく2人からはそんな大人の魅力を感じました。
 古い価値観、と言われがちなストーリーですが、やはり愛され続ける物語には、誰かを愛するということに対する普遍の愛おしさのようなものがあるように思います。度重なる中止で祈るようにみたミュージカルでしたが、観終わった後、私もサラのように『馬鹿げたことやらかしても、泣いて笑ってキスして』どうにか生きていこうと前向きな気持ちになっていました。こんな大変な情勢の中、どこまでも美しく魅力的に舞台の上で恋をしてくれたスカイとサラ、そして舞台に携わる全ての方に心からの感謝を込めて。

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