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恐怖の孤独のグルメ

薄暗い古いビルの地下。
人はいるはずなのに誰の声もしない…いや、本当は誰もいないのだろうか?

大盛りカレーを前にした猪五郎は生きた心地がしない。

憂鬱な灰色の雲が空を覆う日暮れ前、
遅めのランチをとろうと初めてのカレー屋に入店した猪五郎。

(猪五郎は酒も飲むしチェーン店にも入ります。あとこの店は閉店しています)

ご飯だけが多い。カレーの量に対してご飯が少ない。
そう…「大盛り」とはご飯の大盛りで、ルー部分の量は増えない仕組みだったのだ!

人間が死の次に恐れること。
それはカレールーだけ先になくなりご飯が余ること。
(スパゲティミートソースも同じ)


そうだ、猪五郎は昔からご飯が余ることを極端におびえる子供だった。
(これも一種のギフテッドだったのかもしれない)
食べ始めはやたらカレーをケチり、ご飯ばかりを食べていた。
結局最後はカレーばかりが余ってしまっていた。

大人になり猪五郎はようやくカレーとライスのバランスをとれるようになっていった。
もしnoteの投稿企画に「#大人になって身についたもの」というお題が出たら、それはnote運営から猪五郎のために出されたものであったろう。

しかし今…目の前にあるカレーは、情け容赦なく猪五郎の人生を揺さぶってくる。

大丈夫だ、子供のころを思い出すんだ。とにかくご飯を減らすことを考えるんだ。
そうだ、どんな恐怖映画も解決にむけてがんばっていけば主人公は助かるものだ。

いや…
「オーメン」の神父は死んでしまった。「リング」の竹内結子も貞子に殺されてしまった。
焦る猪五郎。俺もそんな凄惨な死を遂げてしまうのだろうか?

反撃できるか。ぎゅっとスプーンを握りしめる猪五郎。

カレーに入ったトマト。
ふだんはおかずとしてはご飯の相手にもされていないトマトだが、今日はお前にゲームメイクを託すしかない。
トマトをおかずにご飯を食べ進める。
トマト、オクラ…今日は大き目にカットされているのがありがたい。


着々とご飯が減っている。
その調子だ。このまま脱出口までたどり着くんだ。
奴らに気づかれる前に!


しかし!

カ、カレー部分も減っている!

そうだ、カレールーの領域だと思っていたのはトマトなどの「具込み」の質量だったのだ。
大きなウエイトを占めていたトマトたちがいなくなってしまえば、カレールーの領域も減ってしまう。


結果的にご飯とルールの割合は変わっていない。
野菜という武器すら使い果たした猪五郎は今や無力だ。

もういい。そもそもカレーとご飯を楽しむためにこの店に入ったはずだ。
存分にカレールーを味わおう。
たとえその先に待ち受けるのが荒廃した世紀末だったとしても、楽しみをケチりながら生きていくことに意味があるだろうか。

VIVA人生。今もっているもので人生を楽しみつくすのだ。


救いの声「待て!やけになるな!」

猪五郎「お、お前は…」

らっきょう「俺がいるぜ!」

猪五郎「ら、らっきょうぅぅ!!」


窮地に立たされた猪五郎の前にあらわれた卓上のらっきょうは救世主となるのであろうか?
この話は続かない。こんな話に。


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