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いい加減・それがインド

ヨガニケタンでは、日曜日は安息日としているので瞑想もヨガのクラスもなくいつもよりもゆっくり起きる事ができる。その代わり自由参加で、朝食前にヨガホールをみんなで大掃除をしたりする。

滞在者の人数によってできる掃除が決まるので、一概にはいえないのだけれど、先週は窓ふきをしたから、今週は床掃除など掃除をする箇所が変わる。

当時ヨガホールには、巨大な絨毯が床の上にしいてあったのだが、私にはずっと気になっていたことがあった。それは、出入り口に近い部分の絨毯が、いたるところを切り落とされて、ジグザグになっているということだった。

その理由は、掃除の際に判明した。その日は、滞在者が過去最高に達したため、絨毯を避けて床拭きをすることになった。掃除が終わった時、絨毯を敷き直すと、ヨガホールの後方部にある柱にぶつかって、元の様にきっちり敷くことができない。そこで、もう一度絨毯を巻いて、敷き直そうとした時だった。四人いるヨガの先生の内、一人の先生が

「そんなことしなくても、ここを切ったらいいよ」

と、柱のそばの余剰の絨毯を指差して、すました顔でさも当たり前のようにさらりと言う。

その発言で、掃除で絨毯を外すたびに切り抜かれた場所がズレると、新たに絨毯を切り込んだ結果こうなった、ということがわかった。その発言は、おそらくインド人の感覚によるものなのだろう。同じようなことが空ちゃんと私のシェアルームにも見てとれた。

空ちゃんと私のシェアルームは一階のため、比較的涼しく過ごすことができる。日に日に気温が高くなってきたリシケシュでも、日中に太陽に温められた空気が部屋に侵入しなければ、一日中快適に過ごすことができるほどだった。玄関の目の前に生えている大きな木も、木陰を作って涼しい環境を作ってくれていた。

しかし、4月も半ばに差し掛かると太陽に熱せられた空気が、部屋の中に入り込んで過ごしにくくなる。そこで日中は熱気が入らないように、戸締りしようという話になった。

私が窓を閉めてしっかりと固定しようと、窓についていたスライドボルトの鍵をロックしようとした時だった。その瞬間、私はこの窓を永久にロックできないことを知る。スライドボルトの鍵部分と、壁に取り付けられている受け入れ部分が微妙にズレていて鍵の部分と一致しないのである。

私が突然笑いしだしたので、空ちゃんが理由を尋ねる。空ちゃんと一緒にしばらく笑ったあと、このスライドボルトを取り付けた職人について考えた。きっとこの鍵を設置した職人は、見習いだったに違いない、と。鍵をつける仕事が初めてだったのだろう。もしかしたら、この部屋の最後の仕事で、親方に早く仕上げろ、とせかされていたのかも知れない、などと軽口を叩いてさらに空ちゃんと笑い転げた。

インドの人は、なかなかいい加減である。私が細かすぎるのかもしれないが、基本的に物事をざっくりとアバウトに考えている節がある。全員が全員ではないにしても、私がこれまで出会ったインド人を見る限りでは何事も『目分量』だなぁ、とよく思う。

以前働いていた職場で、インド人のシェフが新人シェフに指導している時だった。私の目の前で小麦粉を計量カップで測る際、彼は小麦粉を擦り切らずに山盛りにしたものを「1カップ」と数えている。それを4回繰り返した時、それでは、レシピ通りにならないだろうなぁ、と思いつい注意してしまった。さすがに新人の前で注意されたことに腹を立てたのか、

「そんなことはわかっている!」

と、あからさまに不機嫌な顔で応える。「では、なぜそうしない」半ば呆れて問うと、黙ってしまった。この件に関しては、私の配慮が足りなかったせいもあるが、基本こんなことはしょっちゅうで、調理も常に適当なのが気になった。もちろん、世界的に有名なシェフ・ガガンのような方もいるので、インド人が全てそうだとは言いにくい。

ただ、国民性なのだろうなぁ、とは思う。インドを旅していた時、レストランでよく頼んだ「チョウメン」というお気に入りのメニューがあった。中華麺と野菜を炒めた、いわゆる「焼きそば」で、面白いことに同じ店であっても野菜や味付けが頼む度に変わる。味付けにブレがあるのは、その場で合わせる調味料の配合だからしょうがないとして、野菜が毎回違うのも、インドらしいなぁと思う。

ダラムサラに滞在した時は、空ちゃんがランチにチョウメンを頻繁に頼んでいたのでよく覚えている。チョウメンを頼む度に、同じレストランであるにもかかわらず、毎回違う野菜で仕上げられていた。

数年前に一緒に働いていたインド人シェフにチョウメンを賄いで作って欲しい、と頼んだらフライドポテトの残りを利用して作ってくれたことがあった。

手早く、しかし鮮やかに作りあげるその姿を見て、彼らの持つ型に捕われず自由に料理を愉しむ本質をみた気がした。そして、ダラムサラで毎日違う野菜で作られたチョウメンを思い出し、きっとその日の食材を利用して料理を楽しんでいたのだろう、と思うことにしたのだった。


読んでくださり、ありがとうございます。楽しんでもらえたなら、冥利につきます!喜んでもらえる作品をつくるために、日々精進しています(*^^*)今日も良い一日を〜♪