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値段の付け方・屋台のマンゴー:後編

後編:セクハラ屋台への反撃

インドの値段交渉には、普段使わないエネルギーが必要になるため、結構しんどい時がある。しかも、外で交渉をしていると野次馬が集まってくることもある。あまり人の目に触れるのが好きではない私にとって、非常にやりにくいことこの上ない。

最近、インドの値段交渉について調べていたら面白い記事を発見した。その記事を書いている方は、インドの値段には人情が入っているという理論を述べていた。同じものでも人によって値段が違うのは、『知り合いか、そうでないか』つまり売り手が買い手に対して『人情があるか、ないか』ということらしい。なるほど、そう考えるとわかる気がする。知り合いならおまけをしたくなる心理と一緒なのかもしれない。そう考えるとインドでの値段交渉も楽しいものになりそうである。

インドの屋台は色んなものを売っている。アイスキャンディーを売りながら自転車で移動する屋台。ザクロを絞ってジュースにしてくれる屋台もあった。サモサなどを屋台で揚げて売ってくれるところもある。屋台が好きな私にとっては、見ているだけでも楽しかった。そして、セクハラ屋台へのリベンジは、思いもよらずにやってくることになる。

たまたま、馬場さんが町へ行くというので、暇を持て余していた私はついていくことにした。いつもの場所で、いつものセクハラ店主が店を開いていた。店主は私を見るなり手を振ってきて、「久しぶりだな!どうしてた?」と声をかけてくる。馬場さんが、マンゴーを物色しているのを横目で確認すると、案の定「1個5ルピーだ」という。

馬場さんが渋っていると、セクハラ店主は「じゃあ、2個で7ルピーはどうだ」と自ら交渉を始めて袋にマンゴーを詰め始める。私がその横で、「7ルピーなら、マンゴー4個だよね」というと、セクハラ店主は眼をひん剥いて私の方を勢いよく見ると固まった。

こういう時のインド人の反応は面白い。いつも思うのだが、本当のことを言われたり、嘘を見抜かれたりした時は固まって動かなくなる。思考回路がショートして、まるでパソコンがフリーズ状態に陥ったような反応を示す。固まっている店主をよそに、私は勝手にマンゴーを2つ追加で袋に入れた。それを笑顔で見守っていた馬場さんが7ルピーきっちり払う。店主はしばらくうらめしそうにこちらを見ていたが、反論する気はないらしく、そのまま7ルピーを受け取った。

今思うと、ちょっとやりすぎたし、自分の土俵でない場所でやり返してしまったのは失敗だったなぁ、と感じる。しかし、インド人の立ち直りは驚くほど速い。その翌日から、私がマンゴーを買いに再び通い始めると、いつもの店主に戻っていた。けれど、その日から店主は私に5ルピーでマンゴーを3つ袋に入れてくれる様になった。ただし、前日の土俵違いについては、少し責められたのだったのだが・・・

馬場さんは、私のこの『図々しい』成長をひどく喜んでくれた。聞けば、田舎者丸出しの私が、今後のインド旅行で騙されたりしないか、ひどく心配してくれたのだそうだ。けれど、このマンゴーの一件で、私がインドで生き残っていくための術を身につけ始めていることを実感した、と言ってほがらかに笑った。

私はこの時、全ての選択は自分自身の責任なのだ、と知った。1個5ルピーでマンゴーを買っていたことも、5ルピーで3個買うことも、全ては自分の選択なのだ、と。そしてそれは、おそらく全ての瞬間において、自分の意思決定で決まる。そして、これから始まるインド旅行で、そのことを強く実感することになるのだった。


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