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インド旅行・睡眠強盗の手口

宿に帰ると泊まっていた部屋から出ろ、と言う。違う部屋を用意しているから、その部屋に移れとのこと。代わりの部屋に案内されると、インド人が2人で藁のホウキを使って部屋の床を掃きながら出て行った。部屋は幾分グレードダウンされている・・・朝、バス代で揉めた事が影響したのだろうか・・。

部屋の壁に不自然に吊るされたカーテンがあり、ゆらゆらと動いていた。そっと覗くと、下の階から壁沿いに吹き抜けのような隙間が空いている。小さな窓がひとつだけついているこの部屋の換気具合を、この吹き抜けで良くしているのだろうか・・・私は退屈に任せてくだらない事を考えていた。リシケシュ行きのバスが出発するまで、まだ7時間以上ある。夜の移動に向けて仮眠を取ろうと言う事になった。

空ちゃんはベットに横になると、そのうち静かな寝息を立てて眠ってしまった。私は、この謎な部屋で眠れる気配もなく、ただベットに横になって黙って天井を見ていた。実は成田から移動して来て以来、まったく気を休める事ができず、いわゆる興奮状態にあった私は昨夜も短い睡眠を繰り返しただけだった。

夕方の4時になって、まだ出発までは3時間もあるというのに、その不思議な部屋で天井を眺めるだけの時間に我慢が出来なくなってしまった。私は起き出した空ちゃんにそう告げると、荷物をまとめて部屋を出る事にした。フロントにいる方が人も出入りするし、陰鬱な気持ちにならないんじゃないか、というのが私の考えだった。空ちゃんも特にこの部屋に未練は無いようで2人揃って荷物をまとめ、部屋を後にした。

2人でフロントのソファに座っていると、フロントでチャイを飲んでいた従業員が「チャイでも飲むか?」と聞いてきた。「YES」と即答したのは空ちゃんだった。

私が当時読んでいた本の中で、こんなくだりがある。

「インドを旅行中にチャイを勧められて飲むと急に眠くなり、気がつくと身ぐるみ剥がされていた」

いわゆる「睡眠薬強盗」と呼ばれている犯罪である。この睡眠薬強盗に使われる睡眠薬は強力で、数日意識が戻らない場合もあるというから恐ろしい。最悪の場合、死に至るケースも報告されているので、目が覚めるだけまだ良い方なのだ。更に考えられないことに、仲良くなったインド人に薬をもられるケースもあるというのだから想像を絶する。今ではそんな事はもう無いだろう、と検索してみて仰天した。最近でもまだ現役の犯罪であるらしい。付け加えて、これはインドだけに限った手口ではないらしい。

私は昼間に食堂で飲んだチャイの美味しさを思い出しながら、丁寧に断る事にした。今、ここでインド旅行を終了してしまっては意味がない。リスクは避けよう、という小心者ならではの判断だった。朝のバス代の事件で、多少疑心暗鬼に陥ってしまっていたのかもしれない。隣では、空ちゃんが美味しそうにチャイを飲んでいる。余計な事は言わないでおこう。2人連れで片割れしか飲まないチャイに、睡眠薬を入れる輩はいないだろう。

NOと言えない日本人にとっては、出されたものは受け取るという文化も相まって、この被害にあう人が後を絶たないという。これからインドを旅する人は、どんな手口があるのか知って欲しいと思った。もちろん、インド人が全てそうだとは言わないし、人と人のふれあいこそが旅に色付ける事も私なりに知っている。しかし、地球上にはいろんな価値感を持っている人がいると言う事を忘れてはいけない、と私は思う。事前に手口を知っておく事で対処や選択が増えると言うメリットもある。その国のルールや治安状況を知る事で、より旅を楽しいものにしてほしい。

約束の時間になって2人の男が私達を迎えにきた。いよいよリシケシュに出発する時がやって来た。荷物を背負うと、この2人に付いてホテルを後にする。外はすっかり暗くなり始めていた。

読んでくださり、ありがとうございます。楽しんでもらえたなら、冥利につきます!喜んでもらえる作品をつくるために、日々精進しています(*^^*)今日も良い一日を〜♪