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インド旅行・かばんの中身

エア・インディアが8時間遅延した事で、私たちの成田空港をうろつく時間が増えた。大荷物を抱えてうろうろしている時に、ふと目があった女の子がいたので、田舎者の癖と職業病が相まってつい挨拶をしてしまった。彼女はとてもいい人で、見ず知らずの私の挨拶に応えてくれた。

聞くと、彼女も同じ飛行機に乗る予定なのだという。これからインドのムンバイに3週間ほど滞在する予定らしい。私たちの飛行機はデリーを経由してムンバイに向かう便だった。彼女はインドを訪れるのはもう数回目だというベテランで、小さなリュックを一つ背負っている状態だった。まるで、これから近くのコンビニに買い物に行く、ような大きさのリュックである。

私が当時情報収集の為に読んでいた本には、インドに着いたら預け荷物が消えていたとか、預け荷物がナイフで切られて中身を取られていたなど恐ろしい事が山盛り書いてあった。その事もあって、私は機内持ち込みができるサイズ・重さのバックパック一つでインドにいくと決心し、必要最低限の物だけを詰め込んだつもりだった。それなのに、その日の私のバックパックは、もとの形とは随分違う形状に腫れ上がっていた。

彼女の背中の小さなリュックを見て、私は当初、荷物を既に預けた後なのだろうと思い込んで「荷物は預けられたんですね」と聞いた。彼女はキョトンとした顔をした後に少し笑って、

「あ、いえ。荷物はこれだけなんですよ」

と背負っているその小さな鞄を指差した。私は仰天して漫画のように「え!!」と叫び、咄嗟に一体その小さなリュックに何が入っているのかと聞いてしまった。’聞いた’と言うよりも、私の心の声が口から出た状態に近い。初対面の人にあまりにもぶしつけな質問をしてしまったのだが、彼女は気にしていないようで、

「シーツが1枚と、後は化粧品ですかね」

と再び耳を疑う様な答えを平然と言った。シーツ?なぜシーツ?私の頭の中はカオスだった。予期せぬ答えが2回も続くと、私の様な小心者の人間はパニックに陥るらしい。彼女によると、シーツが一枚あればそれを頭から被って駅でもどこでも眠れるから、との事だった。今考えても、言葉を失うくらいすごい理由である。

私がインド旅行において一番関心があったのは、トイレ事情であった。私の荷物が原型を留めないほど膨れ上がっていたのは、無理やり作った隙間にトイレットペーパーを詰め込んでいたせいだろうと思う。ところが、目の前にいる彼女はトイレットペーパーなど持っていない。私がトイレ事情について聞くと、この旅人は快くアドバイスをくれた。インドのトイレ事情については彼女の話も含め後々紹介するつもりだが、大雑把に言って「なんとかなるよ」という話だった。

空港で出会ったその彼女はまさに旅の達人であり、今で言うミニマリストであったのかもしれない。

出発の準備に追われている間、私が一番気になっていた事はインドの排水事情だった。インドのゴミ問題や排水事情はその当時から問題視されていた。生活排水は全てそのままの状態で河川に流され、ゴミも路上にそのままぶちまけるという。自然のものは自然に帰るという理念と、インドの身分階層・カースト制度、近代化による石油製品の発展が複雑に関係していて一筋縄には解決できない問題として取り上げられていた。インドにお邪魔するに当たり、私にできる事は石油製品のゴミを極力出さない事くらいだった。

その当時、私は地球環境にとても興味があり、仲の良い友達も同じ問題に興味があった。もともと空ちゃんと出会ったのは、地球環境と食料問題に取り組んでいた彼女のお姉さんを通じてだった。彼女は地球環境に優しい日用品や繰り返し使用できる生理用品など、私がインドに行く際に必要なものを取り揃えてくれた。そのおかげで、荷物自体は比較的少なくなっていたと思う。

ただ、当時の私にとっての未知の世界だったトイレ事情に対して私は踏ん切りがつかず、芯を抜いたトイレットペーパーを荷物の隙間に3つほど忍ばせていたのだった。


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