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インドの日常・洗濯編

インド生活が始まったばかりの頃、私にとって頭を悩ませていたことがあった。洗濯である。

日本で洗濯と言えば洗濯機が一家に一台在るため、自分一人の分であればさほど苦にならない。しかしインドでは、大部分の人が洗濯を手洗いで行う。もちろん、ニケタンに洗濯機はなかった。

私は日本から持ってきていた石鹸で衣類を洗っていた。この石鹸は空ちゃんのお姉さんから購入したのもので、自然に優しい成分で本来は体を洗うためのものだった。

バスルームに置いてあった大きなバケツに水を張り、洗濯物を浸したら石鹸を塗り、衣類を洗っていく。在る程度洗ったら、バケツの水を張り替えて濯ぐ。これを2〜3回ほど繰り返したら、水をある程度絞ってから部屋に張ったロープに吊るして干す。

もちろん、ロープに吊るした段階で、洗濯物からは水が滴るほど濡れているのだけれど、乾燥したインドではものの数時間で乾いてしまう。そして床も板張りではなくタイルなので、全く気にしなくて良い。

成田空港であったお姉さんの、「すぐに乾くから大丈夫ですよ」という言葉を思い出しながら、「本当にすぐ乾くなぁ」と感心していた。物にもよるけれど、ベットシーツなどの薄いものであれば、1時間もかからずに乾いてしまう。

私は服の替えがほぼなかったため、少なくとも2日に1回は洗濯しなければならなかった。この洗濯方法では、時間がかかるため毎日の洗濯は避けたい。加えてベットシーツなどの大きなものは、さらに骨が折れる。他の滞在者はどのように洗濯しているのだろう、とふと気になった。

洗濯が大変じゃないかと、朝食時に他の日本人に聞くと、インド式の洗濯洗剤があるよ、という。しかも使い方は簡単で、バケツに洗剤と水を入れてそこに洗濯物を漬け込むだけ。年に数回インドを訪れているベテランの馬場さんが「この洗濯洗剤を使うと、インドだなーって思うんだよね」と言う。

そんな便利な洗濯洗剤があるとは!と衝撃を受けた私は、その場で購入宣言すると、空ちゃんと一緒にいそいそと出かけることにした。ニケタンから出てすぐのガンジス川沿いに、雑貨を取り扱っている小さな店がある。洗濯洗剤を買うと、小さな箱に入ったものが2ルピーほどだった。

買ってきた洗剤で教わった通りに洗濯してみると、聞いていた通り、とても簡単であっと言う間に洗濯が終わる。私はこれ幸い、と色々なものを洗濯液の中に漬け込むインド式の洗濯に没頭した。

しかし、なんと言うか、洗濯物に洗剤が残っているような肌触りが気になる。服の繊維と繊維の間に洗剤が入り込んでしまったからなのか、それとも汚れが落ち切っていないのが原因なのか、服は日に日に滑らかさを失っていく。いつもゴワゴワした感触をもち、なんとも言えない不快感がある。やはり洗濯板の様な物で、こすり洗いが必要なのだろうか。

そう言えば、ガンジス川で洗濯しているインド人も、洗濯物をもみくちゃにして長い間こすり洗いをしていた。彼らがどんな石鹸を使用しているのかはわからないが、いかにも合成洗剤特有の白い泡が川に長い線を描いていたことを考えると、自然のものではないだろう。

川で洗濯という昔ながらの方法をとっていながら、現代的な洗濯洗剤を使っているのだから、おそらく自然にとって悪い気がするのは否めない。以前は、インドなどの熱帯地方では、”ソープナッツ”と呼ばれる木の実を使用した洗濯が一般的だったらしい。洗浄力が高く柔軟剤の役割を持ち、洗濯に優れたこの木の実は、かつて世界各国で使われていた。

洗濯ひとつとっても、世界にはいろいろな洗濯方法や洗濯洗剤が存在して、それがその国の文化なんだなぁと思う。ガンジス川の岩場には、カラフルなインドの服が洗濯された後に広げられていた。面白い干し方をするなぁ、と思いつつ、子供の頃に川で遊んだ後に、岩場で干して温めていたタオルにくるまるのが好きだったなぁ、などと思い出していた。

洗濯し終わる頃には岩場が太陽によって温められているので、洗濯物は岩と太陽の両面から温められて乾いていく。洗濯物を太陽に干すことが好きな私は、ニケタンで洗濯したら川に持ってこようかなと少し思いつつ、アジア人の私が岩場に洗濯物を干して近くでしゃがみ込んでいる絵を思い浮かべる。どう考えても、川で溺れた人間の服を干している図にしかならないな、と思い止まったのだった。


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