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アライグマシンポジウム備忘録、その2

アライグマの被害対策と個体数管理について
山本麻希(新潟ワイルドライフリサーチ副会長 長岡技術科学大学准教授)


アライグマ、ハクビシン、タヌキ、アナグマ…共通の生態→夜行性であるため生きた個体をまじまじ見ることは意外と少ない。(ロードキルで見かける程度)

(アライグマ防除の手引き 環境省H26より)

実は4獣の誰が出てきて被害を起こしているかがよく分からない状態→アライグマ被害が見過ごされているかもしれない、というのが現状ではないかと思われる。

1アライグマの防除計画
2アライグマの個体数管理
3アライグマの被害対策
について説明する


1.アライグマの防除計画について

まず…
外来種の定義について。
他地域から「人為的に」持ち込まれた生物。
その生物の移動能力を超えて人間が持ってきてしまったもの。
うち移動先で分布拡大したときに在来種の絶滅に繋がるおそれがあるなど、特に生態系への影響が大きい種や、人間の生活に大きな影響を及ぼすような種を「侵略的外来種」と呼ぶ。
法律上の外来種は明治時代以降に入った動物に限定される。
在来種→従来からその地域に生息生育するもの。

・4獣のうち外来種は…アライグマ、ハクビシン。ただし法律上の外来種はアライグマのみ。東南アジア原産のハクビシンはかなり古い時代から(明治以前)存在しているため古い外来種と考えられている。

・しかし外来種の定義とは…実はかなり曖昧である。
人為的に運ばれた生物…問題はいつ運ばれたか?
特定外来生物→明治以降に入ってきた種
それ以前でも人間が運んできた記録がある場合は外来種と呼ばれることもある。

・国内の移動に関しても外来種はある。例としてオイカワ(西日本では在来種)は新潟では国内移入種となる。同じ国内であっても本来いないものがやってくると国内移入種、国内外来種と呼ばれる。

特定外来生物とは?
外来生物法の目的
・「特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて国民生活の安定向上に資すること」
・「問題を引き起こす海外起源の外来生物を特定外来生物として指定し、その飼養、保管、運搬、輸入といった取り扱いを規制し特定外来生物の防除等を行うこと」
・特定外来生物の定義:外来生物であって生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定される。「侵略的外来種」の中から特定の種を選定し「特定外来生物被害防止法」で被害を防止するもの。


法律に基づくアライグマの捕獲許可について
(アライグマ防除の手引き 環境省H26より)

・外来生物法に基づく「確認・認定」→複数年の計画期間で捕獲数量の上限を設ける必要経費なし。生きている捕獲個体の運搬等を伴う防除が可能
・鳥獣保護法に基づく「捕獲許可」→許可を受ければ鳥獣法の禁止猟法等も使用可能

アライグマの場合は外来生物法の防除計画か、鳥獣保護及び管理法の有害鳥獣捕獲の2つの選択肢がある。
→防除計画による外来生物特有の制限を緩和する点が特徴的である。


在来種の野生動物管理の考え方
生存を認め絶滅することがないよう被害が酷くなりすぎないように適切な個体数で管理。
被害が軽微であれば生息状況のモニタリング
被害が顕著であれば捕獲侵入防止対策など被害対策の実施
被害が低減すれば目標達成、生息状況のモニタリングへ
タヌキ、アナグマ、ハクビシンはこちらの管理方法をとる。

特定外来生物の管理の考え方
地域からの根絶を目指した徹底的な捕獲を実施。
被害無しであれば情報収集と侵入阻止
定着初期、被害が軽微であれば初期対応による定着阻止
被害が顕著であれば分布拡大阻止、個体数低減、被害防止対策
被害が低減してきたら更なる捕獲、地域的根絶を目指す
根絶できたら目標達成、再侵入防止対策
アライグマはこちらの管理方法をとる。




アライグマの防除の考え方(アライグマ防除の手引き 環境省H26より)

(1)未侵入段階or重要な保全対象のある地域では侵入の予防が目標
近隣地域からの侵入を監視する。将来起こりうる被害を考慮すれば最も費用対効果は高い。
(2)侵入初期段階or分布の周辺部(生息密度低い、生息域狭い)では早期発見と迅速な完全排除が目標
生息数が少なく分布が限定されているため完全排除できる可能性が高い。一時的にかなりの資金を投じたとしても完全排除すれば費用対効果は高い。(ほとんどの新潟の地域はこのあたりか)
(3)定着・拡大段階or分布の中心部(生息密度高い、生息域広い)では外来種の駆除・管理が目標(段階的な目標設定)
当面は「分布域の拡大阻止(封じ込め)」「生息数の低減」を目標とする。次の段階として「分布域の縮小」長期的には「完全排除」といった段階的な目標を設定する。(上越、糸魚川市は現在このあたりか)


防除計画と実施(アライグマ防除の手引き 環境省H26)

(1)~(3)のステップで行われる。

(1)普及啓発
(2)生息・被害情報の収集
(3)防除の計画と実施

計画づくりは早ければ早いほど良い。遅いほど手遅れになる。なぜならばあっという間に増えるから。
とにかく増加率が高い。
イノシシより移動力が高い。
一度広がったら手遅れになる。根絶を目指すなら早いほうが可能性が上がる。



地域の防除実施の考え方
(b)「早期発見・迅速な完全排除」、(d)「低密度下での効率的な捕獲」の段階でいかに迅速に動けるかがカギである。
(C)高密度→低密度にしてそして根絶、と段階的に目標を設ける必要がある。

希少な野生生物が生息している、文化財が存在する場所は防除優先度が高い。




①普及啓発

・問題意識の共有→アライグマによる被害の重大性。防除の必要性、早期発見・早期対応の大切さ。
・生息情報の収集→被害や痕跡の見分け方など侵入を確認する方法、アライグマの生息情報の提供の呼び掛け。
・防除への理解促進→防除の目的・内容、最新の生息情報や捕獲結果。
・防除への参加推進→捕獲への協力、研修会への呼び掛け、捕獲方法のアイデア周知

チラシの配布、説明会の開催、回覧板、ホームページといった自治体等の広報媒体の活用
アンケート、聞き取り調査
できるだけ多くの情報を早く一人でも多くの一般市民に届けることが重要。
環境省によるパンフレットもある。こういったものを使用するのも良い。

環境省よりhttps://www.env.go.jp/nature/intro/4document/poster.html




アライグマの分布調査

足跡、爪痕(5本あることが特徴的)、ザリガニにみられる食痕(頭部が残されていることが多い)
餌トラップ(アライグマしか食べないようなものを仕掛ける)、足跡トラップ、センサーカメラ
痕跡調査法のひとつの神社仏閣における痕跡調査、こういった調査を行い早く分布を見ていく必要がある。


防除計画のまとめ

・アライグマは外来生物法で特定外来生物に指定されている。→飼養、栽培、保管、運搬、輸入が規制されている。

・防除計画を立てると捕獲数上限・生体の運搬規制が緩和される。→防除計画の最終目的は地域からの根絶。

・アライグマ対策は初動が最も大事。→高い増加率ゆえに手遅れになると何倍も費用がかかる。普及啓発、分布調査、集中捕獲を速やかに実施することが非常に重要となる。

つづく🐦

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