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『憑かれた僕らはワケあり物件に癒されたい ~足立不動産「沈められたファイル」~』感想

もちろん私の尊敬する榎木ユウ先生の新作なので読みました。

タイトルからは、怖い話系なのかな? と思っていたのですが、心霊現象自体というよりも、ヒューマンドラマに焦点をあてた切なくもあたたかい作品で、読んでいてタイトルのとおり私自身も癒されるような感覚がありました。

やっぱり榎木先生の作品はキャラクターがコミカルでポップなんですけど、じつは心のなかには繊細な優しさや寂しさを持っていたりして、そんなところがいとおしいです。

主人公の持つ悲しい秘密が本当に痛ましくて、でも足立不動産で続くなにげないような日々が、見えないところで少しずつ彼女を癒してくれていたらと思いました。

人間って誰しも、彼女のように、表面からはわからないような傷を抱えていたり、なかなか口に出せないつらい過去のひとつやふたつは抱えているものだと思います。
時間が解決してくれるのを待つしかない悲しみってたくさんあると思うのですが、その時間を何をして過ごすか、誰と過ごすのか、どんな日々を送るか……。タイトルは「憑かれた」と「疲れた」をかけたものだと思うのですが、ただ霊に憑かれているとか、疲れているというだけでもなく、過去に憑りつかれている、ということも含んでいるのかなと思います。

オムニバス形式で、主人公たちのドラマ以外に、ワケあり物件を求めるワケありな人たちが足立不動産を訪れるのですが、彼らの抱える個々のエピソードも現代でよくあるものだと思います。社会に適合するために我慢したり、自分を押さえつけたり。

本作の優しさが染み入って、私自身、読んだあとには心に爽やかなものが残ったような、洗われたような気持ちになりました。
しかしこの作品、主人公たちがその後どうなったかもめちゃくちゃ知りたい!


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