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『本屋さんのダイアナ』感想

柚木麻子著『本屋さんのダイアナ』を読みました。
買ったのはちょっと前だから手に取ったきっかけを忘れてしまった……。お友達からのおすすめだったかな?
とにかくたぶん少女小説のおすすめ作品として教えてもらったんだと思いますが、読んだら構えていた以上にめちゃくちゃ面白かったです。

最初は小学生の女の子同士の友情の話かと思ったのですが、主人公たちが成長するにつれ思春期と、そして大人になる(大人になったばかりの)時期の無力感と閉塞感、それよりもっと大きな希望が生々しく、ときに力強く胸にせまってきて圧倒されてしまいました。

主人公の名前が大穴と書いてダイアナっていうのもふるっていると思いますが、経済的に厳しい母子家庭のダイアナと、裕福な両親に育てられた彩子の友情の行方から目が離せませんでした。私は母子家庭育ちのわりに、母のおかげで何不自由なく中高は私立に通って大学まで出たし、兄もいたから父親の不在にダイアナほど苦しんだ覚えもなく、なんだかダイアナと彩子の経験の合の子という感じでどちらにも共感しました。恋愛が最後まで主題になることはなく、結婚するか否かのテーマは入り込まなかったのも興味深かった。それは自立した女性がそれぞれ判断することなので。

結構厳しい内容だとも思うのですが、それが現実に近いんじゃないかという感覚もありました。ダイアナのような境遇で育つとやっぱり本人は苦しいし、社会にもなじめない苦労や引け目もあると思うんですけどタフさは身につくし、苦労した分就職後に本領発揮するのではと感じます。

対して彩子のように育つと、あの高校から大学にかけても無力感はものすごくわかるというか、経験を求めて短期留学したところまで私と同じで笑っちゃいました。自分の殻を破れなくて大学にそれを求めるけど、結局サークル活動のなかで翻弄されるだけで大学時代をほとんど棒に振ってしまう。
それでも私には漫画があったから、大学時代は漫画を描きまくることで充実していましたが、彩子にはそれもなかったからなんだか気の毒でした。何もない自分に対するあの失望感はものすごくわかる……。私の場合は社会に出て、仕事で認められていくうちにいつしかそうは感じなくなりました。

結局育ちがよくて、親がいろいろなものを与えてくれたとしても、20年近くも生きて自分には何の成果もないと感じてしまったときの孤独感、無力感をどう乗り越えて生きていけばいいか、「呪いをとくのは自分自身」というのが本書のキーワードだったかと思います。

ダイアナは育ちのよさや教育や経済的な充足も持たず、劣等感もあったと思いますが、それと幼い頃から戦ってきた強かさがありましたから、意外と彼女のほうが私は安心して見ていられました。本好き以外の二人の共通点でいうと、保護者からの愛は本当に大きいものがあったとも感じます。

再会できたダイアナの父親の正体が二段構えになっていて、期待を持たせておいて失望させて、でもそれが清濁併せ呑む現実という思いがしました。でもそれを受け止めて進んでいけるパワーがもう主人公のなかにちゃんとあるから、悲しい気持ちにはならなかった。寧ろ清々したというか。

私がこれを大学生くらいのときに読むことができたら、すごく励まされたかもしれないな……と思いました。あるいはお母さんになったタイミングとか、就職するときに読んだり、中学生くらいで読んだとしてもまた感動すると思います。

とても素敵な本だったのでおすすめです。


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