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モモチップスの感想文

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モモチップスが鑑賞した作品の感想文です。
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2021年12月の記事一覧

アニメ『色づく世界の明日から』感想

全十三話のオリジナルアニメーション。視聴しました。 「色」がテーマの作品ということもあって、抒情的な色彩表現に特化した映像美がすばらしかったし、時間軸のなかでのちょっとした間や経過する時間の美を感じられるようなアニメでした。 ストーリーラインはシンプルでそれほど突飛な話ではないのですが、だからこそひとつのテーマに集中して観ることができたと思います。主人公たちの恋愛においても純粋さが心のゆらぎを反射して、一歩ずつ近づいていく距離感がまぶしくいとおしく感じられました。 瞳美

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』感想

米原万里著『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読みました。 1960年代、プラハのソビエト学校で様々な経歴の友達に囲まれて過ごしたマリが、日本へ帰国後90年代になってから3人の友人たちを訪ねる3本のノンフィクション。でも、そうと認識していないと小説かと錯覚するほど、語り口は小説的です。 まずソビエト学校での国際色豊かな級友たちの思い出がそれぞれに展開されていき、どんな子でどんな家庭に育って、どんなことを夢見ていたかなんて話が続きます。おしなべてマリの級友たちは全員が裕福な家

『サイレント・ウィッチ』感想

最近私の電子書籍アプリのオススメ欄にめちゃめちゃ出てきていたので、「そこまで言うのなら……」と思って読みました。まだ1巻しか書籍になっていないようです。(2021年6月時点) 主人公は他人としゃべることが苦手で引っ込み思案なあまりに詠唱なしで最強の魔女まで上り詰めた女の子。 主人公が苦手なことでも一生懸命に頑張っている姿は素直に応援したくなりました。主人公が最強の魔女みたいな役だと、周りがひきたて役みたいになってしまいそうなところを、相手役の王子の側も一癖二癖ありますよって

『クローディア、 お前は廃墟を彷徨う暗闇の王妃』感想

感想を述べるのが遅くなりましたが、私が仲村先生の作品を読むきっかけになったシリーズなので当然こちらも読みました。廃墟シリーズ、このまま続刊するのかどうなのかと思っていましたが内容を見る限り続刊の気配。とても嬉しいです。やったね。 アルバート、なんでも思い通りにしてきたわりには女性の扱いが大雑把過ぎる……。笑 女性はそれほど単純ではないですよね。実は今までは女性のほうがアルバートに合わせてくれていただけなんじゃないでしょうか。 クローディアが思い通りにならないことで業を煮

『男装令嬢のクローゼット』感想

読みました。仲村つばき先生作品、連続ですね。 この作品を読んで思ったのは、仲村先生の作品って主人公やヒーローも面白いんですけど、所謂サブキャラクターも含めてみんなすごくキャラが立っているなぁ! ということ。思えば『ひみつの小説家』のフレデリカも元々はそうでしたし。 こっちの脇役のキャラクターを主人公にしてもお話ができそうだなぁ、ということをまざまざと感じさせてくれるというか、主人公たちと価値観のや立場の違うサブキャラなんかもわりと出てくるから作品が一面的にならないんですよ

『漫画家先生とメシスタント』感想

仲村つばき先生の作家ものが続いたから、前から気になっていたこちらも読もうかなってことで読みました。面白かった。一冊で終わっちゃっているようのがもったいないくらい。 やっぱり仲村先生の小説って何気ない描写がしっかりしているというか、その時々の情景とか持ち物とか、そのとき登場人物が何をしてどうふるまったかみたいなところがぎゅっと詰まって短い描写のなかでもするすると伝わってくるように感じます。ファンタジーを読んでも、こういう現代ものを読んでも。 細かい描写におそらく取材したり調べ

『ひみつの小説家と葡萄酒の貴公子』感想

前作の主人公セシリアの友人フレデリカが主人公。女性作家同士のこういう男前な友情最高……と思いました。ライバルで切磋琢磨し合えて、お互いを尊敬できるところが最高! もっとじめじめした嫉妬と足の引っ張り合いみたいな現実も見たことあるけど忘れたわ! 他人と自分を比べてもちっとも幸せになれないし、まったく意味ないじゃんと常日頃思ってはいますが、もし作家の友人同士で同じ小説大賞にノミネートされて一方は受賞し、一方は酷評されるって実際は結構つらいことだと思うんですよね。友人と己は対等じ

『ひみつの小説家の偽装結婚 恋の始まりは遺言状!?』感想

仲村つばき先生の少女小説。装画の藤ヶ咲先生がスペースで「全員読めよ」とおっしゃっていたので読みました。最初は嫌な奴だと思っていたのに、だんだん相手の人となりがわかってくるにつれ惹かれてしまうというのは様式美なんです。大好き。 何が面白いって、コミカルで可愛い恋愛ものである一方、やっぱり女性作家がたくましく生きる姿、作品に自分を費やしていく生き様みたいなものが、ぴったりと張り付くような緊張感として日常に存在しているところ。 作家は誰でもそうなのかも。それはこれがないと私は私と

『神の棘』感想

須賀しのぶ著『神の棘』を読みました。 WW2前から始まって、ドイツの修道院で修道士をしているマティアスと、その学生時代の親友でナチ党員となったアルベルトの愛憎劇。奇妙に近づいては離れる彼らと、それを取り巻く人々の運命を終戦後まで描いた作品です。 たった2冊なのに、内容が重くて、一生読み終わらないのかと錯覚するくらいでした。途中で苦しくなってしまい、続きを読むのに小休憩を必要とした箇所もあって、残酷な場面や死を感じる場面はともかくとしても、罪を近くに感じるとき私は心が重くなる

『自由研究には向かない殺人』感想

ホリー・ジャクソン著『自由研究には向かない殺人』を読みました。 友人からの推薦図書です。 自分の暮らす町で5年前に起きた女子高生の失踪事件の真相を、関係者へのインタビューやSNSへの調査を駆使して解明しようとするジュブナイルミステリー。主人公はこの事件を自由研究の題材に選んだ女の子ピップ。 事件の周辺にいた人々へのインタビューを通して少しずつ情報を集めていくなかで、SNSに決定的な手がかりが残されているっていうのは現代的で面白いなと思いましたけど、何より部外者の女子高生が自

『同志少女よ、敵を撃て』感想

逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』読みました! とても面白かったです。WW2のソ連軍に所属してドイツ軍と戦う女性狙撃兵の話。架空の人物と実在の人物が入り交じって展開される構成と圧巻のヒューマンドラマ。 人間は結局社会的な生き物だから、生まれた時代や状況に適応していくしかないし、それに失敗すれば淘汰されていくのかもしれない。 兵士たちの弱者に対する暴行は、対女性に限らずいかなる状況でも許されざる蛮行であると感情としては思うけれど、もし私自身が所属するコミュニティでそうした蛮