ロボット手術1000 例達成!
2009年の2月に前立腺がんに対するロボット手術(ロボット支援前立腺全摘術)を始めて以来、昨年には1000例に達しました。今では前立腺がんはもちろん、腎がんの腎部分切除術、膀胱がんの膀胱全摘術、腎盂尿管移行部狭窄症もロボット手術で実施しています。ロボット手術は十倍に拡大して見える、3D画像としてリアルな画像が見える、お腹の中に入る手術用の鉗子(かんし)が自分の手が入った様に細かく動く、ガスを入れてお腹を膨らませながら実施するので圧力で出血もしない、お腹につける傷も小さい、など良いことづくめです。その結果として出血が少ない、術後の痛みも少ない、機能温存(前立腺の場合、尿失禁や性機能障害)の結果も良好です。 最初の10例、50例、100例、300例と経験を積まさせてもらい、こうやったらこうなるという技術的な課題も随分こなして、自信を深めてきました。それでは1000人もの患者さんを手術して、今、ちょちょいのちょいで手術しているかと言えばそうではありません。毎回、手術の難しさを感じています。解剖は基本構造は同じですが、1000人が1000人、何かしら違った解剖を持っています。どんな状況でも同様に良い結果を得るには経験からくる観察力が必要です。1000人から頂いた経験はこの上なく貴重ですが、それでも完璧ではないとも感じます。ただ、さすがに経験のもと、前立腺がんの術後の尿失禁の成績は極めて良好で以前の開腹手術とは大きく異なります。毎回、尿失禁もほとんどなく退院される患者さんを見てほっとしています。一方で性機能障害の改善もかなり良好と言えるものの、まだ不確定要素があり、中には改善しにくい方、改善まで時間がかかる方がいます。私が医師になった35年前の前立腺の手術は大出血で大量輸血もよくあり、またひどい尿失禁の方も多くいました。がんを治すためとは言え、日本中で経験の少ない医師が手術を担当していた時代でしたから結果も大きく異なりました。私がヒューストン市のベイラー医大に留学した1990年は米国でも開腹手術の前立腺全摘が少しずつ増えだした時期でした。私のボスのスカルデイーノ先生も前立腺がんの専門で手術の名医でしたが、ある時、世界で最も有名で前立腺手術のNo.1のジョンスホプキンス大学のWalsh先生が来て、皆が見守る中、手術をしたのですが、鮮やかなメスさばきはもちろんですが、知識・経験に裏づけされた科学的な話はとても印象的でした。自分のボスをはじめとしてあの時代に多く見た「高み」というのがいまだに自分の目標であり、支えとも感じます。ロボット手術もそうですが全ての手術がチームワークで成り立つもので1000人以上の手術を支えてくれた同僚医師・看護師・MEさん、全ての方に感謝したいと思います。まだまだ「道半ば!」です。