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マルシャル

19歳という若さで、鳴物入りでユナイテッドへ加入したアンソニー・マルシャル。それから9シーズン在籍した彼が今シーズンを持ってついにユナイテッドを退団した。

本来ならば、選手が退団をする際、それは悲しみと感謝で溢れるもの。
しかし、彼の退団に涙を流したサポーターはどれくらいいるだろう。100人のサポーターにアンケートを取ったとして、せいぜい1人か2人、それでもよほどマシな結果であると思う。

加入当初は衝撃的であった。その足元から生み出される細かいタッチで、相手を抜き去りついにはゴールまで奪ってしまう。実際、その彼の技巧をかつてユナイテッドに所属していたGKセルヒオ・ロメロも絶賛していた。

"レオ(メッシ)と同じことが彼にはできる。彼は特別な才能を持っているよ"

そのようにドリブルにおいては、メッシに匹敵する才能があると謳われていたマルシャル。その称賛通りに、マルシャルは加入したそのシーズンにゴールデンボーイ賞(欧州最優秀若手選手に贈られる賞)を受賞。
その時点で欧州で最もホットな若手選手となったマルシャル。あとはそこからトップに登り詰めるだけであったはず。

しかしご存知の通り、彼は人々が期待するようなキャリアを送ることはできなかった。

2シーズン目以降、期待していたような結果を残すことができず。年齢的に言えば、悪くはないのだろうが決して良くもない。

16/17  42試合 8ゴール 8アシスト
17/18  45試合 11ゴール 9アシスト
18/19  38試合 12ゴール 2アシスト

上記の結果が示すように、彼の才能を疑問視する声もちらほら聞こえるようになってきた。"keep or sell?" いや、まだ若手の段階で、決断を下すのは時期尚早である。

その我慢が功を奏したのか、続く翌シーズン(19/20)
-48試合 23ゴール 9アシスト-

個人としても素晴らしい活躍を果たしチームも見事、CL出場権を獲得。ユナイテッドのエースとして本格ブレイクか。ようやくその時がきた。誰もがそう思っただろう。
そのように燃え上がった期待の炎は、そのまた翌シーズンには、あっけなく鎮火されてしまう。
またもや一桁のみの数字に留まった彼のスタッツは、サポーターを大きく失望させ、ついに彼は失敗の烙印を押されたのである。

それに加えて、人々は若さ故に長年見過ごしてきたマルシャルの"ある部分"を痛烈に批判したのである。
それが"走らない"ことである。現代サッカーにおいて、守備が免除されているアタッカーは指で数える程であり、大多数の場合、圧倒的な攻撃への貢献を理由に免除されているはず。

しかし上記でも分かる通り、マルシャルは守備が免除されるほどのゴール関与はできていない。ならば得点やアシストでの貢献が十分でなくても、チームのために走り、前線から守備を行うことで評価を上げることだってできたはず。しかし彼はそれをしなかった。かつて魅力的に見えたはずのその脱力したスタイルは、いつしか批判されるものへと変わった。

それからというものの、怪我に悩まされることになり、出場機会も徐々に減少。
その状況を受け、一度、スペインに渡り再起を図るも、思うような結果を残すことはできず。帰ってきてからも、一定の出場機会はあったものの、その時点で彼にまだ期待していた人々は一体どれくらいであっただろうか。おそらく多くの人々は、"いくらかの金になるならば"としか思っていなかったであろう。

そんな彼が今シーズンをもって9年間の旅に幕を閉じた。どれくらいクラブにお金を残したのだろうか。結果は"フリー"での退団。つまりクラブに残した金額はまさかの0。

無論、お金が全てではない。彼が残してくれたタイトルやいくつかの記憶に残るようなシーンだってある。しかしそれらを持ってしても、彼との別れは決して惜しまれるものではなかった。

ユナイテッドでのキャリアと現在の年齢(28歳)、そして高い年俸を加味すると、次に彼がプレーする場所は、ヨーロッパではないのかもしれない。

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