「ヒトノカタチ」STORY-24:過去の記憶

「や、やめて……お父さん……」
「痛い、痛いよ……」
「ぐずっ……ま、また……」
「く、苦しい……やめ……」
「なんで……こんな……」

ーーー

ドロイドショップ「からくりBOX」にて。
「さて、今日はオークションで落としてきた中古がやって来るぞ」
カイ店長が朝礼で全員に話す。
「新入りかあ〜どれだけ入るのかなあ」
「前回の個体はあっという間に売れちゃったから、今回もかな?」
スノとルークが話をしている。
「今回、久しぶりにコドモロイドの入荷がありますね」
イリヤがぶっきらぼうに言うと
「えー、本当に久しぶりにじゃん」
「最近コドモロイドは人気が高いから高騰気味だからね」
「どんな子だろう?可愛い子だといいな〜」
「そうだな、そしてどんなマスターにお迎えされるのかも見てみたいな」
スノとルークが向き合ってると、店長が
「あと30分ぐらいには着きそうだから、それまでは持ち場について」
「はい!」
そうして全員が持ち場につく。

そしてほどなく、店の前にトラックが横付けされる。
「おう来たな、こちらに置いといてくれ」
いくつかの長い箱が置かれる。その中には少し小さい箱もあるようだ。
「あーこれ、もしかして〜」
「まあそれじゃな、箱をいつもの場所に運んでくれ」
スノが軽々と箱を店内に運び込む。全部運び込むと。
「ふう、これで全部かな」
そんな様子をルークが茶化す。
「スノさん、相変わらず可愛い顔して……」
「もうレディに対して失礼ね」

店内に運び込むと店長が早速箱を開けて、検品が始まる。
「さてこれは問題なしと。次は……」
カイ店長が順繰りに検品していき、終わった個体から立ち上がって店内に入っていき、それをスノが誘導していく。
そして少し小さい箱を開けると……
「うーん、これは少し汚れてるの。ちょっと洗っててくれ」
「はい!」
奥のメンテルームにいたルークが答える。

いつもの手順通りに洗浄を終え、ルークが帰ってくる。
「店長、終わりました。けど、ちょっと気になる点があって……」
「なんじゃい?」
「店長が言ってた汚れというよりも、なんか強い力がかかったあとっていうか、ぶたれたり首を絞められたような跡が……」
「そうじゃな、そこまで見つけられるようになったか。おそらく虐待を受けた個体だと思われるよ。だから安かったんだけどな」
「そうですか……とするとその頃の記憶が残ってる可能性もありますよね」
「普通なら即全リセになるだろうが、うちはできるだけ前の記憶とかは尊重したいから、どうするかは次のマスターに委ねてるよ」
「とりあえずその他の個体と一緒に店頭に並べてよろしいですか?」
「おう、並べててくれ」
「はい、わかりました」
そうしていつもの通り作業を進める。

その翌日、ルークが先に出勤してスノと作業をしている。そしてカイ店長が出勤してくるとルークが。
「店長、作業終わりました。で、例の子なんですが、動作させた途端泣きじゃくって作業にならなくて……」
「やっぱりだな」
「でもこんな調子じゃ売り物にならない気もしますが……」
「前にも言ったろ?そこは次のマスターに委ねるって」
「は、はい……」

そしてその週の日曜日、開店と同時に2人が入ってくる。

左:達也(父) 右:モエ(子)

「達也君、モエちゃんと一緒だが今日はどんな用事じゃい?」
「子どもが前々からドロイドがほしいって言ってまして、そろそろいいかな……と思いまして」
「それで2人で来たわけじゃな。しばらく店内の展示を見てみるかい?新品のカタログも準備しとるから、そっちもどうだい?」
そう言うとモエが前に出てくる。
「うん、色々と見てみたいな〜」
「そうか、しばらく見ていってくれ」
そうしてモエと達也が店内を歩きだす。しばらくして1つの個体に目が行く。
「これ、かわいいー」
「うん、コドモロイドだけど安めだよね……訳あり品?どんな訳があるんです?」
「これな、どうも虐待を受けたあとがあるんじゃよ。だから心に傷を負っている個体になる。こういう場合は問題行動を起こしやすいので普通なら即全リセだがそのままにしたほうが人間味があって……」
しばらく説明しているとモエが
「でも、動画で見たことあるけどそういう子でもちゃんと向き合えば心を開いてくれるって……」
「そうじゃが、難しいぞ」
「……自分、やってみる!」
「おいおい、モエ本気かい?」
達也が心配そうに見てる
「できるだけのことはやってみる。いいでしょう?」
「うーん……本人がそう言いますし、やってみますか」
そしてカイが
「わかった、じゃあ1週間トライアルという形でやってみるかい?それでだめなら返品か全リセという形でいいな?」
「あ、ありがとうございます」
「なら、早速顔合わせするか」
そう言ってカイ店長がタブレットを操作する。するとコドモロイドが目を覚ますが……
「う……ひっく……ぐず」
下を向いてぐずっている子の顔をモエが持って前に向かせる、そしてハグをして……
「もう、大丈夫だよ。うちに来よう?」
お互いしばらく沈黙するが……
「……う、うん」
コドモロイドが泣きつつも顔を縦にふる。
「よかった〜まずは受け入れてくれた」
そしてモエの胸元に入る。それを受け止めながら
「さ、みんなで行こう」
そういって3人で帰っていった。

ーーーその3日後、モエが家に帰って来る。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、今日は早かったわね」

夕食の支度をしているネリスが言うと。
「あの子のことが心配で……一応心は開いてくれたけどまだぐずってばかりで……」
「あの子どうするの?昨日もそうだったけど部屋にこもりっきりだし、食事にも来ないし……」
「……うん、何か得意なことを見つけて、それを褒めるといいっては聞くけど、それがね……」
「そう、1週間以内でいけそうなの?」
「わからない……」
モエが自分の部屋に入る。するとコドモロイドが駆け寄ってくる。
「……これ」
そういって出してきたのは編みぐるみだった。モエは机の上に編み物の道具があるのに気づく。
「え、これって自分が作ろうと思って挫折した編みぐるみのキット……」
そしてコドモロイドの方を向いて。
「すごいじゃん!」
モエが驚いた顔でそう言うとコドモロイドは笑顔を返す。

「もしかして、これとかできる?」
そう言ってモエが棚から毛糸の玉を出してくる。それをコドモロイドが手にすると自動編み機のごとくものすごい勢いで編みぐるみを編んでいく。
「すごい!すごい!やるじゃん!」
真剣な顔をして編み上げた後には笑顔で返す。そんなことをしていると。
「ご飯よ〜」
台所のネリスが呼ぶ声がする。
「じゃ、一緒にご飯にしよう?」
「うん!」
にこやかな顔で2人でダイニングに向かう。

「お父さんは遅くなるって、今日はカレーよ」
「いただきます」
ネリスとモエが食べ始めようとするが……
「どうしたの?浮かない顔をしてるけど」
「カレー……辛い……怖い」
コドモロイドの方は少し涙目になりそうだったが
「やだ、うちのカレーは辛いものが嫌いなモエに合わせて甘口よ。さ、食べてみて」
カレーを一口運ぶ、そうすると笑顔が戻って来る。
「うん、美味しい!」
「よかった。よっぽどカレーにトラウマがあったのね。うちは大丈夫よ」
そうして3人で食べ進める。

食事が終わり部屋に戻ると、お互い向き合って
「そういえば名前……どうしようかな〜そうだ!フラちゃんなんてどう?」
コドモロイドがにこやかになる。
「受けいれてくれた?よかった。今からあなたはフラちゃんね」
そうしてお互いに抱き合う
「モエお姉ちゃん……ありがとう」
「いいのよ。本来は甘えん坊な感じがするからたっぷり甘えていいわよ」
そしてしばらく抱き合っている。

そして次の日曜日、3人が店の方にいた。
「ほう、受け入れてくれたか。良かったな、いい特技を見つけてあげられて」
「うん、編みぐるみの他にも編み物のいろんなバリエーション知ってて、見てて楽しい!」
「ええ、これなら悪くないなって」
「そうか、ならこれでお迎えということで話を進めるぞ」
そうして店長が登録の手続きを進める。
「登録はモエちゃん名義で進めていいかね?」
「はい、お願いします」
「ドロイドとはいえパートナーを迎えるというのは責任も伴うぞ。そこは覚悟できてるかい?」
「は、はい!」
「……さて、登録が終わったぞ。これで一家の新たなパートナーじゃな」
「フラちゃん。よろしくね!」
「つたない父ですけど、宜しくね」
「うん!」
3人で笑顔で顔を合わせて、そして帰っていった。

それからしばらくして、モエのバイト先であるカフェ「クロスウィンド」にて。
「お姉ちゃんのバイト先って、ここ?」
「そうよ、せっかくだからみんなに見せたいと思って」
モエとフラの2人が店に入っていく。
「あら、モエちゃんその子は?前言ってた妹?」
「まあ、そんな感じになるわね。この人が店のマスターのルリさん」
「ルリです。よろしくね」
「そして奥の3人はドロイドのフィーナさんとキズナアイさんとアスナさんよ」
「フィーナです。よろしく」
「キズナアイでーす。よろしくね」
「アスナです。よろしく」
「じゃ、さっそくだけど着替えてくる」
そう言ってモエが奥に入る。そしてしばらくすると……
「じゃーん!」

「すごいお姉ちゃん!可愛い!」
モエのメイド服姿にフラが少し興奮気味になる。
「へへ、かわいいでしょう」
そんなやり取りをしてると店のドアが開く。
「おう!しばらくアスナが休み取って迷惑かけたな」
そう言って入ってきたのはレイアとミイだった。
「いらっしゃい、いえいえそんなことないですよ。土産ありがとう」
ルリが申し訳なさそうに応える。
「おや、ところでこの子は?アスナが話してたけどモエの新しいパートナー?」
2人がフラを見つけるとモエが
「ええ、妹というか、そんな感じですけど」
そしてフラが2人を見ると
「お知り合い?」
「店の常連さんだし、アスナさんのマスターの妹よ」
「レイアです。宜しく」
「ミイでーす、よろしくね」
フラとミイが顔を合わせると早速意気投合するしぐさを見せる。
「これ、どうぞ。私が編んだんだけど」
そう言ってフラが編みぐるみを差し出すと
「えー、すごい!ありがとう」
ミイが喜んでるとモエが
「この子、ものすごい勢いで編んでいくのよ」
「へえ~今時珍しいじゃん」
「へへ……」
フラが照れるようなしぐさをする。
「今度機会があったら遊ぼうよ。いろいろゲームとかあるからさ」
「うん!いいよ~」
2人の様子を見てレイアとモエは
「やっぱり、コドモロイド同士だと仲良くなるのも早いな」
「え、ええ……ありがとうございます」
「いい個体に出会えたじゃないか。こんな個体なかなかあるもんじゃないぞ。アスナとあと兄からもちょっと聞いてるけどな」
「し、知ってるんですね」
「伊達にロボット部にいるわけじゃないからな」
「わ、私マスターとして恥ずかしくないように頑張ります」
「そうだな、頑張ってくれよ」
そうしてレイアとミイの2人がテーブルにつく。そしてモエが接客に入ると
「わー、お姉ちゃんやっぱりすごい」
「へへ……ありがとね」

そしてその日の夜、モエの部屋で2人が寝間着に着替えて話している。
「お姉ちゃん、メイド服姿可愛かったよ」
「えへへ……ありがと」
「お友達も増えて楽しかった」
「良かったわね。ところで編み物のスキル、どこで習ったのかな?」
「前オーナーは人間の夫婦だったんだけど、そこのお母さんが編み物好きで……」
「そうなんだ……」
「けどお母さんが突然死しちゃって、そこからお父さんが約変して……うっ」
フラがぐずりだしてしまう。モエが抱き寄せるようにして
「ご、ごめん……」
「でもモエちゃんに会えてよかった。お父さんも優しいし」
「そうね、悲しいことがあったけど、またこれから楽しいことしよう」
「うん!じゃおやすみなさい」
「おやすみー」
そういってフラがケーブルをつなぎ横になる。モエも電気を消して横になる。
「(ふふ、やっぱり可愛いわね)」
モエはそう思いながら目をつむった。


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