「ヒトノカタチ」STORY-4:追憶

レイアとさくらが食堂から出てくる
「…で、調子の方はどうなんだい?」
「ええ、おかげさまで好調です」
「いつもなら補充電だけで済むのになに藪から棒に一緒に食事しましょうって何の風の吹き回しだい?」
「いや、たまには食事ってものを楽しみたいななんて思いまして…」
「でも多くの場合1回の充電で1日は動けるはずだろう?」
「自分はセンサーユニットでエネルギー食うので…」
「そうか、そうだったよな」
そんな話をしながら部署まで近づくと声が聞こえてくる
「あ、この声は!」

声が聞こえるなり1人の少女が飛び出してきて、さくらに近づいてくる。そして目を合わせると…
「…どうかしました?」
「…ま、間違いない、お姉ちゃんだ!!」
そう言って飛びついてくる
「…え?ええ…ちょっと何が何だか…」
「覚えてないの?私だよ私!」
一瞬沈黙が走る。
「…ごめん、知らない」
「…え…忘れちゃったの…そ、そんな…」
少女が泣き崩れてしまう。
「ちょっと、いきなり飛び出してどうするのよ!」
春香があとから追いついてくる。
「一体何が起きてるんだい?」
レイアが問いただすと
「戻って来てよかった、なんか部署にいきなり来て、さくらに会わせてって迫ってくるから…」
「…とにかく、状況を整理しよう、みんな部署まで来て」
レイアと春香、そしてさくらと泣きながら少女もついて行く。

「名前はミレーネ、ハチオウジ第2児童養護局収容、両親が離婚したり暴力を受けたりして没収・収容…ってところですね」
「で、この子とさくらがどういう関係なんだい?」
ミレーネが泣きながら話す
「…両親がほとんど家にいなかったから小さい頃からずっとお姉ちゃんだけが友達で…」
「ふん、それで?」
「…でもある日突然買い替えられてしまって、新しい子に馴染めなかったから下取りに出したっていうショップに行ったら店はがらんどうで…在庫がみんな持っていかれたとかで…そこから行方不明に…」
「動員ってやつだな、残念だけど一度動員されると大体は全リセされちゃうんだよ」

動員ーーー主に大きな戦争などが起きるとドロイドの需要が急上昇して中古市場の在庫が一掃されてしまう現象のこと。
逆に戦争などが終わり、生き残った個体が中古市場に放出されることを「復員」と呼ぶ。

「…わかってる、けど少しでも私のこと覚えてるかもしれないと思って…」
「ところで、なんでうちにいるってわかったんだい?」
「こさぎちゃんの動画に少し写ってたから…」
「ああ、確かに会場警備でよく出てはくるけどな」
「あと名前…同じ名前だったけど…」
「ああ、元々パートナー選ぶ際の履歴データのすみっこに書いてあったのでそのまま名前にしたんだけど、まさかそんな思い入れのある名前だったとはな…」
ミレーネとレイアの話にさくらが割り込んでくる。
「ごめんなさい、ご期待に沿えなくて…」
「うん、いいの、少なくとも無事でいられただけも奇跡だと思うから…」
ミレーネが涙声で答える
「そうか…すまんな、そういうわけで」
「…うん」
「まあ、少しでも思い出の足しにできたらいいよ」
「…あ、ありがとう」
そういってミレーネは帰っていった。

「なんか、可哀想な気もしますね」
「まあ仕方ない、こういうことは往々にして起きちゃうことだしな。じゃ、午後の見回りに行こう」
「了解しました」

その夕方、春香が家路に帰る
「ただいま」
玄関を開けると春香の同性パートナー、真が飛びついてくる

「ねえねえ!この前言ってた里親受け入れの申請、無事審査通ったの!」
「えーすごいじゃん、最近申請多いから厳しいみたいなこと言ってたけど、良かった」
「早速だけどさあ、この子なんかどう?」
そう言って真がモニターの画面を指差す。そこには昼に来ていたミレーネの姿が写っていた。
「え…この子」
「どうした?」
「実はね…」
そういって昼の出来事を話す
「えー、そんなことが…でもそれはそれで運命じゃないかな。とりあえず面接だけでも申し込もうよ」
「うん」

---面接当日
「児童福祉局のシエルです、どうそよろしく」

「あらシエルさん、こんなところでお会いできるとは。いつもありがとうございます」
「いやだ、真さんったら」
「え?知り合いなの?」
「うちの美容室によく来るのよ、そして大体自分指名してくれるの」
「へえ、まさにお得意さんってところじゃん」
「ええ、でもここでは私の方が上よ」
「またそんなこと言って…」
「ま、とりまお会いいただきましょう。いい出会いになるといいですね」

---面談室にて
「えー!あの時応対してくれた春香さん?」
「そうよ、こっちがパートナーの真ちゃんよ」
「もしかしたら一緒になれるの?」
「うん、あなたがその気なら…大丈夫?」
そんな調子で話が進んでいく。そして
「…まあ本人も乗り気ですし、決定でいいわね?」
「やったー!いつまで施設に入れられるか不安だったけど良かった~」
「こちらからの条件ですが標準モデルでいいんでもう1人大人型のドロイドが欲しいところですね。さすがに大人型1体だけだと厳しいので。」
「私はもう2人枠使ってるから…真ちゃんマスターってことになるわね」
「えっ…私がマスターになる?うーんまあいいわよ」

ーーードロイドショップ「からくりBOXフジヨシダ店」にて
「シエラさんから話は通ってるよ、まさかドロイド嫌いなあんたがマスターになるとはね」
「え、ええ…」
そう言いつつも陳列されているドロイドの顔をじっと注視する真
「そんじゃこれなんかどうじゃ?VS社製M60-D02標準モデルの出物じゃが」
「うーん、悪くはないわね。この値段なら出せない金額じゃないし」
「よしじゃあ決まりじゃな。早速手続きに入るぞ」

「初めまして、真さん。自分の名前はどうしますか?」
「初めまして、そうだねえ…翠(すい)ちゃんでいいかしら」
「ありがとうございます。今後ともよろしくね。」
そういってしばらく経って帰るときには2人で帰っていった。

ーーー受け入れ日の翌日
「あー、お尻の穴が痛い…」
春香が幻滅した顔で出勤してくる。
「おい、どうしたんだい?顔色悪いけど」
レイアが心配そうに見つめる
「いや、それがね…」

ーーー受け入れ日当日、ミレーネがやってきた日
「改めまして初めまして!今日からお世話になります!」
元気よく挨拶をする
「初めまして、真です、よろしく」
「春香です、よろしくね」
「ルカです、よろしく」

「ミャ…ミャウです、よろしく…」


「翠です、よろしくね」
「みんなよろしくねー」

そんなこんなでみんなと話をしていると、こう切り出した
「ねえ、ちょっとカレー作っていい?」
「え…いいわよ」
そういってミレーネが台所に立つ、そしてしばらくすると
「はい、おまちどうさま〜」
そういって全員にカレーが振る舞われる。そして食べ始めてしばらくすると…
「「「……」」」
春香、ルカ、ミャウの3人が無言になり始める。そして春香が悶え
「辛いーーーーーー!!!い、一体何使ったの…?」
「いや、これなんだけど…」
ミレーネがルーの箱を春香にわたす
「激辛専門店監修、10辛…?」
「いや、初心者ならこのぐらいがちょうどいいかな〜って思って」
「…と、とにかく水…」
3人が水を飲み始める
「セ、センサーがおかしくなりそうな辛さだわ…」
「お姉ちゃん…やっぱりつらい…」
そう言いながらも3人は食べ続ける
「え、真ちゃん大丈夫なの?」
「自分は大丈夫よ、実は」
「翠ちゃんは?」
「私も大丈夫」
3人は幻滅しながらも食べ続けて、そして全員完食した。
「まさか、だけどミレーネちゃんってもっと辛いのも食べたことあるの?」
「うん、30辛までならクリアしたことあるよー」
「え゛…」
さすがにこれには3人は幻滅しまくっていた。

「というわけだったのよ…ミレーネちゃんの嗜好にもさることながら、まさか真や新入りが耐えきれるとはね…」
「ははは、でも良かったじゃないかい?嗜好はともかく新しいところに馴染めて」
「まあ…ところで、ミレーネちゃんがまたさくらちゃんに会いたいって言ってたけど、大丈夫かな?」
「ああ、いいよ。」
そういってさくらの肩をたたく。
「え、ええ…こんな私でよければ」
「そうか、勤務に支障がない限りはいつでも会いに来てって伝えといて」
「うん、喜ぶと思うわ」
3人の会話が続いていた。


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