「ヒトノカタチ」STORY-11:フラッシュバック
---ドロイドショップ「からくりBOX」にて
開店前の作業が終わり、ルークが画面を見ながらカイ店長と話をしている。
「気になるモデルがあるとな?」
「ええ、これなんですけど」
そう言って画面を指差す。
「ほうほう…AZ社の新製品じゃな。このAZ45のコドモロイドのシリーズは最近人気あるぞ」
「ええ、うちのミイを見てるとやっぱり子供型ももう1人欲しいなーと思ってたりするんですよ」
「そうかい、それならちょっといい話がある」
「といいますと?」
「コドモロイド限定の求人が来てるんじゃよ。こんな求人珍しいと思うから是非どうだい?」
「えっ、それなら負担なしでお迎えできるってことですか?」
「そうじゃな、要求されるプラグインがお高めだがそれでも十分回収できると思うぞ」
「なら…お願いしていいでしょうか?」
「よし、そうなら話を進めるぞ、どうせならあんたが初期セットアップしないかい?通常の社割にプラスしてやるからな」
「は、はい」
---それから数日後
「大体終わりました、あとは起動するだけです」
「よし、起こしてやれ」
レイア、ルーク、正、ミイと一家揃った前で新しいドロイドが起動しようとしている。
「ん…うーん…あ、おはようございます」
そういって新しいドロイドが体を起こす。
「おはよう、マスターは俺だ。よろしく」
ルークが挨拶するとそれに続いて
「レイアです、よろしくな」
「正です。よろしく」
「ミイでーす。よろしくねっ」
それぞれが挨拶したあと
「よ、よろしくお願いします。すずねと申します」
「すずねちゃんだねっ。よろしく〜」
「はは、ミイに妹ができた格好だよな。ところで、この子の就職先ってどこか聞いてるかい?」
「まあフジ学園の音楽教師のアシスタント…ってところまでは聞いてる」
「あそこには知り合いもいる。悪くないと思うぞ」
「そうかい、顔合わせ楽しみだな」
「(あそこの音楽教師か…あの人かな)」
---そして職場での顔合わせの日
「えー!職場でのアシスタントって、フェリスさんじゃないですか!まさか音楽教師だったとは…」
「そう、もっぱらメインはここなんだけどね」
「フェリスさんの動画はよく一家で見てますけど、そうだったんですか」
「まあ、動画配信者のほうが有名になっちゃって、意外と知られてないかもね」
「生徒はやっぱり知ってるんですか?」
「もちろんよ、新作上げるたびにみんなの視線が厳しくなるし…」
「あと声楽家というのもありますよね、そちらの方も時々動画が上がりますけど…」
「そうよ、まあ配信で有名になったおかげで声楽の音源もコンサートのチケットも売れるし、いい相乗効果になってるわね」
「ところで、コドモロイド指定というのはなんかあるんですか?」
「まあ、私の趣味よね。本当なら自分でお迎えしたかったけどお迎え枠使っちゃってるし…」
「動画にも出てくるフレイアさんと、レイ君ですよね」
「そう、この2人を連れてくるわけにはいかないし、でも3人目だと税金の負担が大きいし、頼み込んでアシスタント雇う形にしてもらったのよ」
「そうですか」
そう言ってると1人金髪の人が割り込んでくる
「この子が新しいアシスタント?」
「そうよ。あ、紹介しとくわね。もう1人の音楽担当、アルクェイドさんよ」
「どうもー、アルクェイドです」
「へえ、2人体制なんですね」
「通常は交互に担当するので、2人が揃うことって珍しいのよ。今回は顔合わせのために来てもらったけど」
「そうですか。こちらこそよろしく」
「すずねです。今後ともよろしくお願いします」
「コドモロイドとはいえ、アシスタントに子供というのも変だけどまあ、可愛いからいいかな?」
「あまりバカにしないでよ!」
「い、いや、悪くないなと思ってるけど…でもちょっと気は強めかな」
「ん、まあ…」
そんな掛け合いをしていると…
「ところでどうせなら、今度うちに来ない?
「えー、フェリスさんの家ですか。いいですね」
「え!行きたい!」
「じゃあ今度の日曜日ね。で早速だけど案内とかやってもらいたいこととか、仕事に入りましょう」
「はーい」
すずねがフェリスについていく。そしてルークは学校を後にした。
ーーーそして日曜日、フェリス宅にて
「こんにちわー」
ルークとすずねの2人が訪れた。
「ようこそ、いらっしゃい」
フェリスが挨拶もそこそこに案内する、そして奥から2人が出てくる。
「こんにちは、レイです。よろしくお願いします」
「フレイアですー。よろしく」
「うわー、動画ではよく見るけど、本物だあ〜」
「そう?やっぱり直に会うのは違う?」
「うん!ライブ行ったことないからこれが初めて」
「あ、そうか。新品お迎えだったよね。経験が浅いからそうなるよね」
「あとこれ、家のミイちゃんから差し入れということで」
そういってすずねが小さな箱を渡す。
「クッキー?どれどれ…うん、イケるじゃん」
「良かった、お口に合うようで」
「こういうの手作り感あふれるお菓子って、嫌いじゃないわよ」
「ドロイドが作ってて手作りというのも変だけどね」
「それはちょっと悪いような…」
「まあそれはそうと、私たちが案内するわね」
「ええ、よろしくお願いします」
「はーい、楽しみ〜」
2人がフレイアとレイの後についていく。
「さすが音楽家の家ですね。この部屋防音構造になってる」
「あ!動画にもよく出てくるピアノがある!ちょっと音出していい?」
「いいですよ。ちょっとお手並み拝見ってところかな」
すずねがピアノを弾き始める。
「うーん、まだちょっと音が硬いわね。いかにもプラグインの基本動作ってところかな」
「まあ、そのへんはこれからってことになりますね」
「そうですね、お姉さんから聞きましたが容量にも余裕があるからこれから伸びる要素は十分にあるって聞いてます」
「そう言ってくれると嬉しい〜頑張るから」
「頑張ってね。さて自分はランチの準備するから」
「えっ?レイ君が料理担当なの?」
「そうよ、こう見えて家庭料理には詳しいのよ」
「へえ、フレイアさんは料理しないんですか?」
「私は…声楽に特化した作りだし、それでエネルギーの消耗も早いから…ああまり実用用途向きではないのよ。それをレイ君がカバーしてる感じだから」
「そうなんですね。まあそのへんは店長から聞いてますけど…」
「あら、そうなんだ」
「一応店員だし、お得意様だからそのへんの知識はありますよ」
「やだ、家のこと筒抜けじゃない」
「まあ全部知ってるわけじゃないですけどね」
「まあ、お世話になる時はよろしくね」
「へへ…まあすずね共々よろしくお願いします」
「じゃ、そろそろお昼だから下に降りない?」
「では、お昼いただきますね」
「わーい、楽しみ〜」
そうしてしばらくするとお昼の準備ができている。
「はい、今日はホットサンドですよ」
「うわー、美味しそう」
「それじゃ、いただきますね」
そうして全員がテーブルにつき、各々かぶりつき始める。
しばらく談笑しながら食事が進むが、レイが無言になり始める。
「…どうしたの?」
すずねがレイの顔を除くと…
「うっ…ケン、ジロー、うっ…」
レイが涙を流しながら涙声で名前を読み上げている。
「…ちょっとごめんね。さ、こっちに来て」
フェリスがレイを部屋の奥に入れていく。
「なんなの?」
すずねが心配そうに見てるとフレイアが
「食事の時たまにこうなることがあるのよ」
と言う。ルークも
「あー、フラッシュバックってやつだな。復員された個体ってともするとこういうことが起こることがあるってドロイド取扱主任者の教材にも出てくるよ」
そう言ってるとフェリスが戻ってくる。
「ごめんね。しばらく一人にさせてあげて」
「やっぱり戦場の時の記憶がこうさせてしまう…だよな。感性の高い個体は特にそうなるって」
「そうね…こういうこともあるけどそういう記憶でより感性に深みが出るからあえて全リセしないでそうさせてるの…人によっては残酷だって言われるけど、私はそれを受け入れてる…」
「まあ、こんな子を送り込まないといけない戦争なんて酷いものだよ。そうなったらまず負け戦なのに…」
「こういう形で平和に暮らせるだけでも幸運だって…ほとんどは廃棄されてしまうから」
「そうだよな…自分もそういうのは散々見てきてるけど」
フェリスとルークが話している間にも、すずねとフレイアは食事を進めている。
「ごちそうさま〜美味しかったよ」
「まあこんなこともあるってことで2人も早く食べちゃわないと冷めますわよ」
「ごめんなさいね、お食事中現実を見せてしまって…」
「いえいえ」
食事が終わった後も談笑は続く。
「ところで時々美術室から聞こえてくる音痴な歌、誰なの?」
「長耳族のメイアちゃんよね、ランカ先生も結構音痴だけどあの子はそれ以上だから…」
「容姿はかつてのエリスちゃん彷彿とさせるし、実際モノマネはハッとさせるほど上手いけど歌だけはねえ…」
「そういうの結構気にするほう?」
「あまり突っ込んじゃいけないんだろうけど、気になるわー」
「絵もうまいし美術クラスのムードメーカーだから随分と助かってるってランカ先生は言ってる。でも本人は気にしてるみたいだけど」
「そうなの?そんな感じはしないようだけど」
すずねとフェリスが内輪話をしている。そうしてるとルークは
「へえ、やっぱ分かるんだね」
「そうよ。ピアノの音ズレだって気になるもん」
「やっぱ音楽プラグインってすごいんだな。子供型がここまでなっちゃうっていうのも」
「えへへ…そう言ってくれると嬉しい」
「すずねちゃんは子供ながらに優秀で助かってるわ。生徒は最初疑問視してたけど今はみんな受け入れてるわよ」
「子供子供って言わないで!小さくても能力は大人型と変わらないんだから」
「でもやっぱり容姿のハッタリっていうのはあるからね」
「…ん、まあね」
「そういえばもう1人のアルクェイドさんって、プロゲーマーでもありますよね」
「よく知ってるわね」
「うちのミイちゃんが言ってたよ。行きつけのゲーセン所属のゲーマーだって」
「ちなみにそれって意外と生徒は知らないのよね」
「ミイちゃんは音楽教師だと知ってビックリしてたわよ。どうりで音ゲーが上手いはずだって」
「そうなのよね、ゲーマーとしては優秀だけど音楽のセンスはちょっと欠けるかな…」
「それ言っちゃ悪いでしょ」
「生徒の受けは悪くないし、教師としては優秀だから助かってるわよ」
「まあそうよね…」
そう時間が進むとあたりは暗くなっていく。
「じゃ、また来てね」
「うん!また来たいな〜」
「ごめんなさい、あんな無様な姿見せてしまって…」
「いえいえ、それはそれで人間に近いってしるしだから。また動画で演奏見せてもらえれば」
「ありがとうございます。また頑張ります」
「フレイアさんも、ぜひまたフェリスさんとのハモリ期待してますよ」
「あ、ありがとうございます。精進します」
「じゃすずねちゃん、また明日ね」
「はーい、また明日〜」
ルークとすずねが家に帰ってくる。玄関でミイがすずに飛びついてくる。
「ただいまー」
「おかえりー、生フェリスさんどうだった?」
「話ししていても声が綺麗で良かったよ〜」
「自分も行きたかったな〜ところでクッキー、喜んでくれた?」
「うん!みんなで食べたけど、みんな美味しいって言ってくれてた」
「良かった、喜んでくれて」
「今度は家族連れで来てほしいって言ってたよ。また機会があれば行こう〜」
レイアが奥から出てくる。
「そうかい、良かったな。機会があればみんなで行こうか」
「うん!みんなが来るの楽しみにしてるって」
話をしながら4人が奥に入っていく。
−−−その翌日、ドロイドショップ「からくりBOX」にて
「フェリスさんの家にお呼ばれしたとな」
「ええ、みんないい人で良かったです」
「そうかい…あそこのレイ君、戦場の記憶を持ったままというのは不安要素はあるのだが…」
「そこなんですけど…」
そういって家で起きたことを話す。
「やっぱりな…実はそれで2回返されてしまってるんだよ。これでだめなら全リセするしかない状態でな…でもフェリスさんはそれを受け入れてくれた。まあそれで良かったよ」
「そうみたいですね…」
「わしもいろんな個体見てるがああいうのはなかなかないよ」
「まあ、更生を夢見る人は多いけどやっぱり厳しい道のりですし…」
「そうじゃな…まあとにかくみんな元気で良かったよ」
「そうですね。幸せに暮らしていればいいですね」
「今後いろんな個体を見ることになると思うが、幸せのカタチというのは様々だからうまくやってくれよ」
「は、はい。頑張ります」
2人は仕事に向かっていった。
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