「ヒトノカタチ」STORY-9:再会2(前編)

レイアの部屋の前にたくさんの段ボール箱が積まれている。その横でレイアと真理子が立ち話している。
「引っ越しするんだ」
「ああ、兄を迎えるには流石に手狭なんでね、丁度いい物件があったからそこに引っ越すよ」
「そう…お役に立てて嬉しいけどちょっとさみしいかな」
「まあ引っ越すっていってもここから真向かいにいくだけだから、いつでも遊びに来ていいよ」
そんな話をしている下でミイと千夜が話をしている。
「引っ越してもまた遊ぼうね」
「うん!また新しいレシピを教えてほしいな。ママも美味しいって言ってくれるし」
「いいよー」
「嬉しいなあ」
2人が話をしているのを見て、レイアが
「はは、すっかり仲良しが板についちゃったな」
「ええ、おかげでお菓子のレパートリーが増えてありがたいです」
「そうか、良かったな」
「いつもありがとうございます」
「じゃ、引っ越しの作業に入るんでまた」
「お気をつけてー」

---それは、半年前のことだった
レイアが部屋に向かっていると、真理子がドアの前に立っている
「真理子さん、どうしたんですか?」
「へへ、ビッグニュースよ!」
「え?」
「実はレイアさんの兄、見つかったの!」
「…え?本当に?」
「コードK573、これでレイアさんの兄で間違いないわね」
「え、ええ…」
そう言ってタブレットの写真をレイアに見せた。

「…お、お兄さんだ」
「でしょう?トーキョーの受け入れ施設にいたみたいなの。それで前に提出してもらったDNA識別子を照会してもらったんだけど、確かに血が繋がった人と認定されたのよ。身元引取はそういう人が優先されるからね」
「…で、もしかして自分が身元引取人になれるのです?」
「もちろんよ。ここまでくれば希望すれば確実になれるわよ」
「ぜ、是非お願いします!!」
「いいわよ、それで話は通しておくわ。最終的に教育が終わらないと引き取りにならないけど、成績優秀だって聞いてるからスムーズにいくはずよ」
「ああ、まさか兄にまた会えて生活で来るなんて」
「お役に立てて嬉しいです」

---そして身元引受当日、トーキョー第3定住支援施設へ向かう車の中
レイアとともに真理子、そして正とミイが一緒に乗っている
「ようやく夢にまで見た日が来たか」
「感動の再開…ってところなんですかね」
「わーい、お兄ちゃんが来るんだ〜」
「ここまでスムーズなのは久しぶりよね。普通身元引受人探すのに難儀するから」
「ところで、1人増えるとなると自分だけだと手が回らないと思いますが…」
「そこは大丈夫、もう1人ドロイドを加えるから。そこは兄に選ばせるよ」
「えー、お母さんも増えるんだ」
「まあそんな感じだな。期待していいよ」
「わー、楽しみ〜」

---そして施設の面談室、まずはレイアが先に入っている
「いよいよ、だな」
そしてドアが開くと、褐色肌の男性が出てくる。
「お、お兄ちゃん…」
「…妹よ、よく生きてたな」
2人は強く抱き合う
「そういえばこの世界では名前ってやつで呼ぶんだよな。なんて呼んだらいい?」
「自分はレイア」
「俺は?」
「ルーク、ってところだな」
「そうか…レイア、また和えて嬉しいよ」
「ルーク…」
2人はしばらく抱き合っていた。

そして2人は他のメンツがいる部屋に入る。
「はじめまして、正と申します」
「ミイです。よろしくねっ」
ドロイドの2人が挨拶をする
「へえ、ちょっとゴツめのイケメンと子供か」
「まあそんなもんだな」
「女の子好きな割に意外なチョイスだよな」
「へへ、自分でも意外だったかもな」
「そうかい、今後とも宜しくな」
「「よろしくお願いします」」

---帰り道の車の中
「ところで今まで何やってたんだい?あちこちの戦績に残ってるなんて話は聞いてるけど」
「お前もそうだったようにいろんな戦場を見てきたよ」
「で、なんでこの地で暮らそうと思ったんだい?」
「なんかこの惑星の雰囲気が不思議と懐かしく感じられたんだよ。今まで母星でもそんな暮らししたことないはずなのにな」
「やっぱり戦場でもドロイドはたくさん見てきたかい?」
「戦場で見かけるドロイドなんていかにも機械的な外観なものがほとんどで、こういう人間と寸分変わらないのはあまりなかったかな。もしかしたら自分が気づいてないだけかもしれないけど」
「戦争が起きると時折中古ドロイドが駆り出されるというのはよく聞くけど、そうなのか」
「そういうのはよく見てきてるよ。まあそういう個体が出てくるような場合って大体負け戦なんだけどな」
「そうか…ところでパートナーとしてのドロイドには興味あるかい?」
「ああ、施設で学んだけどみんなパートナーとして1人はお迎えするんだろう?」
「お迎えなんて言葉を使うなんて意外だな」
「これも施設で聞いたよ。機械としてより人間と変わらない関係でみんな迎えてるってね」
「そうだな。美人さんがいいかい?それとも可愛い系?」
「可愛い系がいいな」
「おう、ちょっと意外だな」
「あんたもな」
談笑は進んでいく

---2人の新しい家の中で
「広いしキレイだし、なかなかいい家だな」
「元々は実業家の別邸だったそうだよ、だからキレイに保たれてた」
「そうかい」
「まあローンを抱えることになっちゃったけど、それでもお買い得の物件だったよ」
「そうか…ところで、パートナー選びはどうするんだい」
「おう、早速行ってみようか」

---ドロイドショップ「からくりBOX」にて
「ほうほう、兄さんのパートナー選びとな?」
「はい、本人も乗り気ですし」
「よろしくお願いします」
「じゃ早速だが店頭に並んでる個体か、新品ならカタログ準備してるからそれも見ていくかい?」
「とりあえず、ここの個体を見てみます」
「じゃ、気になる子がいたら遠慮なく言ってくれ」

そうしてしばらく在庫を見ていっている。そして1つの個体の前で立ち止まった。
「んー、この子とかいいかも」
「へえ、顔立ちは良さそうだしいいんじゃない?」

「ほう、ちょうど今日入ったばかりじゃよ。M203型の飲食店モデルじゃ。このタイプなら就職先も多いし、状態も良いからおすすめできるぞ」
「そうですか。好みも合いそうだし…お願いしていいでしょうか?」
「引き渡しの処理や就職先の斡旋でちょっと時間いただくがいいかな?」
「お願いします」
「じゃ決定だな」
そうして2人は店から出ていく。カイはその後にそのモデルの値札に「売約済み」の張り紙を貼った。

ーーーそしてその夜のことだった
「さて、そろそろ閉店の時間だし、引き渡しの準備も兼ねて…」
そう言ってる最中に入店音が鳴り響く
「ん?こんな時間になんじゃ?緊急修理かな?」
しばらく待っているが…
「店長、さっき入っていった人、展示品の前で座り込んでます。なんか、泣き崩れてるみたいなんですけど…」
「…とりあえず、行ってみるか」
そう言ってイリヤにおんぶをしてもらって向かっていく。
「あの〜もう閉店なんじゃが…」
近づくと突然掴みかかる、そして泣きながら
「ア゛ス゛ナ゛さ゛ん゛を゛僕゛に゛く゛だ゛さ゛い゛い゛い゛い゛い゛」
そう叫びながらカイを揺さぶる。
「ちょ、苦し…い、一体どういうことじゃ…離し…」
「とりあえず落ち着きましょう。ほら手を離して」
イリヤが仲介に入る。

そして3人が店内のテーブルにつく。
「あー…まったく何かと思えば…あんた名前は?ワシはカイ、パートナーはイリヤじゃが」
「…レンです」

「で、一体どういうことなんじゃい?」
「実は…」

---

「ほら、お兄ちゃん食事ここに置いとくよ。まだ引きこもってるの?」
そう、自分は一時期引きこもってしまった。大学は卒業はできたけど就職活動に失敗して手当だけでモニターに向かい合っている毎日…そんな矢先だった。
「…またリア充を見せつけるような書き込みかい?」
いつもそんなこと思いながらSNSの書き込みを見ていたが、その日は違ったように思った。それは、トーキョー郊外の小さな喫茶店での写真だった。
「…!」
そこの名物店員だという写真に釘付けになった。名前はアスナ、その何か優しげな…癒やされるような風貌に感じるものがあった。
「(…あ、会いたい)」
そんなこと思うのも久しぶりだったけど、とにかくいても立ってもいられなかった。

予約当日…予約を取るのも大変だったけど、会いたいという気持ちが突き動かしてくれた。
そしてついに本人と対面
「こんにちは」
もうこれだけで写真の何百倍も癒やされるようだった。
そんな気分が高ぶってる自分でも優しくリードしてくれる様子に不思議と塞ぎ込んでた気持ちがほぐれていくような…そんな気分だった。

その後は事あるごとに彼女と会うようになった。予約を取るのはちょっと大変だったけどその苦労を忘れさせるぐらい充実した時間を過ごせるようになった。自然に引きこもりも解決していって、ちょうど大学時代のサークル仲間が会社を立ち上げるというのでそこの社員になることもできた。

そんな矢先、ある日のことだった…

いつものように店に行った、しかしドアが開かない…隣の店の人が言った
「あー、そこね、オーナーが急死しちゃったって」
「…え、それって…」
「なんか継ぐ人もいなかったみたいで、そのまま閉店になったみたい」
「……ここにいたドロイド達は?」
「昨日中古業者らしい車が横付けされてたから、売られていったんじゃない?」
その場で愕然とした…

そしてそれから、ことあるごとに必死になって中古市場であの子がいないかを必死に探したんだ。そしてここにたどり着いた…

---

「で、M203型なんて相当な数が出回ってるが、これがその目当ての子だっていう確証はあるのかね?」
「実はこっそりシリアルナンバー控えていて…」
「そうか…どちらにせよもう次のオーナーは決まってる。就職先が見つかればあとは引き渡すだけになるからな」
そう言うと涙声で
「…それなら…せめて…お別れ…だけでも…さようならも言えなかった…」
しばらく沈黙が続く。そして…
「わかったよ」
「…え?」
「それなら1日だけアンタに貸してやる」
「…本当ですか!」
そう言ってまたカイの体につかみかかる。
「…ちょ、落ち着いて。まあ1日デートをするような感じだがそれでお別れってことでいいかね?」
「ありがとうございます!!」
「当然これにかかる経費は全部アンタ持ちだからな、それでいいかな?」
「もちろんです!お願いします!」

「…ということなんじゃ。なので納期が少し遅れるが、いいかね?」
ビデオ通話でカイとルーク、レイアが話をしている。
「うーん、それって…」
「まあいいんじゃない?どうせパーソナルデータは削除しちゃうんだし」
「わかった、1日だけなら…」
「おう、それなら早速準備にかかるぞ」
それから少し沈黙のあと…
「ところで、思ったんですがパーソナルデータの件…」
「えっ?」

---後編へ続く:https://note.com/mnp_x7/n/n051de6ab1ae6


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?