「ヒトノカタチ」STORY-12:聖夜の逃亡

「ねえ今度行くところ、天国なの?」
「そうね…天国という人もいるし地獄だという人もいるわ」
「ふーん、でもいろいろ楽しみだな~」
「いろいろあるからね。到着したらまた色々回りましょう」
「うん、じゃおやすみ」
「おやすみなさい」

---洋菓子店「Sponge」にて
「マシュさん、今日分の製造終わりました」
「エリちゃんご苦労さん、いつもの通り店に並べてくれ。あとクリスマスの準備は進んでる?」
「逐次進めています」
「分かったわ、予約も順調だし、今年も忙しくなるわね」
「ところで夜遅くまで試作やってましたけど、そっちも順調ですか?」
「ああ、自信はあるよ。コンテストに入選すればデパートの催事出店への道が開かれるから、頑張らないとね」
「フリップ君とミクちゃんが来てから随分店に余裕ができましたね」
「おかげで自分も余裕ができて助かってるよ」
「新しい店も工事始まりましたし、そっちも楽しみですね」
「そうだね、そっちの準備も逐次進めていかないとね」
「そうですね、ではそろそろ店を開けますか?」
「よし、今日の営業始めるぞ」
「はい、ミクちゃん!シャッター開けて店開けて!」

「よいしょっと」
ミクが店内からシャッターを開ける。いつもならたまに客が待ってるぐらいだが、その日は違った。
「え?」
そこにいたのは2人…片方は子供だった。
「ど、どうしたの?」
「エリカちゃんが動かなくなっちゃった…そ、それ」

子供の方がふらついてミクの足元に座り込む。

「お腹すいてるの?」
子供が小さく首を縦に振った。
「と、とりあえず家に入りましょう」

「店の前で2人が倒れてたって?片一方はドロイドで電池切れ?」
「そうみたいです。子供の方には朝ごはんの残りをあげましたけど…」
「ドロイドは?」
「充電したいんですが…なんか通常ならあるコネクターがないんですよ」
「…とりあえず、警察に連絡しよう」

レイアとさくらが駆けつける。
「…身元を確認しよう」
「はい…ってこの子別の星系から来てますね。名前は…こはる。これ以上は別星系にアクセスしないとわからないですね」
「子供だけで来てるってことは家出か?」
「多分そうだとは思いますが…行方不明捜索が出てるかどうか確認しましょう」
そういってさくらはしばらく沈黙しているが…
「え?行方不明者捜索が出ていない?」
「はい、詳しく調べてもらったのですが、やっぱり出てないって…」
「何か怪しいな…とりあえず2人はこちらで保護する」
さくらが止まっているドロイドを持ち上げる。そして子供の方はレイアに連れていかれる。

---署にて
「とりあえずドロイドが何か知ってるはずだからなんとか再起動できないか?」
「幸い非接触充電の部分は生きてるようなので、それで充電しています」
「そうか、子供の方は何かわかったかい?」
「IDはATP星系の物を持っています。これ以上は…わからないですね。あそこの星系は閉鎖的ですので…」
「ATP星系?なんでまたそんなところから来てるんだい?それにドロイドと一緒というのもアレだな…あそこってそういうのを禁止してるはずなのに…」
「入星自体は正常に行われていますが、もしかしたら偽造IDの可能性もあります」
そうしていると連絡が来る。
「ドロイド、再起動できました」
「よしわかった、取り調べに入るぞ」

「わ、私…なんで…こんな…」
「大丈夫、ここではあんたを壊すようなことはしないから。何があったのか話してくれ」
「…ご主人の子供が、ぶたれたり蹴られたりしてたから、助けようとするとお前もバラすからなと言われて…もうここにいると両方の命がないと思って…」
「虐待されていたのか。それで?」
「ここではそう言うそうですね…とにかく、逃げようと思って…子供はこっそり見た動画で見たところに行きたいって…」
「あそこだとそういう動画も見られないはずだが、見ていたのかい?」
「ええ、私が検閲をかいくぐって見る方法を教えていました…」
「で、あんたのような 外見がそっくりなドロイドというのも禁止されいるが、密輸されたのかい?」
「そうみたいです、元々は夜のお供として…」
「どうりですぐにドロイドとわからなかったわけだ。スキャン対策までされていたし…」
「…自分も、逃げたかったんです」
「というと?」
「ご主人は一方では人間らしさを求め、一方ではロボットらしく服従を迫る…そんな生活が嫌で、この星ならロボットと人間が共存しているパラダイスだと聞いて、子供をダシに逃げたんです。親が行く予定だったらしくて、その渡航券くすねて…」
「で、今後だが子供の意向次第では亡命という形もあるが、その時ついていく気はあるかい?」
「はい…」
「ところで、なぜこんなところまで来てたんだい?」
「やっぱり動画でよく出てくるから、そんな店に憧れてたみたいで…」
「おそらくフェリスさんの動画だな。よくマシュさんの店のケーキよく出てくるし」
「そうみたいです。でも充電がギリギリで、あんなことになってしまって…」
「…ドロイドということを隠すためにコネクター類は潰されてしまってたようだからな、下手すると再起動できない可能性もあった。非接触充電ができたのは幸いだったよ」
「…ありがとうございます」
そう言うとドロイドがシャットダウンしてしまう。
「やっぱり、非接触だけじゃフル充電できないか。あと多分バッテリーが弱ってるかもな」
そんなことを言っていると連絡がある。
「子供の方も調べが終わったみたいです」
「わかった、今行くよ」

事務室に戻ると児童養護施設からの電話がつながった状態になっている。
「シエルさん、何かわかったことはあるかい?」
「とりあえず亡命の意向はあります。そういうことで審査に入りますがそれでいいですか?」
「ドロイドもその意向だから、それで進めるかい?」
ドロイドの取り調べの結果を伝えていく。
「わかりました、子供も同様なこと言っています。それでいいでしょう。審査が通り次第身請け先の選定に入ります」
「わかった、引き続きお願いする」
電話が切れた。

---翌日、マシュさんとの電話で
「…ということだ」
「ふーん、その子は今後どうなるの?」
「亡命の審査が通り次第身請け先の選定に入るよ」
「そこなんだけどさあ…うちに来ない?」
「えっ?」
隣で聞いていたフリップも声出ししてくる。
「ちょ、ちょっと…そんな気楽に言わないで下さいよ。ペットを身請けするのとは違うんだからさあ」
「大丈夫よ。一緒にいたドロイドも付いてくるんでしょう?」
「そうなるな、決まったら改修に入るけど…」
「それならちょうどいいじゃん、また1人お手伝い付きで家族が増えるんだからさあ」
「うーん、まあそれなら…」
「じゃあ決まりね、伝えておいて」
「わかった。候補として入れておくよ」
「ところで、こはるちゃんの親って今どうしてるのかな」
「多分捕まってるだろうな。子供が亡命なんてとんでもないことが起きちゃったんだから…」
「まあ、ここで幸せに暮らす方がいいのかもしれないのかな…」
「そうなるかな…話はつけておくよ」
「お願いします」

ーーー

それから数日後、こはるはマシュの家に身請けされることになった。
「ケーキに憧れてたら、まさかケーキ屋の子供になれるなんて思いもよらなかっただろう?」
「わーい!本当にいいのかな?」
「いいよ、家族が増えるのは嬉しいから」
そう言ってると隣のドロイドも挨拶する。
「エリカです。不束者ですがよろしくお願いします」
「ここを取り仕切ってるエリです。早速だけど仕事を覚えてもらうから、ちょっと来て」
「は、はい!」
そう言ってエリカがエリに連れられていく。
「良かったな。ミクちゃんも仲間ができて」
「え、ええ…」
「まあ自分たちの夫婦じゃ子供はできないから、その代わりって感じになるのかなあ…まあちょうどよかったわよ。しかもお手伝い付きで」

※ハウ族男→人間女だと子供はできない(その逆はできる)

「…ん、まあ、最初はビックリだったけどこれで良かったのかな」
そんなこと言ってるとこはるが寄り添ってくる。
「ねえねえ、学校も行ける?」
「大丈夫だよ、まあうちだとフジ学園なんてシケたしか通わせられないけどね」
「聞いた話だけど学校にも通わせてもらえなかったって聞いてるから、良かったな」
「フェリスさんもいるんでしょう?」
「中等部の担当じゃないけど、会う機会はあるかもね」
「わーい、楽しみ〜」

そしてクリスマスの日、店舗前には朝早くから客が行列を作っていた。
「はい!お待たせしましたー」
エリカがシャッターを開けると行列が動き出し、ドロイド全員が動き回って対応し、次々とケーキが受け取られていく。
そして行列が一段落して、ミクと立ち話をしている。
「うわー、話には聞いていたけど本当にすごいのね」
「あそこの星系じゃケーキなんて売ってないから、なおさらじゃない?」
「そう…だからこはるも憧れてた。ここでしばらくはいろんな食べ物を食べ歩いたわね。ラーメン、カレー、ステーキ、寿司…すべてが新鮮だった。でも途中でお金を使い切っちゃって、かろうじてここに来る分はあったので最後の力を振り絞って…」
「それで無理しちゃったのか…」
「でもそのおかげで家族になれたのは不幸中の幸いだったわね」
そこにエリが
「はい立ち話おわり!次の波は夕方の帰りがけになるからそれまでに準備ね」
「は、はい!」
3人がまた準備に回る。

そして閉店時間になり、全員が集まってくる。
「あー、忙しかった」
「ケーキ屋の最大の稼ぎ頭だからね。ご苦労様」
「私も初めてだから、話には聞くけど大変だった~」
ドロイド同士が話してるとこはるが帰ってくる。
「ただいまー」
「お、ちょうど帰ってきたわね。ちょっと来て」
マシュがこはるを呼び寄せる。
「なーに?」
「部屋に来てごらん」
そう言われるがままに部屋の前まで来る。そしてマシュが
「さあ、開けてごらん」
ドアを開けて照明がつくと、人影が見えた。
「え…?」
人影が動いて近づいてくる、そして
「こんばんわ、はじめまして」

こはるは驚きを隠せない。
「えー!!この子ってコドモロイド?」
「そう、クリスマスプレゼントよ。新しいお友達ね」
こはるにドロイドが顔を合わせてくる。
「私はうゆり。よろしくね」
「こはるです。よろしく」
そうしてお互いに打ち解けてくる。
「ちょっと奮発しちゃったけど、気に入ってくれた?」
「うん!嬉しい!」
「まあ学習プラグインとかちょっとマシマシだから、いい学習パートナーになってくれるわよ」
「へへ…でも色々遊べそう」

---その日の夜中、同じ部屋になったこはるとうゆりがおしゃべりをしている。
「あなたのデータはエリカさんからもらったけど、この星の居心地はどう?」
「みんな優しいし食べ物も美味しいし、良かったよ」
「外から来る人の中にはここを地獄だという人もいるわね」
「そんな人いるんだ」
「ロボットなんてただ命令を聞いてればいいんだ、人間味なんていらないんだって…あと味気ない食事に慣れちゃった人たちだとそこにも違和感感じるってね」
「ここの人たちはそういうのを追い求めてるんでしょう?」
「まあそれがいいか悪いか…人それぞれよね」
「あとここに来て初めてエリカちゃんがロボットだって分かった、ずっと人間だと思ってたから…」
「そうなんだ…あの星系ならそうせざるを得ないよね。ロボットと分かってどう思った?」
「でもエリカちゃんはエリカちゃんだから、そんな気にはしない。それはあんたも同じよね」
「えへへ…こうして遊び相手になってるからね」
「ここの住民はバランス良く付き合ってるわよね。それはエリちゃんもミクちゃんも同じよね」
「そうね…さ、もう遅いから、寝ましょう」
「うん、じゃあ一緒に寝る?」
「いいわよ」
こはるがうゆりにケーブルをつなぎ、同じベットに横たわる。
「じゃ、おやすみ~」
そう言うとうゆりが目をつむり、寝息を立てる。
「ふふ、やっぱりこういうところが人間らしいって言うのかな?」
そう言ってこはるも目をつむった。


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