「ヒトノカタチ」STORY−15:Small life

---ドロイドショップ「からくりBOX」にて
「さて、今日はマシュさんが来店予約しているからの、失礼のないように」
「は、はい」
開店前の朝礼でカイ店長がルーク、イリヤ、スノの3人に指導している。
「じゃ、時間まではいつもの通りで」
そうカイ店長が言うと各人が持ち場に入る。

そして時間が来て、マシュが箱を持ってやってくる。店内を片付けていたスノが応対に入る。
「いらっしゃいませー」
「おう、みんな元気でやってる?これみんなでいただいて」
「わーい!何が入ってます?」
「まあ試作品だから、ちょっと感想も欲しいかな」
そう言ってるとカイがイリヤにおんぶされてやってくる。
「いらっしゃい。ところでワシの分はあるかね」
「カイさん用のもちゃんと入ってるから大丈夫よ」
「おう、それはありがたい。早速だが打ち合わせに入るかい?」
「お願いします」

カイとマシュが店内のテーブルで打ち合わせを始めた。
「とりあえず、3人分のプラグイン改修と、あともう1人追加で欲しいって
言ってたよな」
「はい、本格的にカフェ始めるとなると専属が必要だと思うので…」
「これなんかはどうじゃい?AZ社製のアイドルドロイドのレプリカモデルじゃが、集客にはもってこいだと思うぞ」
「そうだな〜AZ社さんならわりあい手頃だし、それで行ってみたいと思います」
「そういえばエリさんは接客改修に入らないのかい?」
「あの子は引き続き生産管理に徹してほしいので…でも新たにパンの生産もやるし、菓子も品数増やすから新たなプラグインと…あと容量ももうちょっと欲しいかな」
「じゃ、それも含めて見積もり出してみるぞ」
そういってタブレットを操作する。
「んー、こんなもんかなあ」
「どうだい?悪くはないだろう?」
「そうですね、じゃあこの流れでお願いします」
「成立じゃな。具体的な内容と時期的なことはまた追々話していくぞ」
そうして2人が席を立つ。

2人が商談している間、他の面子は奥の方で持ってきたケーキを食していた。マシュが3人にそれぞれ声を掛ける。
「どう?イケるかな?」
「うん!もうちょっと甘みは抑えたほうが良かったかな?」
「そうですね、私ももうちょっと甘さ控えめの方が良かったかな」
「俺はこれでいいと思ったけどな」
「甘みは抑えたほうがいいのはやっぱりそうね、もうちょっとやってみるわ、ありがとう」
そう言ってマシュが店をあとにする、4人が見送っている。
「どうですか?商談はまとまりました?」
「いい線行ってるよ、必要な準備はあんたにも手伝ってもらうからそのつもりでな」
「はい…ところで道路の向かい側になにか建ててるみたいですが、聞きましたけどあれがマシュさんの新しいお店ですか?」
「そうじゃよ、新工場と併設してカフェとショップを作ってるそうだ、新たにパン類の取り扱いも始めるそうだからそのためのエリさんの拡張と、あとはミクさんとエリカさんの接客改修も請け負ったぞ」
「そうですか、楽しみですね」
「それはそうと、ワシの分のケーキはどこにあるかい?」
「冷蔵庫に入れてますよ」
「そうかい、ちょうど昼だから一緒に食べるか」
「そうしましょう」

---そして昼食の時間
「今日は高級猫缶ですか」
「そうじゃ、これが一番いけるんじゃよ」
「毎回思いますけど店長って本当に猫っぽいですよね」
「だから猫って…まあ、この猫缶ってやつがこの星で手に入る中で一番元々の食事に近いからな…」
「そんなところも含めて、ですよね」
「まあそこが我々がこの惑星の住人に好かれるポイントではあるからな…」
「ところで思ったのですが、店長がここで暮らし始めたきっかけって何でしょう?」
「まあそれがね…」
馴れ初めを話し始める。

---

うちらが住んでいたDZ星系M404星というのはそれがまあ、自然の厳しいところでね、だからここで暮らす生き物−我々ミキ族というのはあまり長生きできないんじゃが、温和なところなら長生きできるというからそういうところで暮らしたいという願望はみんな持ってたもんだよ。それを見越してかあちこちの星系からいろいろとオファーが来るんだよ。ワシもそれに乗って、この星系に愛玩用…まあ、要はペットとしてやってきたんだな。

「ペットとして…って、そんなことで良かったのですか?」
「これが割がよくて、ただ自然な仕草をしているだけで衣食住を保証してくれるし、いいもんだったよ。中には騙されて船に乗せられ、戦場に送り込まれて船ごと沈む仲間もいるからな」

こんな平和なところにいられるなんて良かったものだよ。幸い最初の飼い主がいい人で愛玩にとらわれずいろいろな勉強をさせてもらったよ。おかげでひとり立ちできるだけの知識はもうこの頃には身についたのかな…
しかし、うちらは温和な環境であれば人類の尺度で言うと300年は生きると言われる種族じゃ、結果として飼い主を看取ることになってしまう…まあ覚悟はあったとはいえ、現実に目の当たりにしてしまうと悲しいものだったよ。

「まあそうなってしまうでしょうね…」
「ある意味人類がペットに抱いている感情の逆をいってしまってるんだな…」

そんなことが何回かあって、もうできれば独立した生活を送りたい…そんなことを思うようになったんじゃ…でもそれにはなにか社会でやっていけるだけの能力をつけないといけない…基礎的なものは最初の飼い主にある程度はつけてもらってたわけじゃが、それに加えてまた追加で何かつけないといけなかったわけじゃな…
そして3度目の身請けで来たのがドロイドショップの家族だったんじゃ。最初のうちはショップのマスコットのような扱いだったんだが、横目でやり取りを見てたりするうちに仕事も覚えるようになって、段々と仕事も任せられるようになったんじゃ。

「ある意味、天職を見つけたかんじなんですかね」
「そうじゃな、最初はドロイドなんてものに溺れていくとは…なんて思ってたんじゃが段々とそうなっていく気持ちもわかってきて好意を持つようにはなっていったよ」

そうしているうちにドロイド取扱責任者の資格を取ることもできて、気がつけば売り場責任者まで任せてくれるようになってきたんじゃ。
ある時、店長をやってみないかという話があった。支店の店長が引退することになって、次の店長を探していたところに、ワシに白羽の矢が立ったそうだ。ここの店を離れることになるのでちょっとは戸惑ったが、出世のチャンスとばかりに快諾したよ。
そしてここの店に来て、最初のうちは店長が変わって戸惑うお得意様もいたがすぐに打ち解けて、わりあいスムーズに受け入れてもらえたな。今でも元の店とは交流があって、在庫の融通とかもしてもらってるよ。

そんなある日、「動員」が起きたんじゃ…

朝起きて端末を立ち上げるとすぐに注文ステータスがおかしいことに気づいて、その直後にはもうトラックが横付けされて、展示在庫を片っ端から積み込み始めたよ。
動員自体は前の店でも何度か経験はしていたが、まさかうちにまで来るとは思ってもなかったよ。よっぽど大規模な紛争が起きたんじゃな…と思ってると、奥からすすり泣く声が聞こえてきた…

1体だけ、売れ残っていたんだよ…

コドモロイドだったんじゃがオークションで安かったし、もうそれなりに古い個体だっただけけどまさかこんな状況で売れ残るとは思わなかったよ…来た際に一斉に起こしたのがまずかったか、その子には現実を見せてしまって申し訳ないと思いつつ…
「…私、そんな…そんな…役に立たないの…」
すすり泣くその子に対してどう言葉をかけていいか悩んだが…
「ワシの、パートナーにならないか?」
「…え」
「まあ在庫を補充するまでちょっと時間がかかるし、ちょうど専属のパートナーも必要だなと思っていたから、悪い話じゃないだろう?」
「…私で、いいんですか?」
「もちろんだよ、コドモロイドだからって能力は大人と変わらないだろう?」
「…よろしく、お願いします」

---

「まあそんな形でパートナーになったのが今のイリヤさんなんだよ」
「ええ…もう古い型で、下手すると廃棄処分になりかねなかった私をパートナーとして受け入れてくれたのは光栄でした」
「へえ~良かったんじゃないかい?」
「まあそんな馴れ初めがあってな、おかげさまでいいペアとして商売繁盛に貢献してくれてるよ」
「あ、ありがとうございます」
イリヤが照れながら顔をそらすふりをする。
「その点私は最初からエリートよねっ。マスター」
「まあM39型系列としては新しい方で性能も高いけどやっぱり経験に勝るものはないし…」
「なーに言ってるの、まだ自分に助けられてる部分も多いのに」
「へへ…まあ自分も未熟だからお互い様ってところだな」
スノとルークが掛け合いをしている。
「さて、昼休みもそろそろ終わりじゃ、また持ち場についてくれ」
「は、はい!」

そして夕方、レイアが車で迎えに来る。
「じゃ達者でな、また明日も頼むよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言って車に乗り込む。
「おう、今日はどうだったかい?」
「あの2人の馴れ初めなんかが聞けてね…」
そう言って昼休みのことを話している。
「へえ、そんな経緯があったんだな。ところでもうすぐドロイド取扱主任者の試験があるって聞いてるけど、そっちの勉強は進んでるかい?」
「現場を見ながらの勉強だからおかげで理解が進んでいるよ。たぶん行けると思うよ」
「そうかい、頑張ってくれな」
「ねえねえお兄ちゃん、今日はアルクェイド先生と一緒で、みんなで合唱したけど意外と先生声が出なくて…」
同乗していたすずねが話しかける。
「相変わらず楽しそうだな」
「まあフェリス先生がすごすぎるだけだからねー」
「まあそうだろうな。ところで学校の方は慣れたかい?」
「もう慣れたよー、今度はうちに来てねってアルクェイド先生が言ってたしー」
「そうだな、機会があれば行きたいよな」
「良かったー、楽しみ〜」
そう2人が掛け合いをしているとレイアが
「そうだな、どんな生活してるかちょっと興味あるな」
「自分もかな、こういう仕事始めるとどんな生活してるのか興味があるし…勉強にもなるしな」
「なら今度話しつけてみるー」
「まあこんなこと言うのもなんだけど期待してるよ」
「やったー!」
車の中での談笑は続いていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?