「ヒトノカタチ」STORY-8:逆プロポーズ
ーーー大型スーパー「Large-B」にて
「…ったく、俺に万引き犯の対応なんてさせるんじゃないよ」
「まあまあ、ちょうど近くだったから仕方ないですよ」
店の事務所で対応にあたってたとき、ドロイドの店員が飛び込んでくる。
「あの、なんか誰か倒れてしまったみたいなんですが」
「さくら、そっちの対応に回ってくれ」
「はい」
さくらが店員に誘導されていく
しばらくたつと人型らしいものが運び込まれてくる
「ドロイドが倒れていたって?電池切れ?」
「そうですね、ちょうど近くにカイさんとイリヤさんもいたので一緒に対応しました」
「ちょうどよかったな。これはバッテリーが弱ってるよ。M39−HM型の初期型じゃよくあることじゃ」
「そうですか、ところでこの子のマスターは?」
「連れてきました」
長耳、薄い青の髪の人物が連れてこられる。
「まったくこんなところで倒れるなんて、整備不良だよ!今回は見逃すけど」
「す、すいません」
「ところであんたってエリスちゃんの弟、フリップ君だよな?」
「よ、よくご存知で」
「ここに引っ越してきたのかい?船は降りたんだよな?」
「え、ええ…お姉ちゃんが愛したジパング富士のふもとに…」
「そうかい」
「とりあえず今は職を探してる状態です。この子も中古で安く買ったんで」
「まあ、中古の個体じゃよくあることだな。職探し頑張れよ」
「ありがとうございます。ふつつか者ですが…」
「ま、元気出せよ」
ーーーその翌日、フリップの部屋で
「昨日はすいませんでしたマスター」
「いやいや、謝るほどじゃないよ、ちゃんと整備に出さなかった自分にも責任があるからね、ミクちゃん」
「はい…」
そんなこと言ってると着信音が鳴る
「ん?まあどうせお祈り…」
そう端末を見てみるが…
「…え?面接に進ませて頂きます?」
「えー!すごいじゃないですか!」
「手応えはあるな。でも会場がホテル?まあ気になるけどここまでこれたなら…」
「頑張ってくださいね、マスター」
ーーー同じ頃、洋菓子店「Sponge」にて
「マシュさん、今日の分製造終わりました」
「エリちゃんご苦労さん、いつもの通り店に並べてくれ」
「わかりました。ところで店を大きくするから人員が必要だとは言ってましたけど、決まりました?」
「ああ、目星が付いた。ドロイド付きだから申し分ないよ」
「それって、住み込みで雇うんですか?」
「いや、もうちょっと踏み込んでる」
そう言うとエリの耳元でマシュがヒソヒソと話す
「…え!?それってあり得るんですか?」
「次の面接でやるつもりよ」
「まったくもう…まあ相手がどう受けるか次第ですかね」
「まあ、相手が相手だから悪くはないと思うけどね」
「でもちょっと楽しみって感じも出てきましたわね」
「悪くはないだろ?家族が増えるんだから」
「そうですね」
ーーーそして面接当日、ホテルフジヤマのレストランにて
「オーナーパティシエのマシュです、今日はよろしくお願いします」
「よ…よろしくお願いします」
「早速ですが面接に入ります」
そうして面接が始まった。その間に料理が運ばれてくる。お互い食事しながら面接が進んでいく。
「御社を志望した理由は?」
「前職ではどんな仕事をしていましたか?」
ごく普通の設問で面接は進んでいく。そしてメインディッシュが出てきた頃、マシュがこう切り出してきた。
「ところでちょっと、提案なんだけど…」
「え…何でしょうか…」
フリップもこれは普通の面接と違う様子に薄々なにかがあると感じ始めたようだ。
「どうせならうちに、永久就職しない?」
「え…それってどういうことでしょう?」
一瞬沈黙が走る。
「そ、いわうる逆プロポーズよ」
そう言うとマシュが指輪の入ったケースを出して、開けて見せる。
「え………」
予想外の展開にフリップは驚きを隠せない。
「そ、そういうのって普通男性側がやることじゃ…」
「地球人なら普通はね、でもハウ族じゃ逆って聞いてるわよ」
「た、確かにそうなんですけど、まさか地球人からそれやられるなんて…」
「どう、悪い提案じゃないと思うけど、受け入れる?」
「……」
しばらく沈黙していたが…
「…はい」
「良かった〜!これで今日からパートナーね」
「は…はい」
「今日はお祝いよ〜ワインもう1本追加で〜!」
「え、結構酒豪?」
そうなりながらも食事と会話が進んで行く
「ところで…なんで自分だったんでしょう?」
「まあ一目惚れってところよね。履歴書の写真見てピンときたわ。まさかあのエリスちゃんの弟とはね」
「で、でもハウ族と地球人が暮らすって、結構大変って話も…」
「知ってるわよ、みんな食費すごいかかるって言ってるけどうちはカロリーブロック作ってスーパーとかに卸してるからそこは心配ないわよ」
「そうですか…」
「あとはドロイド付きなのもポイント高かったよね。M39型ならプラグインやカスタムパーツは豊富に出回ってるし」
「…やっぱり、一緒に手伝ってほしいってことですか?」
「もちろんよ、これから店を大きくするからね」
「そうですか…」
話が進む間にも酒瓶が増えていく、そして…
「※△□◯〜■△●◎」
「え、大丈夫です?」
「だ、大丈※◎■△〜」
「(どうしよう…)そういえば申し込むときの連絡先情報があったっけ」
そしてしばらくたつとエリがやってくる。そしてマシュを抱えながら
「まったく、マスターったらお酒強くない割には調子に乗って飲むんだから」
「そ、そうですか」
「それはそうとマスターのお婿さんよね。私は生産管理担当のエリです。今後とも宜しく」
「え、もう知ってたんですか?」
「マスターから全部聞いてるわよ」
「は、はい!よろしくお願いします」
ーーーそして数週間後、レイアが「Sponge」の店頭に買いにやってくる
「よう!また来たよ」
「い、いらっしゃいませ。この度はありがとうございました」
「証人になって欲しいって振られたときは驚いたけど、どうだい夫婦生活は」
「え、ええ。まだ慣れないところもあるけどうまくいってます」
そう言ってるとマシュが奥から出てくる。
「どうも~この度は入籍まで手伝っていただいてありがとうございます」
「いえいえ、フリップくんとミクさんは家族として、そして従業員として馴染んでるかい?」
「おかげさまで助かってるわ。これで店を大きくする準備は順調に進んでるわよ」
「そうかい、これからどうするんだい?」
「新しい工場兼店舗の立地を探してるところよ。あとはショッピングモールへの出店やトーキョーのデパートへの催事出店とかも…」
「おう、父親から店を引き継いだとたん一気に広げるんだな」
「ええ、父親が店を広げることに消極的だったのがずっと引っかかってて、その反動かな」
「でも一気に広げ過ぎじゃないかい?」
「まあ店の方も常連さんに支えられてやっていけてるし通販も好調だからなんとかなるわよ」
「フェリスさんの動画でここのお菓子がよく出てくるからそれが一押しになってるんだろう?」
「え、ええ…」
「ま、あまり突っ走りすぎずに頑張ってくれよ。また旦那ともどもよろしくな」
「はい!」
2人が頭を下げてレイアを見送った。
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