「ヒトノカタチ」STORY-26:それぞれの付き合い

---ある日のドロイドショップ「からくりBOX」にて
「さて、今日はルリさんとパートナーのフィーナさんが来店予約してるからの」
朝礼でカイ店長がメンバーに話をしている。
「フィーナさん、確かオーバーホールの依頼でしたよね」
「そうじゃな、オーバーホール自体は専門の整備工場に任せるが、前点検はうちがやって見積りを出すからの。ルーク君、今回は任せるぞ。ルリさんとこの子はうちの中では一番知っているからな」
「は、はい」
ルークは少し緊張している。
「じゃ、皆はいつもの持ち場についてくれ」
そう店長が言うとそれぞれの持ち場につく。

そして開店からしばらくすると、ルリとフィーナが入ってくる。
「いらっしゃいませ~」

店内にいる全員が挨拶をした後、ルークが駆け寄ってくる。
「いつもありがとうございます。早速ですが点検に入りますので、こちらへどうぞ」
「じゃ、ここからは任せるわね」
ルリがそう言うと。
「よろしくお願いします」
フィーナがルークに連れられて、奥のメンテルームに案内されていく。
「服はこちらへどうぞ」
「いや~ん、エッチぃ」
そう言いながらもフィーナが服を脱ぎ、メンテ台に横になる。そしてルークがケーブルをつなぎ、端末を操作するとフィーナがぐったりとした姿勢になり、表情が消えていく。
「さて、始めますか」
そう言ってルークが端末を操作すると、様々な装置が周りを囲むように動いていく。そしてひと通り終わると
「じゃ、この中へ」
そう言ってルークがケーブルを外すとフィーナが無表情で台から降りて、準備されている細長い箱に入っていく。
「完了しました」
「了解、じゃ見積もりを出すがな」
ルークの報告を受けると店長がおもむろに端末を操作して点検の結果を見る。そしてテーブルで待っているルリに
「うーん、さすがに腰のフレームがちょっと寿命きてるようじゃな。そこを直せばあとは問題ないと思うが、どうだい?」
「そうですね、この子にはまだまだ頑張ってほしいんでお願いしたいです」
「じゃ、それで見積もりを出す……と」
そう言って店長が画面を見せる。
「うーん、さすがにフレーム修理となると値が張るけど、仕方ないわね」
「これで進めていいかい?」
「お願いします」
「分かった、今日の夕方には回収に来るから整備が終わるのは3日後になるな」
「ありがとうございます……ところでなんですが」
「なんじゃ?」
「うちもそろそろ4人目がほしいと考えてまして、ちょっと相談していいかな、なんて思いまして」
「おう、そういうことならいくらでも相談してくれ」
「あ、ありがとうございます」
「何か気になるモデルはあるかい?」
「ええ、今人気があるっていうAZ社のドロイドとか……」
「そうじゃな、ちょいとカタログ見てみるかい?」
そう言って店長が端末を操作してルリに渡す。
「うーん、この子が可愛いし50モデルだからウェイトレスさんとして映えるけど、45の子も可愛いし人気あるし気になるなあ〜」
「考えがまとまったらいつでも話を入れてくれ。期待してるぞ」
「はい……」
そう言ってルリが店をあとにする。ルークが店奥から戻って来る。
「もしかして、新しい子が来そうですか?」
「そうなりそうだな。そのときはまたあんたが担当になるからよろしくな」
「はい、新しい子をお迎えされるのはうちとしても見てて楽しいんで」
「じゃ、そのときは頑張ってくれよ」
「は、はい」

昼時……ルークが昼休みが終わり、店舗に上がってくると店長が少しぐったりしているように店内の椅子に座っている。
「どうかしました?」
ルークが心配そうに声を掛ける。
「いや、またあのしょっちゅう入れ替える一家がやってきたんじゃよ……毎回子供の説得をするのは疲れるからの」
「あの一家ですか……また今回も買い替えですか」
「そうじゃ、今回は半年持たなかったようじゃな。大体子供が慣れてきた頃に買い替えするから子供が泣きじゃくって……」
「うちとしてはありがたいやら、ありがた迷惑やら、複雑ですね」
「今日のフィーナさんみたいに古くても1つの個体を整備して長く付き合うマスターもいれば、しょっちゅう乗り換える人もいる。この業界は長いからいろんなマスターを見てきてるがな……」
「まあ、自分はまだ浅いですけど本当にいろいろいますからね……」
「そうじゃな、さて、午後の仕事にはいるかの」

午後になりしばらくすると、2人連れが入店してくる。
「お、モエちゃんとフラちゃん、いらっしゃい」
ちょうど店内にいたルークが応対する。
「こんにちわ、今日はお迎え無料1ヶ月点検で……」
「わかりました。こちらへ」
そう言ってフラを奥のメンテルームに案内していく。
「じゃ、服を脱いで」
「うっ……」
フラが涙を浮かべたような表情を見せるが……
「大丈夫だよ。ほら」
「……うん」
フラは少し涙目になりながらも服を脱いで台の上に横になり、ルークがケーブルをつなぎ端末を操作するとぐったりして表情が消えていく。
「さ、始めるよ」
そう言ってルークが端末を操作すると、やはり様々な装置が周りを囲むように動く。そして一通り終わりケーブルを外すとメンテ台を降りたフラは無表情で服を着る。そしてフラの体から残った細いケーブルを外すと
「……はっ!」
「もう終わったよ」
そんなやり取りをするとフラがメンテルームから出る。そして泣きながらモエの胸元に駆け込む。
「お姉ちゃん~」
「よしよし、もう安心よ」
そんな様子にルークが
「ごめんな、やっぱり男の人の前で服脱ぐなんてトラウマがあるか」
「それはありそうじゃな。やはりメンテ要因で女性が必要だと思うがな……」
店長が複雑な顔をする。
「フラちゃんの様子はどうでした?」
「問題はないですね。こっちはまだボディーも新しいから」
「ありがとうございます」
「ところでフラちゃん、あれからどうだい?」
店長がフラに語りかける。
「うん!お父さんもお母さんもお姉ちゃんも優しいし、いいところだよ~」
明るい声で話すフラの姿を見てモエも
「そうね、でも時々泣きじゃくることもあるのよね。やっぱりトラウマは消しきれてないみたいで……」
「そうじゃな……こういった個体はどうしてもそういうこともあるから、しっかり受け止めてやることが大切じゃよ」
「は、はい。頑張ります」
そうしてモエとフラが帰っていく。
「フェリスさんとこのレイ君なんかもそうですけど、嫌な記憶を持ったままって、ちょっと残酷な気もしますね」
「まあ、人為的に選択して記憶を削除するというのも何かと面倒だから普通は全リセになってしまうんだな……愛情で嫌な記憶を上書きするというのもそれで人間味が出ていいという人も多いし……難しいがな」
「モエちゃんはあえて難しい選択をしましたよね」
「じゃな、でも本人はそれが楽しいって言ってるから、見守ってやることも必要だな。そこは頼んだぞ」
「は、はい」

そして閉店時間になり、ルークとカイ店長が帰り支度をしてそれぞれの迎えを待っている。その間ルークがスノに対して
「じゃ、また明日」
「またね~」
そうお互いに挨拶をするとスノが店の奥に入っていく。そうしているとカイ店長の迎えの車が先に来る。
「じゃ、また明日よろしくな」
「はい!」
挨拶もそこそこにカイ店長とイリヤが車に乗り込む。そこからしばらくするとルークの迎えの車がやってきて、乗っていたレイアとミイが降りてくる。そしてルークがすずねの姿がないことに気づき
「今日、すずねは?」
そう言うとレイアが
「合唱コンクールが近いからフェリス先生につきあわされてるみたい、もしかしたら学校で寝泊まりかもって聞いてるよ」
「まあ仕方ないかな……」
そんなやり取りを聞いてミイが
「えー、今日配信されるゲーム一緒にやろうと言ったのに〜」
少し残念がるが、ルークが
「まあ仕方ないさ。またの機会にってことで」
「うん……」
そう言いながら3人は車に乗り込む。中では正が待っている。
「お疲れ様です。今日はアジフライですよ」
そう正が言うとレイアが
「そうか、久しぶりの揚げ物だな」
「近所からおすそ分けってM3アジをもらいましたんで、ちょっと作ってみました」
「まあ揚げ物って不思議となんでも美味くなるもんだからな」
そしてルークも。
「ありがたいですね。みんなでいただきましょう」
「揚げ物は好きですよね、ルーク君も」
「ええ、こういう平和な時でないといただけないですからね」
「そうですよね。そしてみんなでご飯食べるなんてことも」
「それもそうだな……」
そんなやり取りをしてるとミイも
「ちょっとみんな揃わないのは残念だけど、食べよう〜」
「そうだな、まあまた今度ということで」
「わーい!」
そんなやり取りが続いていた。


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