「ヒトノカタチ」STORY-3:偶像

仕事終わり署に帰ってくる途中のレイアとさくら。
「まーなんとか今日は終わりそうだよな」
「そうだといいんですがねえ。こういう時に何か起きそうな気もするんですが」
「おいおい、ドロイドなのに何かの予感ってなんだよ」
「いや、経験上何かが起きるように感じるのをそんなふうに言うのかなって」
「あんた全リセされてるんだろう?そもそもそんな経験なんてないはずだけど」
「…まあ、でも警察対応のデータからなんとなくって感じですけどね」
そんなかけ合いをしていると警報音が鳴り響く
『本部より行方不明捜索依頼。子供が家に帰ってこないと捜索依頼があった。バス定期券の出場記録からアオキガハラ付近のバス停で降りた模様。特徴は制服風の服装に緑髪緑目長耳…』
「おいおい、そんなこと言ってたらこう来たかよ」
「アオキガハラですか、なんか不安ですね、まさか…」
「ドロイドのくせに縁起でもないこと言うなよ。とにかく捜索開始!」
「はい!」

しばらく捜索をしている、あたりはすっかり暗くなっていっている
「なかなか見つからないな」
「おそらくそんな奥には行けないはずなんですけど…ん?」
「どうした?」
「なにか生体反応が…あ!!生体反応!間違いなく人型です!」
「よし、追え!」
「はい!」
さくらがパトカーから飛び出していく。同時に追跡ドローンが車から飛び出し追跡しながらライトを当てる。レイアもその後を追うがあっという間に離れていき、そして捜索対象にあっという間に近づいていく。
「(緑の髪の子…間違いない)」
逃げる捜索対象が草むらの奥に入っていくが…
「きゃっ」
程なくコケてカバンが前に飛ぶ。すぐにさくらが追いつき身柄を確保する、その後にレイアも追いつく。

「…ぐすっ、ぐすっ」
緑髪の女の子はぐずっている。
「とりあえずパトカーまで連れて行って、あとしばらく相手してて」
レイアはそう言うと投げ出されたカバンの回収に向かう。
「さてと…ん?」
カバンから飛び出したタブレット端末の電源が不意につき、ロック画面が映る。
「これは…」
そう思いつつも回収を進めると紙のスケッチブックらしいものも見つけた。
「(珍しいな、今どき紙のスケッチブックなんて…)」
そう思いつつもカバンの中身の回収を進めた。

回収が終わり、レイアがパトカーのところまで戻った。
「…」
緑髪の女の子は涙を浮かべながら顔を下に向け黙っている。
「名前はメイア、ハウ族の女の子、フジ学園高等部1年生、最近越してきた子ですね」
「了解、とりあえず家まで送っていこう」
そう言って3人がパトカーに乗り込む。

メイアの家に向かうパトカーの中でレイアが問い詰める
「で、こんな時間になぜこんなところで降りたんだい?まさかとは思うけど」
「…一人でいたかっただけ」
「あと緑髪に緑目、なんかかつてのエリスちゃんを思い起こさせるけど…」
「…それ、言われる…」
喋りが涙声になっていく
「けど比べられたくないの!だって頭は良くないし歌は下手くそだし…ううっ」
メイアが涙声で叫んで泣きじゃくる
「…悪かったな、すまん」

そしてメイアの家に着いた。
「うわああああ!」
「こんな遅くまで何やってたのよ、心配したわよ」
メイアが玄関先に出てきた母に飛び込む。

「まあすいません、こんな遅くまでご迷惑をかけてしまって。さ、ごめんなさいするのよ」
そう母が言うとメイアは軽く会釈をする。

レイアとさくらの2人はパトカーに戻る。
「ここ、近くだな…」
レイアが小声で言うと
「なに言ってるんですか?」
「いや、なんでもない」
「とりま報告は署に上げておきます」
「了解、すっかり遅くなったから早く戻ろう」

---それから数日後の日曜日
レイアはわざとらしくメイアの家の近くまで来ていた。そしてメイアと鉢合わせになる。
「「…あ!」」
お互い気まずそうに目を合わせる。
「あの、ちょっと!先生に色々吹き込んだのアンタ?」
「ああ、ちょっとした偶然だったんだけどな」

---あのときの翌日、メイアが通うフジ学園の玄関先で
「緑髪の子?その子ならうちのクラスよ」
レイアがフジ学園の先生、さくらと話をしている。お友達同士ということもあって話が通じると思って来てたのだ。

「そうだったか、まあこんな事があって…」
その日のことを話すレイア。
「そう、まだ入学して日が浅いからまだあの子のこと知り切れてないし…」
「まあそれだったら話は早いな、なら任せてもいいかな」
「ええ、そんなことならレガシー美術部のランカ先生にも話してみるわ」

---メイアのクラスの教室内での昼休み
「…」
他の生徒が思い思いの時間を過ごしている中で、メイアは机に伏せるようにうなだれている。
「緑髪の子がいるのって、このクラス?」
「そうだけど…あの子」
「ありがとう」
そんな声が聞こえる。そして人影がメイアの机に向かってくる。その人影が背中をたたく。
「…はぅ!?」
メイアは驚いて体を上げた。
「ごめん、お休み中だった?」
赤髪ポニーテールの女の子が声をかける。

「あ…あなたは?」
「私はアルカネット、レガシー美術部の部長やってるんだけど、このクラスに紙に絵を書いてる子がいるって聞いたんだけど、あなた?」
メイアは小さく首を縦に振る
「差し支えないならちょっと見せてほしいな」
そう言われるとメイアはカバンからスケッチブックを差し出す。アルカネットはスケッチブックを開いて目を通し始める。
「へえ、マンガ絵じゃん、珍しいね。」
「うん…」
そう言うとアルカネットはスケッチブックを返して
「もし興味があったらレガシー美術部に来ない?いろんなジャンルの人がいるから楽しいわよ。毎週月水金に美術室で活動してるからよかったら見に来てね」
そう言ってアルカネットは立ち去っていった。

---その週の活動日
メイアは美術室のドアを開けた。
「あら、いらっしゃい。あなたが噂の?部長から話は聞いてるわ」
そう応対したのはレガシー美術部の顧問の先生、ランカ先生だった。

「あ、あの…ちょっと興味があって」
「恥ずかしがらなくてもいいわよ。案外雰囲気はフリーなところだから」
「ありがとうございます。部長は?」
「あそこにいるわよ」
そう言ってメイアがアルカネットの側まで駆け寄る
「あら、来てくれたんだ。期待の新人さん」
「え、そんな…」
「まあ気張らずにね。今日は人が少ないけど、ほら、あの子は油絵やってる子よ」
キャンバスに向かっている子を指差す。メイアが駆け寄っていく。
「うわー、油絵じゃん。リアルで書いてるの初めて見るー」
「…ちょっと恥ずかしいわ」
そう言うと書いてる子は顔を向ける

「私はメイア、あなたは」
「シャトです」
「結構絵の具とか手に入れるの難しいって聞くけど…」
「ええ、絵の具とか道具とかなかなかに入手が難しいんだけど…」
「ふーん」
「まだ先輩方には遠く及ばないけど、いつかは合同展示ぐらいには出せたらと思ってる…」
「そう、ありがとう」

「じゃあ、入部という方向でいきましょうか」
「はい!是非ともやってみたいです」
「いつかレガシーコミケに出られるぐらいにいきたいわね、期待してるわよ」
「えへへ…」

その日の帰り、クラスの委員長であるサアラとバス停で一緒になった。

「あらメイアちゃん、こんな時間までなにしてたの?」
「うん、レガシー美術部の見学っていうか、そのまま入部しちゃったけど…ところでサアラちゃんは?」
「私はレガシー音楽部の練習にいってたわよ。合唱セクションにいるんだけど」
「へえー、珍しいね」
「多分聞いてるとは思うけど、この学校レガシー芸術の活動に力を入れているわよ。先輩方も芸術系大学や専門学校に進学する人も多いし、中にはそのままデビューする人もいるわよ」
「そ、そうなんですね」
「まあガチでやる人から趣味程度にやる人までいろいろだから、余り気張らないで」
そうこうしているうちにバスがやってきた

レガシー芸術ーーーこの時代多くの場合絵や造形、音楽などはコンピューターで作られるようになったが、そんな中でもあえて人間の手で絵や文字を書いたり、音楽演奏や歌を歌うようなことをそう言うようになった。
多くの惑星ではそういった物は衰退しているがこの惑星では盛んに行われ、そういった作品はしばしばSNSや動画サイト上でバズったりして話題になることも多く、「人間味あふれるから」として根強いファンもいる。

ーーーバスの中で
「ところで、メイアちゃんってエリスちゃんのファンなんでしょう?」
「え…なんで?」
「タブレットのロック画面や、カバンにアクキーつけてるぐらいならファンと言わずしてなんていうのかな?」
「う、うん」
「なんかメイアちゃんって同じ緑髪長耳だから見て一瞬ハッとすることあるのよね」
「でも、あまり比べられたくない…」
「そんなことないわよ。ちょっとモノマネしてみて」
そう言われてメイアが少しモノマネポーズをしてみる。
「あ、やっぱりエリスちゃんっぽい!さまになってる〜」
「本当に?ちょっと恥ずかしいんだけどそういってくれると嬉しいかも〜」
「そう、まあ案外ファンも多いし、もっとみんなと絡んでいこうよ」
「…う、うん」

---

「あの後、みんながモノマネとか喜んでくれるようになって、人気者になったのはいいんだけどちょっと恥ずかしくって…」
「そうか…まあ立ち話もなんだからこれでも食べるかい?」
そういってレイアが小さな箱を取り出した。
「…いい匂いがする、これってハフケーキだ!なんでうちらの好み知ってるの?」
「うちのドロイドがこういうのにわりあい詳しくてね」
「わー!食べよう食べよう!部屋に行こうよ!」
「いいよ」
そう言って2人は家に入っていく
「(へへ、チョロいな)」

「あらこの前の…すいませんうちの子がご迷惑かけまして」
「いえいえ任務ですから、気になさらずに」
メイアの親と言葉をかわし、部屋の前まで来る。
「…ここ」
そうメイアが言って部屋のドアを開ける。
「これは…」
それは部屋中エリスちゃんグッズで溢れている部屋だった
「やっぱり、筋金入りのファンだったんだよな」
「…うん、ライブとかもできるだけ行ってたし」
「でも「比べられたくない」とは言ってたけど?ここまで好きなのに?」
「うん…前の学校で存命してた時はモノマネとかみんな喜んでくれてたけど行方不明になってからみんなの見る目が厳しくなっちゃって…いくら同じ緑目緑髪でも成績は良くなかったし、歌も音痴だったし…劣等感は感じてた」
「でも、未だにファンはやめられてないんだろう?」
「うん…」
そう言うとタブレットで動画を見せる
「これは…TVでも見たけどエリスちゃん最後のライブって言われる動画じゃないか」
「実は、うちのお父さんが偶然同じ宇宙船に乗ってて、その時ミニライブをやったときの動画を送ってくれてたの」
「あの動画の主があんたのお父さんだったのか」
「そう、そしてこの1時間後にその宇宙船は消息を絶って…」
「そうか…そうすると大切な2人を一挙に失ってしまったことになるよな…で、あんな場所にいたのはなぜだったんだい?」
「…」
メイアは黙り込んでしまう。
「まあ場所が場所だから図星だよな、そうかい?」
メイアがわずかに首を前に振る。

エリスーーー同じハウ族の緑髪緑目女の子で、かつてそのキャラから多方面に活躍し絶大な人気を誇っていたスタータレントであった。しかし、惑星間ツアーの移動中に乗っていた宇宙船が突如消息を絶ち、行方不明のまま死亡扱いとなった。しかしその後も非公式にファンクラブを存続したりするなどファンの間では未だに生存を信じている人達が少なくない。

「こんにちわ、どうぞ」
部屋に別の人が飲み物を持って入ってくる
「ありがとう、この子はドロイドだよね?」
「うん、元々お父さんの独身時代のパートナーだったって」
「耳が尖ってるけど短いから混血風だよな」
「そう、若い頃は好みだったって」
「そうか…じゃあこれでも食べるかい」
「わーい、待ってました」
小さな箱を開けると、小さなブロック状の菓子がつまってる。それをメイアがおもむろに口に放り込む。
「美味しい!まるで名店の味じゃん!」
「そうか、喜んでくれて嬉しいよ」
「うん!これならまた食べたい!」
「いいよ、どうせ近所だし」
「やったー!また来てね〜」

しばらくお茶した後レイアが玄関に向かい帰っていく。
「じゃ、またねー」
「ああ、またな」
そう言って玄関を出るとメイアの母と鉢合わせになる。
「あらすいません、うちの子が色々と…」
「いいんですよ、色々偶然が重なってのことですから」
「いろいろあって引っ越してきてからずっと落ち込んでたままでしたから…明るさを取り戻してくれて…」
「こんなところに引っ越してきたというのはなぜなんです?」
「ええ、前の場所だとTV局とかもうるさいし、いっそのこと引っ越そうかという話になったんです。元々父の別邸だったんですが。」
「そうか…でも良かったですね」
「いえいえここまでしてくれて感謝しかないです。またよろしくお願いします」
「じゃ、また」

「あれ、喜んでくれたでしょ」
家に帰るとミイがこう言ってくる
「ああ、喜んでくれたよ」
「良かった〜ちょっと不安だったけど」
「でもあれがハウ族のソウルフードだって言うのも不思議だよな。自分も食べてみたけどまるで非常食ブロックみたいだったからあまり美味しいとは言えなかったけど…」
「ハウ族は人間より多くカロリーを摂らないといけないからそのぐらいがちょうどいいのよ」
「そうか…また来てって言われたからまた作ってくれてもいいかい?」
「もちろんよ。喜んでくれるなら」
2人の談笑が続いていた。


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