「ヒトノカタチ」STORY-10:再会2(後編)

前編:https://note.com/mnp_x7/n/n8605a59bb23a 

---そしてデートの日の朝
お出かけ着のアスナと、カイ、イリヤ、レイア、ルークが店頭に集まっている。
「それでは、行ってきます」
「じゃ、レン君によろしくな」
レイアが小さな箱を渡す。
「これ、渡してくれ」
「分かりました」
そしてアスナがバスに乗り込む。4人はそれを見送る。
「で、本当にあんなこと吹き込んでいいのか?」
「ああ、思い出はそのままにしてやりたかったし、親しい仲が増えるのはいいだろう?」
「まあ…」
レイアとルークが話しているとカイがルークに話しかけてくる。
「ところでの…」
「はい」
「この後の話なんだが、こんな求人案件が来たんじゃがどうだい?あの子にピッタリの就労先だと思うじゃが…」
そう言ってタブレットの画面を見せる。
「ああ、いいですね」
「そうかい、それで進めていくぞ。あとアンタ、就職活動はうまくいってるかい?」
「まあ、それはこれからになりますが」
「それなんじゃが…」

---シンジュク、バスターミナル
レンがアスナの乗ったバスを待っている。
「今のところ遅れはないようだけど、そろそろかな…」
そんな事考えてるうちにバスが着いた。そしてアスナが降りてくると真っ先にレンが飛びつく。
「アスナちゃん、また動いてる姿を見られるなんて…」
「レン君…」
そうしてお互い強く抱きしめながら嬉しさを表現していく。
「そのコーデは誰のかな?」
「まあ店にあった売れ残りから猫ちゃんが選んだみたいだけど」
「猫ちゃんって?」
「カイ店長のことよ。まさに2本足で立ってる猫みたいなものじゃん。猫缶食べてるし」
「それは…言い方が悪い気もするけど」
「あまり言われたくないことみたいだけどね」
「まあそれはそれで、コーデはちょっと田舎っぽい感じするけど、これはこれで良いかもね」
「それはそうと早速どこ行く?」
「とりあえずアキハバラの方へ行こう」
「えー、なんかそれはないような…」
「自分の就職先もあるからさ…」
「じゃあ、ちょっと見てみようかなー」

---アキハバラの少し裏の方、古代ゲームショップ「PLAY」の入ってるビルの前で
「ここがレン君の就職先?」
「そう、早速だけど入ろう」
そう言って2人が地下への入口に向かっていく。そして店内へ入る
「いらっしゃいませ…ってレン君?今日は休みじゃなかったの?」
「いや、ちょっとね…」
「ってその隣の子は?もしかして前話してた彼女ってやつ?」
「…う、うん。1日だけだけど」
「私、陽菜です。レン君の職場パートナードロイドです。宜しくね」

「アスナです。宜しくね」
アスナがそう挨拶もそこそこに店内を見回す。
「これら古代のゲーム…の復元品?」
「そう、サークルの仲間だった人がこういうのを扱う会社を立ち上げてこの店をオープンさせたからその一員として入れてくれたんだ」
「へえ、やっぱりこういうの好きだったの?」
「まあ、興味はあったけどまだ知らないことも多くてね…まだ雑用ぐらいしかやらせてもらえないけどそのうち知識をつけて色々やれればな〜と思ってるよ」
「そう…頑張ってほしいな。私のお陰でここまでこれたんでしょう?」
「えへへ…まあね」
そう言ってると陽菜が
「ふーん、ちょっと話は聞いてたけどそういう間柄なんだ」
「そうね、私ってそれが課せられた使命だと思うから」
「飲食店モデルなのに?」
「だからこそ、だと思うわ」
「そうなんだ、自分もこういう仕事を通じてそんなことを目指すことになるのかな〜」
「でも古代のゲームの復元品なんて、好きな人多いのかな…単に古臭いだけのような気もするけど」
「意外とコアなファンはいるし、観光客も良く来るわよ」
「へえ、そうなんだ」
「キューブの解析が進めばまだまだ出てくるはずよ。そうすればうちの店の出番も自ずと増えるから期待してるわ」
「…」
しばらくアスナが沈黙している
「…なんか、気に障った?」
「いえいえ、ちょっと理解が進まなくて…」
「ごめん、語りすぎちゃった?」
そうするとアスナがレンに話を振ってくる。
「こんなパートナーで大丈夫?すごい語ってくるけど」
「案外熱くなっちゃうところがあるけど、そのおかげで理解も進んでるからありがたいです」
「いや~ん、ほめてくれてありがとう」
「まあいい関係にあるみたいだから、安心できるわね」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ立ち話するのもなんだから、そろそろ行きましょう」
「う、うん…」
「なんか、引っ張られてるわね」
「…そ、そんなんじゃないもん」
そうして店舗を後にする
「あんましアキハバラはよるとこないから、別の所にしない?」
「う、うん…」

---そしてハラジュク・タケシタ通りにて
「ね〜、これなんか好きだな」
「う、うん…似合ってるよ」
「ついでだからまとめて買っちゃうよ、いいかな?」
「うん…(これで4店舗目だよ、財布がますます軽くなるな…)」
「次はクレープ食べようよ」
「うん…(夕食に響かないかな。せっかく苦労して予約できたから)」
アスナがレンを一方的に引っ張っていく。
「あー、こっちのほうがよっぽど楽しかった」
「そう…良かったね」
「ところで思ったんだけど…」
「こ、今度は何かな」
「元いたところってどうなってるんだろう…」
「…ちょっと行ってみる?」

---トーキョー郊外の雑居ビル。アスナが勤めていた喫茶店が入っていた1階の店舗スペースはすでにがらんどうになっていて「テナント募集」の看板があるだけになっている。
「…淋しく、なっちゃったね」
「うん…でもここでの思い出はずっと持っていくよ」
「多分レン君のことは消されちゃうと思うけど、それでもいい?」
「うん…仕方ない。次のオーナーがいい人だといいね」
「そうね…思ってたんだけどなんでアスナちゃんは飲食店モデルのドロイドの割に癒やしの能力があるのはなぜなんだろう…」
「私、1回動員されてるの。ここの前のことは覚えてない…だから安かったからここに来たんだろうと思う。でもスキルは消されなかったからそのせいなのかも」
「ヤマトT64紛争かい?」
「そう、自分は病院船勤務だったから、トラウマが残ることもなかったし、飲食店勤務で培った癒やしのスキルがこういうところで生きてたのかも」

ヤマトT64紛争:戦略的に重要な資源があるヤマトT64星系をめぐる連邦側と帝国の残党によって起きた紛争。特に惑星S220における宙域及び惑星上での戦いは激しく、比較的近い位置にあったジパング613からも多くのドロイドが動員され、その1/3が失われたとされる。

「そうか…全リセされてないからあれだけ自然に振る舞ってたんだね」
「そうだと思う」
「…まあ、そんなところで夕食にしようよ。予約時間せまってるからさ」
「そうね、行きましょ」

---シンジュクのレストランにて
「ねえ、ここってなかなか予約取れないレストランじゃない?」
「偶然キャンセル待ちで取れたんだ」
「1日限りにしては頑張ったわね」
「うん…結構お金かかっちゃったけど」
「そうね…ドロイドでこんな事言うのもなんだけど色々わがまま聞いてもらってごめんね」
「いやいや、いいんだよ。思い出の総決算だと思ってるから。もう結婚するし」
「えー!そうなんだ。どんな人?」
「自分の就職先の店の社長で店長なんだ。就職先だけでなくまさか一緒になれるなんて…」
そう言ってスマホの画面を見せる。

「そこそこ美人じゃない。いい人と巡り合ったじゃん」
「へへ…まあ前から気になってたとは言ってるけど、いい機会だったのかもしれない」
「ふーん、でも同じ店の中だと気まずかったりしない?」
「まあ、おかげでデートって名目で休み取れたんだけどね」
「私のこと知ってたんだ」
「前々から話はしてたよ。だから1日限りなら…って認めてくれたのかな」
「そう…お嫁さんにもよろしくね」
「…うん」

---夜のシンジュクバスターミナル
「もうすぐ…だね」
「そうだね…また会いたい…と言いたいところだけど、多分駄目だろうな」
「そうよね。どちらにせよレン君のことは消されちゃうわけだから…」
「…」
「そうそう、次のマスターからこれ渡してほしいって」
そういってアスナが出発の時に渡された箱を渡す
「…ありがとう」
「そろそろ来るわね、じゃあ行ってくるわ」
「…達者でな」
そう言うとアスナがバスに乗り込む。そしてレンはバスが小さくなるまで見送る。
「…」
無言でバスターミナルを後にする。

---トーキョー郊外のマンション、レンが家に帰ってくる
「ただいま」
玄関にはレンの婚約者、百合子が仁王立ちしていた。
「さ、これでいいんでしょ?」
「…」
無言でレンが居間に向かう。
「まったく、せめてお別れだけでもって言うから…」
「…わかってる」
「また明日には仕入れの物が来るからその処理お願いするわね」
そう2人が居間で話していると、居間にいたもう2人…それぞれのパートナーであるキリトとリンが反応する
「お疲れ様、デートどうでした?」

「もう私という人がいながら…心の整理はついたんでしょう?」

レンは箱を居間のテーブルに置く
「んー?なにこれ?」
「なんか新しいマスターからってもらったやつだよ」
そのまま奥の部屋の方へ向かう。百合子はおもむろに箱を開けると…
「クッキー?どれどれ…」
箱の中のクッキーをつまむ
「うん、いけるじゃん」
2、3個つまんだ時点でふたの裏にあったコードに気づく
「何かしら、これ…」
コードを端末で読み取ってみると…動画が再生される

『よう!俺が新しいマスター、ルークだ
あんたの思い、とくと受け止めた
あんたの思い出は消さずに残しておくから、また会いに来てくれ
どうせなら、みんなで来てくれてもいいぞ。
うちもみんなで待ってるからな。よろしく!』

動画を見た百合子が苦笑いをする。そしてレンを呼び寄せて
「これ、見てよ」
また動画が再生されると…レンが涙を浮かべる。
「いいマスターに拾われたじゃん!」
「…うん」
「どうせなら今度みんなで遊びに行かない?話合いそうだし」
「え、うん…」
「それからさあ、やっぱコドモロイドお迎えしよう!」

---それから数日後、カフェ「クロスウィンド」にて
「メイド服、似合ってるよ」
「そう?良かった~」
アスナとルークが一緒に来てアスナの就職手続きと挨拶に来ている。
「じゃ、これで手続きは完了じゃ。いい就職先が見つかって良かったな」
カイが手続きを終わらせるとマスターになるルリに話を振る。
「アスナさん、よろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ」
「ところで、アキハバラの「PLAY」の中の人とお知り合いですって?」
「いや、そこまでじゃないんだけど…」
「あそこはうちが店を開く際にも随分とお世話になったわよ。これで新発見もいち早く入れられそうね」
「そ、そう?まあちょっとは話が通りそうな気もするけど」
「まあそれはそうと、フィーナとキズナアイにもご挨拶して」
そう2人にも話を振る。
「フィーナです、よろしくお願いしますね」
「キズナアイでーす。よろしく~」
「不束者ですけど、よろしくお願いします」

「さ、店に戻るぞ。ツレも待ってるし」
「は、はい」
カイとルークが店を出ていく。

---そしてドロイドショップ「からくりBOX」にて
店内着のルークを前に先に来ていたレイアが
「悪くないじゃん、自分のコネみたいなものとは言え、いい就職先見つかって良かったな」
そしてカイが
「人手が欲しかったところだからちょうど良かったよ。まあ補助金もあるしな…」
ルークも続いて
「それはドライな…まだこれからだとは思いますがよろしくお願いします」
「それじゃパートナーを紹介するぞ。M39-S型のスノさんだ」
そう言うと奥から1人出てくる

「よろしくお願いします。ルークさん」
「こちらこそよろしく」
「まあM39系列はパートナーとしては悪くないと思うぞ。わりあい扱いやすいし」
「ありがとうございます。またかわいい子をあててくれて」
「いや~ん、そんなこと言ってくれて嬉しい」
スノがルークの腕をギュッと握る
「ふふ、いいカップルになりそうだな」
「えへへ…」
「それはそうと、ドロイド取扱主任者の資格取得頑張ってくれよ。ちょっと難しいがこれがあればできる仕事は増えるからな」
「え、ええ…頑張ります」
「まあ頑張ってくれよ。自分は任務にもどるのでこれまでで…」
そうしてレイアが店を出ていく。

---その週の土曜日、百合子・レン一家とレイア・ルーク一家が落ち合ってキャンプ場にいる
「キャンプなんて初めてなんでよろしくお願いします」
「大丈夫、うちの正がこの手には詳しいから、おまかせできるよ。それはそうと、そちらは二重夫婦になるよな」
「ええ、うちだとキリトとリンですね」
「自分たちはきょうだいだから違うけど、まあ正とアスナの関係は似たようなものかな…」
「まあドロイド家族あるあるですね」
そう話をしているとコドモロイドの2人がお互い飛びついて
「ミイです、宜しくね」
「アルルでーす、今日はたっぷり遊ぼう♪」

そうして2人は手を繋いで遊びに行く
「はは、やっぱり子ども同士だと仲良くなるのも早いな」
「そうね、自分が選んだ子なんだけどこの子が来てから雰囲気が明るくなって良かったわよ。ちょっと高かったけどね」
「そうかい、ところであんたのパートナーだっていうキリト君は?」
「早速川の方に行っちゃったわよ。あれがまた釣りバカだから…」
「釣りが趣味なんて今どき珍しいよな。ましてやドロイドだと…」
「でも楽しんでやってるみたいだからあまりとやかくは言わないようにしてる。ドロイドとはいえ個性は尊重させたいしね」
「まあそうだな。お互い人間らしい生活のためにはそういうのも必要だし」
「そうよね」
そんな立ち話をしていると、アスナの声が響く
「レイアさーん、準備できましたから来てください」
「おっと、テントの準備ができたか」
「じゃ、行きましょう」
2人はそそくさとテントサイトに向かう。

昼時、焚き火台の周りを囲んで全員が食事をしている。
「結構釣ったんだな」
「ええ、今日はそこそこに釣れましたね」
キリトが釣ってきた魚を串刺しにして焼いている。
「さすが元板前ドロイドだけあって魚の扱いは上手いよな」
「まあ、魚料理ならなんでもござれですよ」
正とキリトが隣同士で話をしている。
そして焼き上がってみんなで食べ始めた。
「いただきまーす」
「うん、美味しい!」
「なかなかイケるよな、こんなところで釣れる魚でも」
そんな中、1人戸惑ってる人もいる。
「レン君、食べないの?調子悪い?」
「いや、あまりこういうのって苦手で…」
「そんな事言わないで、一気にかぶりつきなさいよ。ほら子どもたちだってかぶりついてるんだから」
「お兄ちゃんもほらほら」
「…うん」
アルルに急かされながらもレンが食べ始める。
「はは、やっぱりインドアだからあまりこういうのは食べ慣れてないんだな」
「余計なお世話だよ。好みじゃないってだけ」
「ま、そんな事言わずに食べて」
「…まあ、悪くはないかも」
焚き火の周りで会話が進む

---その夜、BBQも終わり、焚き火台にわずかに残る火の前でレンがじっと火を見つめている。
「おう、何やってるんだい」
ルークが横に座る。
「うん、動画では時々見てるんだけど、こういう火を見てるのって好きで…」
「へえ、そんな趣味があるんだ」
「引きこもり時代はよくそんな動画ばかり見て1日を過ごしてたよ。そんな時を思い出すから…」
「そうか…それを変えてくれたのがアスナちゃんなんだろう?」
「…うん」
「探してたって聞いてるけど、あわよくば自分のものにしようと考えてたんじゃないかい?」
「それ…もあるけど」
「まあ奇しくも俺が次のマスターになるわけだけど、淋しくないかな?」
「ううん、あそこまで言ってくれてありがとうの一言しかないです。また会えるなら…」
「まあ、就職先のカフェじゃ早速人気店員になってるって、土日は予約でいっぱいになることも珍しくないって聞いてるよ」
「やっぱりそうなんだ、前のカフェでもなかなか予約取りにくかったし…」
「そうか…なにか惹かれるものがあるんだな。それが彼女の持ち味なのかも」
「ところで、こんなこと聞くのもあれですけど、あなたはここにくるまであちこちの戦場にいたと聞きますが、ここで根を下ろそうと思ったきっかけは?」
「そうだな…妹がいたというのもあるけど、やっぱりドロイドが脅威じゃない世界というのがあったのもあるな。お話したり、一緒に遊ぶなんてなかったことだから」
「…でもこの世界にもドロイドを嫌う層は一定数いますが」
「最初は自分だって信じられなかったよ。でもここに来てから変わった」
「そうですか…自分は小さい頃からドロイドがいたので気にはしてなかったですけど」
「ま、これからお互い様だからまた一緒に遊ぼうな」
「え、ええ…よろしくお願いします」
その後2人は火が消えるまで語り合っていた。


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