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導入事例の基本の「き」

 今回は、B2Bのマーケティングでよく活用される「導入事例」について、どんなことを取材して、どんなことに配慮して作るのか、基本の「き」をノートしてみました。
 「なぜ導入事例を取り上げたのか」というと「何もセールスコンテンツがない!」という時に、顧客にも販売店にも有効かつ、(ビジネスにも依りますが)他のコンテンツ制作と比較しても取り組みやすいから、です。
 このノートでは、まだ導入事例を制作したことがない人を対象に、あくまで初歩の基本の「き」として、どのように点に気を付けて作成すれば良いか、をまとめてみました。


導入事例はセールスツールの1つ

 B2Bの商材検討でも、営業に問い合わせをせず、ネットで自分で情報収集する人がほとんど、という中で、導入事例はとっかかりの情報として参考にされることが多いコンテンツです。
 よくできた導入事例は、有効なセールスツールとして、B2B商材を扱っている企業のウェブサイトでも、アクセス数が多い、メインコンテンツの1つです。

導入事例はどんな時に役立つのか

 では、一体どんな人がどんな時に、どんな理由で閲覧しているのでしょうか。
 以前ヒアリングしたことがありますが、多くの場合には、「自分の業界の隣の人から学ぶ」「導入後のイメージを持って商材検討をする」というのが理由のようです。 
 そこから導入事例の役割は、以下の4つに集約されるのではないかと思っています。

【導入事例の役割】
1)製品への関心を持つきっかけ
2)導入後の成果・効果イメージを持たせる
3)導入事例の顧客に共感を持たせる
4)顧客が製品を選ぶ・社内承認を得る際の説得材料の一つ

導入事例 vs 社数・獲得ロゴ 

 その商材が広く導入されていることを示すため、導入社数や導入企業のロゴをウェブサイトに掲載することがあります。
 「導入社数 XXX」「XXX製品導入シェア No.X」「導入企業:XXX様、XXX様、XXX様」などの文句を、B2B企業のウェブサイトでよく見かけますよね。
 これらは「定量的」に「みんなが使っているなら横並びで自分も使ってみようか」「これだけ使われているなら間違いなさそう、安心」と、思わせるための1つのやり方です。
 ちなみに、商材によって、すでに成熟市場であれば「社数」「シェア」の方が購入を促す際に有効なこともあります。
 導入事例は、数で圧倒する・信頼を得るのではなく、ストーリーで共感してもらう・説得するのに有効だと言えるでしょう。

良い導入事例には、「ストーリー」「リアリティ」「共感」がある

 良い導入事例とは、
  ・きちんとしたストーリーがあること
  ・リアリティが感じられること
  ・共感を得られやすいこと
 ものだと個人的には思っています。

「きちんとしたストーリーがあること」
これは、読み物として読みたくなるか、読んでみて納得感があるか、という点で大切なことだと思っています。
 時に、取材先の企業が導入事例を自社のサイトやメルマガ、ソーシャルなどで「導入事例に載りました!」と拡散してくださることもあります。
 取材先の企業が「どんな顔、どんなイメージを外向けに見せたい」かまでを意識して、導入事例のストーリーの中にそれも含まれていると、取材先からの積極的な協力を得やすくなりますね。

「リアリティが感じられること」
これが大切な理由は、顧客からの信頼感を得るのに有効なのは「企業側の声」でなく、具体的な「顧客からの声」であるから、です。ですから、ある程度の苦労ばなしなどもストーリーに含めることで、リアリティや共感を持たせることも必要だと思います。

「共感を得られやすいこと」
これは、「これを入れたら自分たちもこうなれる!」と購入後のイメージを描きやすい、もっと端的に言えば「欲しい!」と思ってもらうために必要なことです。


導入事例の作成ステップ

 では、導入事例を作成するのには、どのように準備を進めたら良いのでしょうか。


【導入事例作成の作業ステップ】

事前準備
導入事例の制作目的、アップ場所、活用シーン、アウトプットの形式、制作チーム、制作プロセス、取材企業の選定方法、をまとめます。

[ポイント]
 導入事例を営業活動でどう利用するか、どのように取材依頼をするか、については営業チームともよく話し合うことが大切です。特に、取材企業を選定する作業や取材交渉には、営業チームにも協力してもらう必要がありますので、マーケティングだけではなく営業チームも巻き込みましょう。
  ↓
ステップ0
導入事例を作成するにあたり、必要なアセットを準備します。

[必要なアセット]
・事例テンプレート - アウトプットのイメージを準備しておく
・取材依頼テンプレート - 協力を依頼する際の確認項目、開示項目を整理
 (外部制作会社を利用する際には、制作会社用と取材先用の2つを用意)
・記事作成ガイド - 取材する方に提示する制作時の留意事項をまとめたもの

[ポイント]
 取材する前にこれらのアセットは用意しましょう。質問事項や依頼時にお願いすることは、あらかじめ整理しておくと、取材交渉がしやすくなります。
  ↓
ステップ1
対象となる企業をリストアップ します。

[ポイント]
 取材を受けてくれるか最初は分かりませんので、1社に対して5つから10つほどの候補リストがあると安心です。
 営業が「獲得したい顧客像」に類似した導入企業をリストアップするのが理想です。実際には、取材しやすいところもリストに追加する必要があるので、バランスを見て選定しましょう。
  ↓
ステップ2
リストアップした企業から導入事例取材を受け入れてもらえるか交渉。

[ポイント]
 取材依頼時には、①導入事例の使用目的、公開先、②取材内容、③制作・確認プロセス、④協力した側へのメリット・お礼、などを、取材依頼書をベースに説明します。
  ↓
ステップ3
取材OKをもらった企業から順に取材スケジュールを確定し、インタビュー、原稿制作を進めます。

[ポイント]
 取材時に気を付けるポイントは、後ろの章「取材インタビューの心得」で改めて紹介します。
  ↓
ステップ4
原稿チェックを取材先に依頼、社内のレビューをかけた上で公開、取材先にお礼の連絡します。

[ポイント]
 ウェブ公開後には必ずアクセス数の推移を確認して、閲覧されているか、有効なコンテンツとして評価されているかを確認してください。公開したら終わりではありません。

取材準備、どんなことすればよい?

 導入事例が良いものになるかどうかは、取材でいいネタを掴めるかどうかにかかっています。行き当たりばったりで取材するのではなく、事前の取材準備をきちんとやっておくことが、最初の頃には特に必要です。

 特に気を付けるのは、こちら側として「伝えたいこと」がきちんと取材の中で引き出せるように、取材項目と想定アウトプットイメージを作っておくと安心して取材ができます。

 あわせて、取材先もリラックスして取材を受けていただけるように、質問票はあらかじめお渡ししておけると良いでしょう。


【事前調査項目】
・会社情報
・業種、従業員数、地域など
・インタビューされる人の情報(立場)
・導入製品名(複数製品ある場合には明記が必要)
・導入の背景(導入前の課題を明確化する)
・導入の効果(導入前と導入後の課題と解決、その違いを明確にする、   数値化できれば数値で表現する)

予め営業や取材先に依頼時にヒアリングをしておくと良いでしょう。

【一般的な質問項目】
・導入の背景
・選定の理由・プロセス (競合比較はどうしたか、検証時のエピソード)
・導入時の様子・運用状況(苦労した点があればそれをどうクリアしたか、 良かった点を入れる)
・今後の展開・展望

商材の印象や使い勝手など、商材について訴求したい点などの質問項目を
追加しましょう。 

【撮影が必要な写真】
・取材先のオフィスや会社のイメージ
・インタビュイーの方のお写真 - 取材当日に撮影が一般的
・取材中のお写真 - 自然な対話シーン
・社名、ロゴが入っている写真

インタビュー開始前に撮影角度、撮影場所の確認をしましょう。

【話の流れ】
1. 導入の背景
2. 導入前の状況(課題)
3. 導入選定の様子、選定の理由
4. 導入時の様子・運用状況
5. 導入後の状況(効果)
6. 今後の展開・展望

 一般的には、問題解決型の「Before vs After」の形式でストーリーを整理すると導入成果が分かりやすいのと、他の事例と効果を比較しやすいかと思います。
 ただ、取材内容や導入事例の使い方によっては、ストーリーをわかりやすい章立てにする、という方が分かりやすいこともあります。
 また、どこに記事を掲載するかによって、成果にフォーカスを当てるのか、プロジェクトにフォーカスを当てるのか、導入した人にフォーカスを当てるのか、で編集も変わってくるかと思います。



取材インタビューの心得

 取材インタビューは導入事例記事を書くための、大切なネタ収集の機会です。この時にいいネタを仕入れられたか、はその導入事例の出来の良し悪しにも関わります。
 できるだけ取材インタビューでは、取材先にリラックスして、本音で話しをしてもらえる雰囲気作りにも配慮できると良いでしょう。

 個人的に、導入事例の取材インタビューの際に気を使っていたことをいくつか、以下にリストアップしています。


【取材の心得】
1. できるだけお客様の声を取る :
   ・お客様のリアルな声、共感を得られそうな声を取る
2. 数字化できるものがあれば数字をもらう :
  ・取材の際にあえて数字で聞く
3. 時にマイナスなコメントもあるがそれもきちんと拾う:
  ・マイナスをプラスにした方法、苦労した点もコンテンツになる
  ・リアリティのためにはそれを排除しない、嘘をつかない方がいい
4. できるだけ具体性を持った話を引き出す(エピソード) :
  ・一般的な言葉で表現されたら具体的な体験などを引き出す
  ・お客様の言葉で話してもらうように仕向ける
5. 導入前と後で効果がはっきり見えない場合:
  ・細かいレベルでも良いので違ったことを丁寧に聞く
  ・小さいと思うことが共感につながることも
  ・丁寧に拾うことでネタを見つける
6. 自分たちが言いたいことが引き出せなかったら:
  ・誘導尋問にはなりますが、質問の形でぶつけてみる


 最近では動画インタビューコンテンツとして活用することもありますので、動画OKであれば動画でインタビューを録画するのもありですね。

編集の心得

 取材インタビューが終了したら、いよいよ編集作業に入ります。取材に同席している場合には、取材終了後に編集会議を簡単に行います。
 その時のチェックしているポイントは以下の通りです。


・インタビューできちんと質問項目を網羅できていたか
・インタビューを通じて記憶に残った言葉は何か
 (タイトル、冒頭に持ってきたい言葉があったか)
・インタビューの中で記事に載せたい情報(数字、セリフ、エピソード)
・ストーリーの流れ(イメージができている場合には)


 取材に同席していない際には、上記のような内容を電話などで共有してもらい、話の筋をある程度イメージしながら、インタビューのテープお越しをを聞きます。
 ちなみに慣れているケースでは、これはスキップして、いきなり導入事例記事を編集してもらうこともあります。その時には、録音をもらって確認しながら、あがってきた記事を見直します。

記事公開時のデザインの心得 

 さて、最後は導入事例記事をどうかっこよく見せるか、です。
 ウェブページとして仕上げる場合には、ウェブページ上で読みやすいレイアウトでページのテンプレートを予め用意しておきます。
 B2B企業の導入事例ページを閲覧して回ったことがありますが、文字が小さくて読みにくい、行間が詰まっていて読みにくい、章立てがされていなくて読みにくい、などレイアウトの問題で離脱したくなるものもありました。
 せっかく取材に手間をかけた導入事例なので、できれば読みやすいレイアウトデザインを意識できると良いですね。

 導入事例の見せ方には、以下のようなスタイルのものがあります。

  ・一問一答のインタビュー形式のもの
  ・Before vs Afterで時系列形式のもの
  ・コンテンツ記事形式のもの
 
 最近では、コンテンツ記事形式にインデックスは自由に、その時々で伝えたいポイントがインデックスから把握できるような形式で書かれた導入事例も増えていますね。

KARTEの導入事例:記事形式で章立てしたもの、インデックスで話の筋が想像できそう
サイボウズ Officeの導入事例:文章内のポイントにマーカーがされていて読みやすそう


ウェブだけ?それともPDFも必要?


 ちなみに、ウェブでの見せ方については、全文を1ページに見せるやり方もありますが、記事の一部を圧縮してウェブページに掲載して、全文はPDFをダウンロードすると閲覧できる、という形式で公開するのもあります。
 導入事例をどう活用してもらうか、そのユースケースに合わせて、公開方法を検討します。
 ちなみに、導入事例の公開先は「ウェブだけで良いか?」については、個人的にはウェブもPDFも両方あった方が良いと個人的には思っています。
 ウェブとPDFでは利用の仕方が違っているケースがあるからです。
 過去の例では、PDFは、社内の稟議書に添付するものとして利用されていたこともありますし、印刷して販売代理店の営業マンがセールスツールとして配っていることもありました。

導入事例、数が多ければ検索の仕方も考える

 あわせて、複数の導入事例をウェブサイトに公開している場合には、サイトに訪問してきた人が閲覧したい記事をすぐに探せるよう、タグなどを付与する工夫も大切ですね。
 コンテンツはたくさんあれば良いのですが、たくさんありすぎても欲しい情報を探せない、宝の持ち腐れになることもあります。
 たくさんあるのであれば、欲しい情報をすぐに探せるようなデザインを考えること、これもまた大切な視点ですね。

導入事例ページに次の動線を用意する

 せっかく導入事例を興味を持って見てくれたにも関わらず、その次のステップが用意されていないウェブページを見かけることがあります。
 導入事例を閲覧しただけで離脱されるのはもったいないので、次の検討行動にスムーズに遷移できる動線を用意し、回遊するかをぜひ観察してみてもらいたい。


【最低限必要なのは以下の2つ】
・導入事例を探している人向け
  →次の導入事例への動線
・製品について調べたいや試したい、問い合わせなどをしたい人向け
  →関連製品、体験版、関連資料ダウンロードなどへの動線



外注を使う際の心得

 信頼おける外注先がある場合には良いのですが、初めて外注先を導入事例取材で利用する場合には、最初の2〜3回程度は同行することをお勧めします。
 相性もありますが、取材インタビューからどんなネタを拾うか、聞き出すか、などの感覚を擦り合わせておくと安心だからです。
 いきなり同行なしで進めて、「取材インタビューを聞いてこんな感じではなかったんだけど・・・」と思うよりも、同行してすり合わせる方がその後の取材依頼・制作進行がスムーズかな、と思っています。

ある会社でのエピソード  〜「かっこいい」>「導入効果」の導入事例


 全くの余談ですが、ある外資系企業での導入事例作成でのちょっと苦い経験について、少しお話しさせてください。
 このエピソードでは、「B2Bの導入事例では、感覚的なイメージが伝わればいいのか、具体的な導入成果が伝わるべき、なのか」を考えたいと思います。

 導入事例で何を伝えるべきかは、人によって違うケースがあるので、同じマーケティングチーム内でも、認識合わせをしておく必要があります。

「かっこいい」というイメージが伝わればいいのか

 ある外資系IT企業(BIツールの会社)に入社してすぐに、導入事例のインタビューを担当をすることになりました。
 この時に、これまでの取材での質問項目の確認とあわせて、「導入事例を作成する際に、何をポイントでPRできると良いのでしょうか?」と上司のマーケティングマネージャーに質問しました。
 「かっこいい」と返されたので、思わず「え?かっこいいでいいんですか?会社・部署としての導入メリットとかは?」と聞き返してしまったら、苦い顔をされた、というお話です。

導入するのは組織なのか、個人なのか
 
 さて、このお話の中には、「かっこいい」>「導入効果」か、それとも「かっこいい」<「導入効果」か、その商材を導入するのが組織なのか、個人なのか、か、という問いが含まれています。
 つまり、「ビジネスとしてどのレベル(組織なのか個人なのか)の導入しを進めたい」のか、ということで「何を伝えるか」は変わってくるのではないかと、その時、私は考えていました。
 本来は、そうしたディスカッションをすべきだったのかも知れませんが、この時にはそうしたことはありませんでした。
 
「使っていることがクールであること」を伝えるなら

 開発者や技術者向けの製品を扱うマーケティングでは、「その商材を使うこと自体がクールだ」というブランドイメージを作り出す、そうしたマーケティングアプローチもあります。
 「クールな新しい体験」「クールな人たちが使っている」というブランドイメージを作り出すことは、開発系のサービスやアプリなどで、有効なマーケティング手法の1つだと思います。
 それは「その人たちがやっていること自体がクールである」と思われることが重要なので、それが伝わるようなエピソードを導入事例で選ぶことが大切なのではないかと思っています。

導入事例で何を伝えるべきか

 「導入事例で何を伝えるべきか」で何を取材すべきか、は変わるので、必ず押さえておきたいですね。

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