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少年の死 はじまり

中学2年の7月28日、僕は人を殺した。
相手のことは名前も知らない。
恨みも妬みもない。
小説のような計画や想いもない。
ただの思いつきで、僕は人を殺した。

いつもの通学路、いつもすれ違うスマホ歩きの大学生。いつも捕まる赤信号。

ただその日は、赤信号を待っているのは僕と大学生だけだった。
大学生は背中を丸めてスマホに集中している。
緩やかなカーブから一直線に変わる車道。
青信号を見るとスピードがあがる車。

ふと、僕は赤信号を渡った。

隣にいた大学生は、僕が動いたことにつられて、数秒遅れて歩き始める。
ふと顔をあげ、信号がまだ赤いことに気付く。

耳をつんざくブレーキ音
鈍い衝撃音と空中を飛ぶ大学生
地面に叩きつけられたとき、手足はあり得ない方向を向いていた。
ゴムが焼ける匂いと鉄臭さが混ざる。
叫び声、徐々に集まる人、人、車

僕はそっとその場を離れた。

想像以上に冷静だった。
そのままいつも通り学校へ行き、いつも通りの日常を過ごした。

帰り道、横断歩道には黄色いテープが張られ、警察が数人うろうろしている。
事故のあとはそれだけ。
壊れた車も壊れた大学生も跡形もない。

静かな興奮が今更僕の胸を熱くする。
目があった警察官に軽く会釈をし、ゆっくりと歩く。今すぐにでも走り出したかった。

角を曲がり、数歩歩いてから走り出した。顔がにやけるのをおさえられない。
僕はただ一歩足を踏み出しただけ。
それだけで、あっけなく人が死んだ。

死ぬかもしれない。と思い、
意図的に彼を死へ向かわせた。

もし、他に誰かいたら
もし、あの時車がこなかったら
もし、大学生が顔をあげていたら
もし、少しでもタイミングがずれていたら
もし……

計画的ではない。が、意図的に
僕は彼を殺した。


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