見出し画像

【感想】星条旗の憂鬱 情報分析官・葉山隆(五條瑛)

個人出版の「Analyst in the Box1」を改題、文庫化した、鉱物シリーズの連作集です。
「極東ジャーナル」に主人公 葉山隆を訪ねてきた神奈川県警外事課の警官が持ち込んだ人探し。
冬樹さんが探す脱走兵は何に関わってしまったのか。
エディの代わりに隆さんが出席した、とある重機メーカー会長の告別式。
それぞれ別々の出来事を扱う6編の物語からは、日米地位協定に代表される日本と米国の関係性と、その狭間で生じる様々な立場の人々の思惑を感じます。
そこには、単純な構図には収まりきらない日米の現実も……

(以下、ネタバレあり)

隆さんは、日本で生まれ育ちつつ、国籍は米国で在日米軍情報機関の末端に属しており、折に触れて突きつけられる日米間の複雑な状況に割り切れない思いを感じています。
ひとつひとつは耐えられない程ではない違和感。
都度、胸の裡に押し込めるそれらを、いつか隆さんは飲み下すことになるのでしょうか。あるいは、容量を超えてしまう日が?
お前は米国の人間なのだと教え込むように隆さんに現実を見せつけるエディと、「お前はいつまでその箱の中で守られているつもりなんだ」と問いかけるサーシャ。
彼は、どちらの側を、あるいはどちらでもない別の道を、選ぶのか。
先の見えないそんな危うさが、関係者が隆さんから目を離せない理由なのだろうなと思います。

本作では、サーシャのほかにも、ギャラリー『ミューズ』のオーナー亮司、『中華文化思想研究所』の仲上さん(喪服姿の隆さんを連れ歩いてご満悦!)、岩国基地に異動になったらしいタキさんなども登場します。
また、洪が韓国内の政権交代を受けて北海道に飛ばされたとの噂も。「美しい北海道が汚れる」との隆さんの評はなかなか強烈。

民間企業からの技術情報の流出や日本の兵器産業の未来といった論点も、興味深いトピックです。
多くの先端技術が民間から生まれる今日、開発の端緒の段階で軍用と民用を切り分けることなど困難ですし、使い方次第で軍事にも使える民生品も多数存在します。
さぁ兵器に使用できそうだとなったとき、その情報をいかにして護るのか。民間企業の販売戦略に国がどうこう言うことができるのか。
エディは、自分たちが兵器産業をコントロールしてきたように、日本政府にもできるはずだと言いますが、果たして…
護るべき情報もその護り方も、きっと刻々と変化しているのでしょう。
情報機関は、守秘を語りつつ同時に相手から情報を抜き取ってもいるわけで、改めて因果な商売だと思うとともに、常に進化を求められる世界なのだなと、そんなことを考えました。


この記事が参加している募集

読書感想文